同一労働同一賃金の記事

2020/11/14|1,907文字

 

<労働基準法の役割>

日本国憲法第27条第2項が「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定しているのを受けて、労働基準法が制定されました。

労働基準法は、労働条件の最低基準を定めて、使用者に強制的に守らせることによって、労働者を保護しています。

労働基準法ができる前は、民法の「契約自由の原則」によって、労働者に不利な労働契約も許されていました。

それが、労働基準法の制定によって、労働者が人間らしく生きていく権利を確保するため、労働基準法違反の労働契約は許されなくなったのです。

労働基準法は、労働者を保護するため、使用者に適用される多くの罰則を規定しています。

実際にこの罰則が適用されるのは、使用者が悪質な違反を行い、労働基準監督官が事件を送検し、刑事裁判で有罪になった場合です。

 

<罪刑法定主義>

労働基準法が、具体的で分かりやすい基準を設けているのは、使用者一般に対して基準を示し、安心して経済活動ができるようにすることを目的としています。

仮に「若い人を夜遅くまで働かせてはならない」という規定があったなら、使用者は大学生を夕方以降に働かせるにも躊躇してしまいます。

労働基準法第61条第1項本文は、「使用者は、満18歳に満たない者を午後10時から午前5時までの間において使用してはならない」というように、具体的な年齢と、具体的な時間帯を示していますから、違法・合法の境界が明解です。

ある行為を処罰するためには、禁止される行為の内容と処罰の内容を、具体的かつ明確に規定しておかなければならないとする罪刑法定主義の考え方の現れです。

この罪刑法定主義は、日本国憲法第31条と第39条にもその趣旨が示されています。

 

<同一労働同一賃金の考え方>

民法の「契約自由の原則」の趣旨を踏まえて、労働契約の締結を自由に任せておいたところ、正規労働者と非正規労働者との間で、不合理と見られる待遇差が増えてしまったという不都合が生じました。

原因としては、非正規労働者が使用者との間で労働契約の内容を決定する場合に、かなり弱い立場にあって、自由な交渉が大きく制限されているという実態が浮かび上がります。

つまり、当事者の対等な立場での交渉を前提とする「契約自由の原則」は、非正規労働者には当てはまらないのに、当てはまるものとして放置されてきたことに対する反省から、この待遇差を是正するために「同一労働同一賃金」が法制化されました。

改正前の労働契約法第20条や、現行のパートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第8条・第9条にその趣旨が示されています。

正規労働者・非正規労働者の区分がある以上、その間の格差は当然に存在するものであることは認め、不合理な差別とならないように均衡を求める趣旨となっています。

具体的には、担当する職務の内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容と配置の変更の範囲(職種の変更、昇進、転勤など)、その他の事情(正社員登用制度の実績など)を総合的に比較したうえで、個別の賞与、退職金、手当、休暇などに不合理な差別が無いかを検討する形になります。

ここで、たとえば「非正規労働者の賞与と退職金は正規労働者の7割以上」などという具体的な数値で基準を示すことはできません。

そもそも賞与や退職金は、労働基準法で支給を義務付けられるものではありませんし、具体的な事情によって、支給の要否や妥当な支給金額は変わってきますので、法令で一律の基準を示すことなどできません。

基準が示せないのに罰則を設けるというのは、罪刑法定主義に反してしまいますから、同一労働同一賃金について罰則を設けることはできないのです。

 

<法的な解決方法>

同一労働同一賃金について、罰則が無いからといって、使用者が無視しても大丈夫ということにはなりません。

非正規労働者から、「私の労働条件は不合理な差別によるものであり無効です」「あるべき労働条件なら得られたはずの経済的利益と、実際に得られた経済的利益との差額を請求します」ということで、使用者に対して損害賠償が請求されうるのです。

大阪医科大学事件も、メトロコマース事件も、このような訴訟でした。

最終的に、最高裁判所で使用者側が勝訴したとしても、裁判に対応するための時間、労力、精神力、経費は大変なものです。

敗訴すれば、労働基準法に多く規定されている30万円の罰金よりも、遥かに多額の賠償金の支払を命ぜられるかもしれません。

同一労働同一賃金への対応を誤れば、会社の経済的なリスクが大きいことから、やはり慎重に取組む必要があるのです。

 

解決社労士

2020/11/11|1,436文字

 

<大阪医科大学事件>

大阪医科大学事件(令和2年10月13日最高裁判決)では、アルバイト職員が、「正職員と同じ仕事をしていながら、不合理な差別を受けた」として大学側を訴えました。

賞与が支給されないなど、不合理な差別を受けたので、経済的な損害を被っていたとして賠償金を請求したのです。

 

<アルバイト職員の目線>

しかし、正職員の業務のうち難度の高いものについては、アルバイト職員の目に触れない所で行われていた可能性があります。

正職員の業務の中でも難度の高いものは、経営に関わるもの、人事秘に属するものなど、機密性の高い情報を扱う業務が多いため、意図的にアルバイト職員の目を避けて行われていたのではないでしょうか。

 

<小売業では>

他の業種でも、例えば小売業で、売場での正社員の業務は、商品の補充、在庫チェック、発注、お客様のご案内、レジ打ち、ゴミの整理、清掃など、非正規社員とほぼ同じ内容だと思われます。

しかし、売場を離れて、売上や利益を確認しつつ、売場の変更を考え、店舗や部門の方針を策定し、人員配置を協議し、また、他店舗との連携や他店舗への応援など、非正規社員には見えていない業務について責任を負っています。

非正規社員からすると、正社員が売場を離れて働いている時間は、何の仕事をしているか分からない時間、あるいは、働いていない時間と受け取られかねません。

契約社員が、「正社員と同じ仕事をしていながら、退職金が支給されないなど、不合理な差別を受けた」として会社側を訴えたメトロコマース事件(令和2年10月13日最高裁判決)でも、同じような事情があったと考えられます。

 

<説明不足>

大阪医科大学事件では賞与が、メトロコマース事件では退職金が、非正規社員に支払われないことが不合理ではないと判断されました。

もちろん、これらの法人が賞与や退職金を支給することの目的や趣旨も、最高裁の判断の理由となっています。

しかしこれは、職務の内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容と配置の変更の範囲、その他の事情に違いがあることを前提とした判断です。

日頃から、あるいは定期的に、会社や上司から正社員の職務内容について、非正規社員に説明していたならば、訴訟そのものが提起されなかったのではないでしょうか。

 

<説明の内容>

上司からの説明で、正社員には非正規社員とは異なる業務があって、それは難度がより高く、責任がより重いものであるということが伝わる必要があります。

次に、売場の仕事を離れるときの、声掛けの具体例を示します。

 

【小売業の場合】

伝わらない例

伝わる例

事務室にいます。 事務室で、販促計画を立てています。

事務室で、新しい棚割りを考えてきます。

応接室にいます。 応接室で、評価の面談をしています。

応接室で、採用面接をしています。

応接室で、業者との商談をしています。

マネージャー会議に行ってきます。 マネージャー会議で、部門売上・利益の進捗確認と改善策の検討をしてきます。
明日はお店に来ません。 明日は、終日○○店の応援です。

明日は本社で、終日アンガーマネジメント研修を受けています。

 

また、会社からの説明は、パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の内容を踏まえ、正社員だけが担当する職務の内容(業務の内容と責任の程度)、正社員の職務内容と配置の変更の範囲(職種の変更、昇進、転勤など)、その他の事情(正社員登用制度の実績など)が主な内容となります。

 

解決社労士

2020/10/17|4,293文字

 

<判例の効力>

判決の先例としての効力は、「判決理由中の判断であって結論を出すのに不可欠なもの」に生じます。

決して、結論部分に効力が生じるものではありません。

最高裁が、特定の判決の中で、「契約社員にも、夏期冬期休暇手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇、祝日給、扶養手当を支給しなければならない」と述べたとしても、すべての企業で、すべての契約社員に対して、そうしなければならないと判断されたわけではありません。

 

<事件の争点>

改正前の労働契約法第20条は、次のように定めていました。

 

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

改正前労働契約法第20条は、民事的効力のある規定です。

法の趣旨から、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件を比較したときに、職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、バランスが取れていなければなりません。

「不合理と認められる」相違のある労働条件の定めは無効とされ、不法行為(故意・過失による権利侵害)として損害賠償請求の対象となり得ます。

3つの日本郵便事件は、内容的に重なり合うので、まとめて考えると、夏期冬期休暇手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇、祝日給、扶養手当の相違が、バランスを欠き不合理ではないかが争点となりました。

 

<最高裁の基本的な考え方>

有期労働契約を締結している労働者と、無期労働契約を締結している労働者との、個々の賃金項目の労働条件の相違が、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」であるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較するだけではなく、それぞれの賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである。

また、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきである。

 

<「職務の内容」>

正社員は、管理職、総合職、地域基幹職及び一般職(以下「新一般職」という。)の各コースに区分され、このうち郵便局における郵便の業務を担当するのは地域基幹職及び新一般職である。

時給制契約社員は、郵便局等での一般的業務に従事し、月給制契約社員は、高い知識・能力を発揮して郵便局等での一般的業務に従事する。

 

<「配置の変更の範囲」>

正社員には、原則として配置転換が予定されており、一部の正社員には、転居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性がある。

本事件の契約社員は、職場と職務内容を限定して採用されており、正社員のような人事異動は行われず、郵便局を移る場合には、個別の同意に基づき、元の郵便局での雇用契約を終了させたうえで、新たに別の郵便局での勤務に関して雇用契約を締結し直している。

 

<「その他の事情」(人事評価)>

正社員の人事評価では、業務の実績に加え、部下の育成指導状況、組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研さん、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

これに対し、本事件の契約社員は、郵便外務事務または郵便内務事務のうち、特定の業務のみに従事し、これら各事務について幅広く従事することは想定されておらず、昇任や昇格は予定されていない。

時給制契約社員の人事評価では、上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか、担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる。

月給制契約社員の人事評価では、業務を適切に遂行していたかなどの観点によって業績が評価されるほか、上司の指示の理解、上司への伝達等の基本的事項や、他の期間雇用社員への助言等の観点により、月給制契約社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

本事件の契約社員の人事評価では、正社員とは異なり、組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない。

 

<「その他の事情」(正社員登用)>

本事件の契約社員に対しては、正社員に登用される制度が設けられており、人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす応募者について、適性試験や面接等により選考される。

 

<夏期冬期休暇手当の性質・目的と結論>

郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は、それぞれの正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。

そして、郵便の業務を担当する時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきである。

正社員には夏期冬期休暇が与えられ、時給制契約社員には与えられないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<年末年始勤務手当の性質・目的と結論>

年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、年末年始に実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

年末年始は、郵便の業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている期間に、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。

こうした支給の趣旨は、本事件の契約社員にも妥当するものである。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、本事件の契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<有給の病気休暇の性質・目的と結論>

私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して、有給の病気休暇が与えられているのは、こうした正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。

この目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与える趣旨は妥当する。

本事件の時給制契約社員には、契約期間が6か月以内とされており、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれている。

そうすると、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは不合理である。

したがって、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与える一方で、時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<祝日給の性質・目的と結論>

祝日給は、正社員に祝日のほか年始期間の勤務に対しても支給されるものである。

年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本事件の契約社員にも妥当する。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で、本事件の契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<扶養手当の性質・目的と結論>

郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。

この目的に照らせば、契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当する。

そして、本事件の契約社員には、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれている。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で、本事件の契約社員に対して、扶養手当を支給しないという労働条件の相違は、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められる。

 

<2日前の2つの判決との関係>

結論だけを見ると、令和2年10月13日の2つの最高裁判決と、令和2年10月15日の3つの最高裁判決とでは、食い違いがあるかのように思われかねません。

しかし、大阪医科大学の賞与は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給されているので、正社員限定で支給されていても、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められないとしています。

また、メトロコマースでの退職金は、正社員の職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し支給されているので、改正前労働契約法第20条にいう「不合理」と認められないとしています。

これらの賞与や退職金は、それぞれの法人で、「正社員(正職員)としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る目的」で支給されているので、正社員限定でも「不合理」ではないと判断されています。

これに対して、日本郵便の夏期冬期休暇手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇、祝日給、扶養手当は、それぞれの性質や目的が正社員限定のものではなく、非正規社員にも妥当するものなのに、正社員に限定してしまうのは「不合理」だとしています。

結局、賞与、退職金、手当、休暇に共通して、その性質や目的が、非正規社員にも妥当するものか否かによって、「不合理」か否かが判断されているのであって、決して矛盾するものではないのです。

 

解決社労士

2020/10/10/16|2,396文字

 

<判例の効力>

判決の先例としての効力は、「判決理由中の判断であって結論を出すのに不可欠なもの」に生じます。

決して、結論部分に効力が生じるものではありません。

最高裁が、特定の判決の中で、「契約社員に退職金を支給しなくても良い」と述べたとしても、すべての企業で契約社員に退職金を支給する必要が無いと判断されたわけではありません。

 

<事件の争点>

改正前の労働契約法第20条は、次のように定めていました。

 

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

改正前労働契約法第20条は、民事的効力のある規定です。

法の趣旨から、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件を比較したときに、職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、バランスが取れていなければなりません。

「不合理と認められる」相違のある労働条件の定めは無効とされ、不法行為(故意・過失による権利侵害)として損害賠償請求の対象となり得ます。

この事件では、退職金の相違が、バランスを欠き不合理ではないかが争点となりました。

 

<最高裁の基本的な考え方>

改正前労働契約法第20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。

退職金の支給についても、不合理か否かの判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、その法人での退職金の性質や支給の目的を踏まえて、同条所定の諸事情を考慮することにより、その労働条件の相違が不合理と評価できるか否かを検討すべきである。

 

<「職務の内容」>

本事件の労働者は、契約社員Bという名称の雇用形態であり、一時的、補完的な業務に従事するものとされ、東京メトロの駅構内の売店での販売業務に従事していた。

正社員は、売店での販売業務に従事することもあったが、職務の限定は無かった。

売店での業務の内容は、売店の管理、接客販売、商品の管理、準備・陳列、伝票・帳票類の取扱、売上金等の金銭取扱、その他付随する業務であり、これらは正社員と契約社員Bとで相違することはなかった。

正社員は、休暇や欠勤で不在になった販売員に代わって、早番や遅番の業務を行う代務業務を行っていたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務や売店の事故対応等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあった。

これに対し、契約社員Bは、原則として代務業務を行わず、エリアマネージャー業務に従事することもなかった。

 

<「配置の変更の範囲」>

正社員は、業務の必要により配置転換、職種転換、出向を命ぜられることがあり、正当な理由なく、これを拒むことはできなかった。

契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあったが、業務の内容に変更はなく、配置転換や出向を命ぜられることはなかった。

 

<「その他の事情」>

契約社員Bから契約社員A、契約社員Aから正社員への登用制度が運用されていた。

契約社員Bは、契約期間が1年以内の有期契約労働者であり、原則として契約が更新され、定年が65歳と定められており、本事件の契約社員Bは、定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務した。

 

<退職金の性質・目的と結論>

この法人での退職金は,職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや、継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものである。

この法人では、正社員の職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給している。

本事件の契約社員Bに退職金が支給されなかったのは、不合理であるとまで評価することはできず、改正前労働契約法第20条に反しない。

 

<住宅手当について>

住宅手当については、本事件の契約社員Bの主張が正当であり、法人は支払われなかった住宅手当に相当する損害金の支払が必要である。

 

<実務の視点から>

同一労働同一賃金への対応で、最初に行うべきことは、自社の現状の賞与、退職金、各手当などの支給の趣旨や目的を明らかにすることです。

たとえば、就業規則の中の賞与の規定には、「会社の業績および労働者の勤務成績などを考慮して各社員の支給額を決定する」というような、簡単な説明しか記述されていないことが多いものです。

「当社の賞与は、○○の趣旨で、××を目的として支給する」という規定があって、これにより賞与支給の対象者が正社員に限定されていたり、正社員以外には少ない額の賞与が支給されていたりの実態が、合理的に説明できるのであれば、制度をいじる必要は無いのです。

現行のパートタイム・有期雇用労働法適用下では、使用者がパートタイム労働者などから尋ねられたら、正社員との労働条件の違いを説明しなければなりません。

就業規則に規定しなくても、Q&A集を作成し、問われたら具体的に説明できるようにしておく必要はあります。

できれば、Q&A集を配布・公開して、説明の手間を省きたいところです。

そして、待遇の相違を合理的に説明できる趣旨や目的が、どうしても見当たらない場合には、待遇のバランスを整えるため、制度の変更が求められることになります。

 

解決社労士

2020/10/15|2,182文字

 

<判例の効力>

判決の先例としての効力は、「判決理由中の判断であって結論を出すのに不可欠なもの」に生じます。

決して、結論部分に効力が生じるものではありません。

最高裁が、特定の判決の中で、「アルバイト職員に賞与を支給しなくても良い」と述べたとしても、すべての企業でアルバイトに賞与を支給する必要が無いと判断されたわけではありません。

 

<事件の争点>

改正前の労働契約法第20条は、次のように定めていました。

 

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

改正前労働契約法第20条は、民事的効力のある規定です。

法の趣旨から、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件を比較したときに、職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、バランスが取れていなければなりません。

「不合理と認められる」相違のある労働条件の定めは無効とされ、不法行為(故意・過失による権利侵害)として損害賠償請求の対象となり得ます。

この事件では、賞与、私傷病による欠勤中の賃金、夏期特別有給休暇の相違が、バランスを欠き不合理ではないかが争点となりました。

 

<最高裁の基本的な考え方>

その法人での賞与等の性質や支給の目的を踏まえて、改正前労働契約法第20条に規定されていた諸事情を考慮することにより、その労働条件の相違が不合理と評価できるか否かを検討すべきである。

 

<「職務の内容」>

正職員は、大学や附属病院等のあらゆる業務に携わり、定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め、中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策も含まれ、業務に伴う責任は大きい。

アルバイト職員の業務は、定型的で簡便な作業が中心であり、相当に軽易であることが窺われる。

両者の職務の内容に、一定の相違があったことは否定できない。

 

<「配置の変更の範囲」>

正職員は、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた。

アルバイト職員の人事異動は、例外的かつ個別的な事情によるものに限られていた。

 

<「その他の事情」>

アルバイト職員には、契約職員、正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた。

 

<賞与の性質・目的と結論>

この法人の賞与は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給されている。

この賞与には、労務の対価の後払いや一律の功労報奨の趣旨が含まれる。

本事件のアルバイト職員に賞与が支給されなかったのは、不合理であるとまで評価することはできず、改正前労働契約法第20条に反しない。

 

<私傷病による欠勤中の賃金の性質・目的と結論>

正職員が私傷病で欠勤した場合、6か月間は給与全額が支払われ、その後は休職が命ぜられて、給与の2割が支払われていた。

これは、正職員が長期にわたり継続して就労し、または将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものである。

アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとは言い難い。

本事件のアルバイト職員も、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りに留まる。また、有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったという事情も無い。

よって、本事件のアルバイト職員に、私傷病による欠勤中の賃金が支払われなかったことは、不合理であるとまで評価することはできず、改正前労働契約法第20条に反しない。

 

<夏期特別有給休暇について>

夏期特別有給休暇については、本事件のアルバイト職員の主張が正当であり、法人は日数分の賃金に相当する損害金の支払が必要である。

 

<実務の視点から>

訴訟を提起したアルバイト職員は、「正職員と同じ仕事をしていながら、不合理な差別を受けていた」と考えたわけです。

しかし、正職員の業務のうち難度の高いものについては、アルバイト職員の目に触れない所で行われていた可能性があります。

また、人事異動の実態など、労働条件のバランスの妥当性を考える材料について、アルバイト職員がさほど意識していなかったかもしれません。

現行のパートタイム・有期雇用労働法適用下では、使用者がパートタイム労働者などから尋ねられたら、正社員との労働条件の違いを説明しなければなりません。

この事件でも、アルバイト職員に対して、正職員との職務の内容、配置の変更の範囲、その他の事情についての相違点を積極的に説明していたならば、訴訟提起に至らなかったように思えます。

管理職は、部下に対して、さまざまな説明義務を負っているのですが、これが疎かにされていると、無用なトラブルを生む火種となります。

会社は、管理職が説明義務を果たせるように教育する必要もあるのです。

 

解決社労士

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