労災保険の保険料率は事業の種類によるだけでなく、その事業場での労災の発生状況を踏まえた割増・割引があります。

2024/04/05|1,049文字

 

<メリット制の趣旨>

労災保険の保険料率は、事業の種類ごとに災害率等に応じて定められています。

しかし、事業の種類が同一であっても作業工程、機械設備あるいは作業環境の良否、事業主の災害防止努力等により各事業の災害率には差があります。

そこで、事業主負担の公平性の観点から、また、事業主の災害防止努力をより一層促進する観点から、その事業の災害の多寡に応じ、40%の割引から40%の割増の範囲内で、労災保険料を上げ下げする仕組みがあります。

これが労災保険のメリット制です。

 

<誤った対応>

「労災保険を使うと保険料が高くなる」という短絡的な理解から、企業が労災保険手続を避けようとすることがあります。

しかし、これでは被災者が救われません。

不正に健康保険を使った場合、治療の長期化や後遺症の発生などによって、企業の責任が重くなってしまうこともあります。

 

<メリット制が適用される事業>

労災保険の適用開始から3年以上経過した後の4月1日からは、常時100人以上の労働者を使用する事業にメリット制が適用されます。

常時20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって、その使用労働者数に、事業の種類ごとに定められている労災保険率から非業務災害率を引いた率を掛けて得た数が0.4以上である事業にもメリット制が適用されます。こちらは、社内で計算して確認することがむずかしいでしょう。

どちらの場合にも、毎年6月に厚生労働省から送付される「年度更新申告書」に「労災保険率決定通知書」が同封されていることで、メリット制の適用対象であることが分かります。

結局、常時使用する労働者が19人までの事業には、メリット制が適用されないことになります。

 

<メリット制の計算方法>

労災保険率を上げ下げする基準は、3月31日までの連続する3保険年度の間でのその事業の一般保険料の額から、通勤災害の非業務災害率に応ずる部分の額を引いた額に調整率を掛けた額と、業務災害への保険給付と特別支給金の額との割合により算出される収支率(メリット収支率)によります。

結局、連続する3保険年度の間で業務災害への保険給付が多ければ、メリット収支率は上がり、少なければ下がることになります。

 

<実務の視点から>

メリット制を意識して、労災保険手続を控えても、労災が発生すれば、会社の生産性は低下してしまいます。

むしろ、従業員に対する労働安全教育の強化や、危険箇所への注意表示の増加などによって、労災の発生防止に努めることで、労災事故の減少を目指すのが望ましいといえます。

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