従業員を休ませたときの賃金

2023/10/08|1,841文字

 

<労働契約>

会社と従業員との間には、労働契約が締結されています。

この労働契約は、口約束でも成立します。

 

【民法第623条:雇用】

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

 

労働条件通知書や雇用契約書等の書面を交付しなければならないのは、労働基準法が労働者を保護するために、使用者に対して労働条件の明示義務を課しているからです。

 

【労働基準法第15条第1項】

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

労働と賃金とは、対価関係にありますから、労働の提供が無ければ、賃金の支払も無いという、ノーワーク・ノーペイの原則が働きます。

従業員が働かなければ会社は賃金を支払わなくても良い、従業員が働いたら会社は賃金を支払わなければならないという、当たり前のことが大原則となります。

 

<100%の補償が必要な場合>

従業員が労働に従事しない場合でも、会社が賃金を100%支払わなければならない場合があります。

 

【民法第536条第2項:債務者の危険負担等】

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

 

これを労働契約に当てはめると、会社の落ち度で従業員が働けなくなったときには、会社は賃金の支払を拒めないということになります。

会社が従業員に解雇の通告をしたために、従業員が出勤できなくなったものの、不当解雇であって解雇が無効である場合には、賃金の支払義務を免れません。

この条文の中の「債権者の責めに帰すべき事由」というのは、故意、過失、信義則上故意や過失と同視すべきものとされています。

 

<60%以上の補償が必要な場合>

従業員が労働に従事しない場合でも、会社が賃金を60%以上支払わなければならない場合があります。

 

【労働基準法第26条:休業手当】

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

会社の主観的な判断により、不合理な理由で従業員の労働の提供を拒んだ場合には、会社が賃金の100%を支払う義務を負うのですが、客観的に合理的な理由で従業員の労働の提供を拒んだものの、会社に落ち度がある場合には、労働者を保護するため、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務を負います。

会社の経営判断で、従業員を休ませたところ、それには客観的に合理的な理由があって、しかし、従業員に落ち度はなく、厳しい目で見れば、どちらかというと会社側に落ち度がある場合に、この規定が適用されます。

国家機関による休業命令による場合は、休業命令を受けることについて会社に落ち度がありますから、この規定が適用されます。

仕入先から原材料が入らない場合には、その仕入先を選んだことについて会社に落ち度があるものと考え、この規定が適用されます。

なお、前掲の民法第536条第2項は任意規定とされ、当事者間で別の定めをすれば、その定めが優先されることになります。

ですから、会社の落ち度で従業員が働けなくなったときに、会社が労働基準法の制限ギリギリの60%だけ賃金を支払う旨の規定が就業規則にあれば、故意のある場合や、信義則に反する場合を除き、その規定が適用されることになります。

 

 

<補償が不要な場合>

民法に、次の規定があります。

 

【民法第536条第1項:債務者の危険負担等】

当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

 

公共交通機関の遅れの場合、本来であればノーワーク・ノーペイの原則により、遅れて勤務できなかった時間の賃金は支払われないことになります。

しかし、実際には多くの会社で、遅刻が無かったものとして扱う慣行がありますので、この慣行にしたがって支払うのが通常でしょう。

このように経営判断で、法律上義務の無い賃金を支払うのは問題視されません。

 

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