雇用継続給付の受給手続は受給者と従業員との共同作業となります

2025/02/11|791文字

 

<事業主の協力>

高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付に関する受給資格確認と支給申請の手続は、原則として、その対象者(被保険者)を雇用する事業主を経由して行うよう協力が求められています。

もし、手続に詳しい人がいなければ、社会保険労務士に依頼するなどして、受給が遅れないようにしましょう。

 

<通知書と申請書>

ハローワークで雇用継続給付についての支給決定が行われると、コンピューターでの処理後、「支給決定通知書」と「次回の支給申請書」が交付されます。

これらの書類には、次の3つの役目がありますので、対象者本人(被保険者)に渡しましょう。

・支給金額を通知する。

・次回の支給対象期間と支給申請の期限を通知する。

・高年齢雇用継続給付の場合には、年金との併給調整手続に使用する。

 

<正しく手続を>

高年齢雇用継続給付の支給額は、原則として、60 歳到達時(休業開始時)の賃金額と支給対象月(対象期間)に支払われた賃金額とを比較し、その低下に応じて決定されます。

そのため、給付金の支給決定後に、提出済みの賃金月額証明書や支給申請書について、賃金額の記載誤りや一部算入漏れ等があった場合には、正しい金額を計算し改めて支給するので、すでに支給された給付金を回収しなければならないケースが発生します。

 

また、育児休業給付や介護休業給付の支給対象期間中に職場復帰した場合の職場復帰日(介護休業終了日)の申告漏れがあった場合についても、正しく処理を行う必要があるため、上記と同様、すでに支給した給付金を回収しなければならないケースもあります。

 

こうした給付金の回収手続は、わずらわしいだけでなく、多額の給付金を一度に回収される場合もあるので、事業主や対象者(被保険者)に、かなりの負担・不利益を生じさせることもあります。

 

なるべく早く給付を受けられるよう、正確かつスピーディーな手続を心がけましょう。

職場での集団いじめと労災認定

2025/02/10|979文字

 

<集団いじめの危険性>

パワハラやセクハラは、加害者も直接の被害者も個人であることが多いものです。

しかし、職場環境や企業風土によっては、特定の個人が先輩や同僚から集団でいじめられることもありえます。

いじめによる自殺などの被害は、決して学校に限られたものではないのです。

 

加害者側は「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」という感覚、つまり、共同責任は無責任という感覚に陥っています。

「私だけが悪いわけではないから」という感覚でいじめに加わった場合、法律上はむしろ重い責任を負わされることになります。

刑法では共同正犯とされ、一部を実行したに過ぎなくても全部の責任を負わされます。〔刑法第60条〕

民法では共同不法行為とされ、実際に行為に及んだ人も、手助けした人も、そそのかした人も、ひとり一人が全ての損害に対する賠償責任を負わされます。〔民法第719条〕

 

<大阪地裁 平成22(2010)年6月23日判決>

被害者の女性は、同僚の複数の女性社員たちから集団で、しかも、かなりの長期間継続していじめを受けました。

その内容も、陰湿で常軌を逸した悪質なひどいいじめでしたから、被害者の女性が受けた心理的負荷は強度なものでした。

上司たちは気づかなかったり、気づいた部分についても何ら対応を採らなかったりという無責任な態度でした。

ついに、被害者の女性は上司に相談するのですが、上司が何も防止策を採らなかったために、かえって失望感を深めてしまいました。

こうして、被害者の女性は不安障害と抑うつ状態を発症し、労災と認定されたのです。

 

この被害者女性は、特に弱い人ではなく、同僚の女性社員たちからの集団いじめと、会社の不対応が発症の原因であると裁判所により認定されました。

 

この事件では、労働基準監督署に対する労災保険の給付請求があったのに対して、労働基準監督署長が不支給の処分をしたため、被害者の女性が裁判所に訴えを起こしたのでした。

行政の判断が最終結論ではなく、それに不服があれば、訴訟により決着をつけるという道が残されています。

会社から見れば、こうした事件を予防するためにも、多くの労働裁判例を検討して対策をとる必要があるということです。

「とてもそこまで行う人材を社内で確保できない」ということであれば、労働法に明るい弁護士や社会保険労務士に依頼することも考えなければなりません。

雇用保険の対象にならない人は限られています

2025/02/09|1,287文字

 

次の各項目のどれかに当てはまる労働者は、雇用保険の対象者(被保険者)とはなりません。

反対に、どれにも当てはまらない労働者を、雇い主側の判断で、対象から外し手続を行わないのは違法となります。

 

<1週間の所定労働時間が20 時間未満である人>

「1週間の所定労働時間」とは、就業規則、雇用契約書などにより、その人が通常の週に勤務すべきこととされている時間のことをいいます。

この場合の通常の週とは、祝日やその振替休日、年末年始の休日、夏季休暇などの特別休日を含まない週をいいます。

1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合には、その1周期の所定労働時間の平均を1週間の所定労働時間とします。

また、所定労働時間が複数の週を単位として定められている場合は、各週の平均労働時間で考えます。

1か月単位で定められている場合は、1か月の所定労働時間を12倍して52 で割った時間とします。

1年単位で定められている場合は、1 年の所定労働時間を52 で割った時間とします。

52で割るのは、1年がおよそ52週だからです。

所定労働時間は、残業手当の計算や、年次有給休暇取得時の賃金計算に必要です。

そして、基本的な労働条件として、労働条件通知書などの書面により、労働者に通知することが雇い主の法的義務とされています。

ですから、所定労働時間を決めないことは、雇い主に複数の罰則が重ねて適用される結果をもたらします。

どうしても決め難いのであれば、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

 

<同一の事業主の適用事業に継続して31 日以上雇用されることが見込まれない人>

「31 日以上雇用されることが見込まれる」というのは、次のような場合です。

・正社員など雇用期間を定めずに雇う場合

・有期労働契約で、最初の雇用期間が31日以上である場合

・有期労働契約で、最初の雇用期間は30日以内だが、契約期間の更新が予定されている場合

・有期労働契約で、最初は契約期間の更新を予定していなかったが、途中で更新することになり、結果的に31日以上の契約期間となる場合

・有期労働契約で、最初の雇用期間は30日以内だが、同様の契約で働いている人の多くが契約を更新され、実態として31日以上雇用されることが見込まれる場合

 

 <季節的に雇用される人であって次のどちらかにあてはまる人>

・4か月以内の期間を定めて雇用される人

・1週間の所定労働時間が30 時間未満の人

※いわゆる季節雇用の人についての基準です。

 

<学校教育法1条の学校、124 条の専修学校、134 条の各種学校の学生または生徒>

昼間の時間帯の授業に出席することの多い学生などです。

通信制、単位制、定時制などの場合には、雇用保険の対象となります。

 

<船員であって、特定漁船以外の漁船に乗り組むために雇用される人>(1年を通じて船員として雇用される場合を除く)

 

<国、都道府県、市区町村などの事業に雇用される人のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、雇用保険の求職者給付および就職促進給付の内容を超えると認められる人>

新店などが小さくて雇用保険の手続をする人がいないときに便利な申請

2025/02/08|860文字

 

<雇用保険の手続の原則と例外>

雇用保険に関する事務処理は、原則として事務所、営業所、出張所、店舗などの事業所ごとに行うことになっています。

 しかし、事業所の規模が小さくて、雇用保険の手続を担当する人が置けないなどの事情がある場合には、その事業所の所在地を管轄するハローワークに「雇用保険事業所非該当承認申請書」を提出し承認を受けることによって、本社、支社など上位の事業所が一括して手続を行えるようになります。

この場合、事業所の規模が小さいというのは、従業員の数が少ないとか、面積が狭いということではなくて、機能的に独立性を保てないことを意味します。

あくまでも、申請して承認を受ければ可能になるということですから、申請せずに会社の判断で本社、支店などがまとめて手続できるわけではありません。

 

<申請が承認されるための条件>

申請が承認されるためには、労働者が働く場所や施設(事務所、営業所、出張所、店舗など)が、次の条件をすべて満たすことが必要です。

ただし労働保険について、継続事業の一括が認可されている施設は、原則として条件を満たさなくても大丈夫です。

 

●事業所非該当承認基準

・人事上、経理上、経営上(または業務上)の指揮監督、賃金の計算、支払などに独立性が無いこと。

・健康保険、厚生年金保険、労災保険などについても、本社や主たる支社で一括処理されていること。

・労働者名簿、賃金台帳などの法定帳簿類が、本社や主たる支社に備え付けられていること。

 

この3つの条件のうち、1つ目の独立性については判断が微妙となりがちです。

不安があり、直接ハローワークに確認しにくい場合には、社会保険労務士にご相談ください。

 

<申請手続>

・提出書類・・・・・「雇用保険事業所非該当承認申請書」(41組)

・提出期日・・・・・申請しようとする都度すみやかに

・提出先・・・・・・・非該当承認対象施設の所在地を管轄するハローワーク

 

新たな店舗などで勤務する人について、雇用保険の手続が遅れてはいけませんから、後回しにせず、なるべく早く手続しましょう。

退職者の国民健康保険料の特例

2025/02/07|693文字

 

<退職後の健康保険>

退職後の健康保険には、今までの健康保険の任意継続、健康保険加入家族の扶養に入る、国民健康保険に入るといった選択肢があります。

多くの人は、任意継続と国民健康保険とで、保険料の安い方を選択します。

国民健康保険では、会社都合など非自発的離職をした人について、保険料(税)が減額される制度がありますので、対象者には会社から説明しておくのが良いでしょう。

 

<非自発的離職者の国民健康保険料(税)の軽減制度>

非自発的離職者の負担の軽減のため、国民健康保険料(税)の算定をする際に、前年の給与所得金額(他の所得は対象外)を100分の30の金額とみなして計算します。

これは、自己都合によらず離職した人の負担軽減措置であり、国の政策による制度です。

 

<対象者>

次の全てに当てはまる人が対象になります。

・離職日が平成21(2009)年3月31日以降

・離職時点で65歳未満

・ハローワークで失業の認定を受け次の事由に該当

雇用保険の特定受給資格者(例:倒産・解雇などによる離職)…離職理由欄が11、12、21、22、31、32

雇用保険の特定理由離職者(例:雇い止めなどによる離職)…離職理由欄が23、33、34

 

<軽減制度の対象期間>

軽減制度の対象期間は、雇用保険受給資格者証に記載されている離職日の翌日の属する月から翌年度末までです。

失業手当(雇用保険の基本手当)を受ける期間とは異なります。

 

<届出の方法>

健康保険証、雇用保険受給資格者証、マイナンバー(個人番号)確認書類、身元確認書類を用意のうえ、区市役所・町村役場で届出をします。

届出には、離職者のマイナンバーの記入が必要となります。

 

<退職者共通の特例免除>

申請者本人、世帯主または配偶者のいずれかが退職(失業等)された方で、納付が困難な方は、特例免除を申請できます。

https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kokuminnenkin.files/LN07.pdf

雇用保険の加入手続

2025/02/06|955文字

 

<資格取得と喪失>

雇用保険の適用事業所に雇用される労働者は、正社員、準社員、契約社員、パート、アルバイト等の呼称にかかわらず、原則として被保険者となります。

ただし、週所定労働時間が20時間未満などの例外があります。

日常用語では、加入者などといいますが、法律用語では保険の対象となる人という意味で被保険者といいます。

これらの労働者は、原則として、その適用事業所に雇用される日から被保険者資格を取得し、離職等となった日の翌日から被保険者資格を喪失します。

離職は退職に限られず、週所定労働時間が20時間未満となった場合等を含みます。

これら被保険者に関する手続は、すべて適用事業所の所在地を管轄するハローワークで行います。

 

<被保険者となる労働者を新たに雇用したとき>

・提出書類・・・・・「雇用保険被保険者資格取得届」

・提出期限・・・・・雇用した日の属する月の翌月10 日まで

・提出先・・・・・・・事業所の所在地を管轄するハローワーク

※提出期限は、東京都の場合は件数が多いため、雇用した日の属する月の翌月末日までとなっています。

 

<添付書類>

次のいずれかに該当する場合には、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード等)、その他社会保険の資格取得関係書類等その労働者を雇用したこと及びその年月日が明らかにするもの、有期契約労働者である場合には、書面により労働条件を確認できる就業規則、雇用契約書等の添付が必要です。

 

・事業主として初めての被保険者資格取得届を行う場合。

・被保険者資格取得届の提出期限を過ぎて提出する場合。

・過去3 年間に事業主の届出に起因する不正受給があった場合。

・労働保険料を滞納している場合。

・著しい不整合がある届出の場合。

・雇用保険法その他労働関係法令に係る著しい違反があった事業主による届出の場合。

 

株式会社等の取締役等であって従業員としての身分を有する人、事業主と同居している親族、在宅勤務者についての届出である場合には、雇用関係を確認するための書類の提出が必要です。

 

社会保険労務士、労働保険事務組合を通じて提出する場合には、次のいずれかに該当する場合のみ、添付書類が必要となります。

・届出期限を著しく(原則として6か月)徒過した場合

・ハローワークにおいて、届出内容を確認する必要がある場合

健康保険の扶養家族と収入などの条件

2025/02/05|462文字

 

<原則の基準>

扶養される家族の年間収入が130万円未満で、社会保険加入者(扶養する側の被保険者)の年間収入の半分未満であれば、扶養家族(被扶養者)になるというのが原則の基準です。

ただし、扶養される家族の年間収入が130万円未満であれば、社会保険加入者の年間収入の半分以上であっても、社会保険加入者の収入によって生計を維持していると認められる場合には、扶養家族になることができます。

 

<60歳以上の家族など>

扶養される家族が60歳以上の場合と、障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合には、年間収入の基準が180万円未満となります。

 

<別居の場合>

扶養される家族が社会保険加入者と別居している場合には、年間収入が130万円未満で社会保険加入者からの仕送り額よりも少ない場合に、扶養家族になることができます。

 

<20代から50代の配偶者>

20歳から59歳の配偶者を扶養家族とする場合には、健康保険の手続と同時に国民年金の手続が必要です。

社会保険に加入している側の配偶者が、勤務先に「国民年金第3号被保険者関係届」を提出します。

モデル就業規則には使用上の注意があります

2025/02/04|1,405文字

 

<モデル就業規則>

「モデル就業規則」は、厚生労働省(労働基準局監督課)がネットに公表しています。

誰でも、無料で使うことができます。

関係法令、通達、行政解釈に準拠していますので、適法な内容であることが担保されています。

必要な項目が網羅されていて、漏れがありませんので、企業の就業規則のひな形として、最適なものだと考えられます。

モデル就業規則の最新版(令和5年7月版)は、直近の関係法令等の規定を踏まえ就業規則の規定例を解説とともに示したものです。

このように、法改正などにもタイムリーに対応しています。

 

<注意点>

モデル就業規則には、活用に当たって次のような注意点が示されています。

 

本規則はあくまでモデル例であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければなりません。したがって、就業規則の作成に当たっては、各事業場で労働時間、賃金などの内容を十分検討するようにしてください。

 

ひな形である以上、職場の実態に適合するようカスタマイズは必須です。

しかし、「どこをどう考えて」というのは難しいものです。

以下、カスタマイズの必要性が高い項目について検討します。

 

<就業規則の形式>

 

パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。〔第2条第2項〕

 

就業規則を「正社員就業規則」「パート社員就業規則」「アルバイト社員就業規則」などに分割すれば、各従業員は自分に関わる規則だけに目を通すことができて便利でした。

しかし、同一労働同一賃金が意識されるようになり、雇用形態による待遇の差が注目されています。

現在は、1冊の就業規則に全雇用形態の規定を網羅することも一考に値します。

なお、非正規社員にはパートタイム労働者だけでなく有期雇用労働者もいるのですから、正社員とは別の雇用形態の就業規則を規定するのであれば、全雇用形態を網羅して定める必要があります。

 

<休職制度>

 

労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。〔第9条第1項〕

 

この規定によれば、一定の条件を満たした社員は自動的に休職となるわけです。

しかし、たとえば復帰の見込みが無い場合にまで、一定の期間休職扱いにするのは不合理です。

多くの企業にとっては、「所定の期間休職とする」のではなく、「休職を命ずることがある」にするのが現実的でしょう。

 

<あいまい表現>

 

その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。〔第11条第7号〕

正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。〔第68条第1項第2号〕

正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。〔第68条第2項第4号〕

素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。〔第68条第2項第7号〕

業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。〔第68条第2項第12号〕

 

禁止規定の「ふさわしくない行為」、懲戒規定の「しばしば」「著しく」「重大な」というのは、個人によって判断の分かれる表現です。

具体的な言動について、該当する/しないが紛争の火種となりますから、こうした言葉を使わない方が余計なトラブルを発生させずに済みます。

たとえば、上記で「しばしば」という表現の付いている行為については、その回数よりも影響度が問題となります。

業務や労働環境に与えた不都合を踏まえて、臨機応変に対応できるようにするためにも、余計な表現は排除しておくのが良いと考えられます。

ライバル企業での兼業を理由とする雇用契約の打ち切りは就業規則に規定があっても有効とは限りません

2025/02/03|1,580文字

 

<契約期間中の解雇>

労働契約法に、次の規定があります。

 

第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

 

この中の「やむを得ない事由」とは、契約期間の約束があるにもかかわらず、期間満了を待つことなく雇用を終了せざるを得ないような特別に重大な事由を指します。

日常生活で使われる「やむを得ない」よりもかなりハードルが高く、滅多に無いようなケースを指しています。

 

<裁判所の判断>

「やむを得ない事由」の有無を最終的に判断するのは裁判所です。

裁判例では、就業規則で副業を禁止しているケースでも、「職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しない」という判断が示されています。(上智学院事件 東京地判平成20年12月5日)

 

<判断の理由>

この判決は、判断理由として次のように述べています。

「就業規則は使用者がその事業活動を円滑に遂行するに必要な限りでの規律と秩序を根拠づけるにすぎず、労働者の私生活に対する一般的支配までを生ぜしめるものではない。

兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である」

 

<分かりやすく言うと>

従業員がライバル企業での兼業を始めても、それはプライベートの時間に行っていることなので、原則として禁止できないし、たとえ就業規則に兼業禁止を定めてあっても結論は変わらないということです。

確かに会社としては、「道義的にどうなのか」「裏切り行為ではないか」など、いろいろと不愉快な気持にはなります。

しかし、所定の労働時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由であり、職業選択の自由も保障されています。〔日本国憲法第22条第1項〕

憲法で保障された権利を、民間企業が否定することは、明らかな人権侵害になってしまうのです。

 

<兼業を禁止できる場合>

先述の上智学院事件の判決でも示されているように、「職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様」なら兼業を禁止できないということですから、この条件を満たさない場合には、兼業を禁止できることになります。

そして、裁判で争われ兼業禁止が認められた例として次のものがあります。

・労務提供に支障をきたす程度の長時間の二重就職(小川建設事件 東京地決昭和57年11月19日)

・競業会社の取締役への就任(東京メデカルサービス事件 東京地判平成3年4月8日)

・従業員に特別加算金を支給しつつ残業を廃止し、疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働(昭和室内装備事件 福岡地判昭和47年10月20日)

・病気による休業中の自営業経営(ジャムコ立川工場事件 東京地八王子支判平成17年3月16日)

いずれも、「やむを得ない事由」があるといえるケースです。

 

<実務の視点から>

兼業している従業員を解雇することは、多くの場合、不当解雇とされ無効になります。

この場合、訴訟になれば、その従業員が働いていなくても、決着がつくまでの間の賃金は企業側に支払義務が発生します。

こうした専門性の高いことは、問題をこじらせてしまう前に、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

仕事ができる考課者による評価は厳しくなってしまう傾向があります

2025/02/02|741文字

 

<酷評化傾向(厳格化傾向)>

酷評化傾向というのは、評価がついつい厳しくなる傾向です。

仕事をこなす能力の高い人が、自分を基準にして評価する場合に起こります。

また、実際に能力が高いわけではないのに、自分にかなり自信を持っている人も同じ傾向を示します。

完璧主義者に多く見られ、対象者を追い詰め重箱の隅を突くようなあら探しをしてしまう傾向があります。

評価に差が出ないため人事考課の目的を果たせないこと、評価対象者が絶望してしまい転職を考えることが問題となります。

 

<役職者としての能力不足>

役職者には、部下の一人ひとりを育てる役目もあります。

育てるためには、部下の具体的な業務内容だけでなく、個性もしっかり把握する必要があります。

部下の全員が自分と同じ個性を持っているかのように振る舞っていては、部下を育てることができません。

そもそも、自分自身の成長や昇進ばかりを考えている役職者では、部下をどう育てるかの指針や目標を立てることも困難です。

 

<酷評化傾向を示す役職者への対応>

人事考課制度を適正に運用するためには、考課者に対する定期的な教育研修の実施が大事です。

そして、酷評化傾向を示す役職者には、人事考課の目的の再確認、部下を育てる能力の開発や役割認識について、重点的な教育研修が必要でしょう。

それでもなお、きちんとした人事評価ができないのであれば、適性を欠くものとして考課者から外すことも考えなければなりません。

そもそも、こうした人物が役職者になってしまうのは、個人的な能力の高さだけで抜擢され、人を育てる能力が評価されていない可能性が高いでしょう。

 

人事考課制度の導入や改善、考課者研修など、まとめて委託するのであれば、信頼できる国家資格者の社会保険労務士(社労士)にご用命ください。

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