労務不能の判断

2023/06/24|1,667文字

 

<働けないときの給付>

業務が原因のケガや病気で働けないときは、労災保険の休業補償給付が支給されることがあります。

通勤が原因のケガで働けないときも、労災保険の休業給付が支給されることがあります。

また、業務や通勤とは無関係な原因によるケガや病気で働けないときは、健康保険の傷病手当金が支給されることがあります。

これらの「働けないとき」というのは、一般的に療養を担当する医師によって、「労務不能」と認定された場合を指しています。

 

<労務不能のイメージ>

「労務不能」という言葉の印象からは、「全く働けない状態」をイメージする人も多いと思います。

しかし、ある程度回復した労働者に対して、医師が「もう軽い業務ならできそうですから、労務不能ではないですね」と言うこともあります。

そして、医師が「業務への復帰を認める。ただし、軽い業務から徐々に慣らすこと」という内容の診断書を作成して、労働者に交付し、会社に提出するよう説明することもあります。

これが会社に提出されると、会社が小規模であるほど、「軽い業務から徐々に慣らす」という対応が難しいですから、その労働者は復帰させてもらえません。

 

<労務不能の正しい意味>

労務不能とは、保険加入者(被保険者)が今まで従事していた業務ができない状態のことで、労務不能であるか否かは、医師の意見、被保険者の業務内容、その他の諸条件を考慮して判断されます。

「医師の意見」というのは、主に療養担当者つまり治療を担当する医師の意見です。対象者の業務内容から考えて、病気やケガの程度や回復具合から、今まで従事していた業務ができるかどうかを判断するのです。

たとえば、外回り営業に従事していた人が脚にケガを負って、まだ回復が不十分であっても、事務の業務ならできるということがあります。それでも、今まで従事していた業務ができるわけではありませんから、やはり労務不能と判断されます。

 

<業務内容がポイント>

療養を担当する医師は、病気やケガの具合を判断することは得意なのですが、対象者の業務内容を具体的に知っているわけではありません。

ですから、対象者本人や会社の担当者が、医師に対象者の業務内容をわかりやすく説明する必要があります。特に病気やケガとの関係で、業務上の困難な部分をよく説明しておく必要があります。

また、傷病手当金の支給申請書や休業(補償)給付の支給請求書には、業務内容を記入する欄があります。ここには「事務員」といった抽象的な表現ではなく、少なくとも「経理担当事務」「自動車組立」「プログラマー」などある程度具体的に記入することが求められています。

医師に対しては、さらに詳しく具体的な業務内容を伝えて、医学的見地からの判断を仰ぐことになります。

 

<労務不能とは判断できない場合>

病気やケガで仕事を休んだとしても、それは本人が大事をとって休んだに過ぎず、決して働けない状態ではなかったということがあります。

この場合、医師は病気やケガの存在を認め治療はするのですが、労務不能の証明はできないことになります。

たとえ休業した被保険者から「休んでいたから、傷病手当金が欲しいから書いてください」と言われても書けません。

 

<コミュニケーションの問題>

従業員がケガや病気で休業している場合、会社はその従業員に対して定期報告を義務付けることが多いでしょう。最低でも受診の都度、治療や回復の進捗を報告させるのです。

これに対して、会社はその従業員の上司とも相談し、業務復帰の可能性や、復帰できるために必要な回復状況、復帰に当たっての会社の配慮などを説明します。

こうした報連相をしておけば、その従業員が受診の際に医師に対して「会社とも相談していますが、まだ左脚が十分に曲がらないので、倉庫での荷物の上げ下ろしに危険を伴うため、すぐには復帰させられないと言われています」など、労務不能を判断するのに必要な情報を与えることが可能となります。

休業中の従業員から、しばらく連絡がない場合には、会社側からその従業員に連絡をとってみるという配慮も必要でしょう。

 

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