所定労働時間を変更する場合の配慮

2023/07/16|1,887文字

 

<所定労働時間の性質>

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生じます。〔民法第623条〕

そして、労働条件や労働契約の内容は、労働者の理解を深めるようにしなければなりませんし、できる限り書面により確認するものとされています。〔労働契約法第4条〕

特に、所定労働時間のような主要な労働条件については、使用者から労働者に書面で明示されるのが原則です。〔労働基準法第15条第1項〕

より多くの時間勤務することで、労働者の収入が増えたとしても、疲労が増し家事や育児など日常生活に支障を来たしたのでは、仕事と生活の両立(ワークライフバランス)がむずかしくなります。

反対に、勤務時間が少なくて収入も少ないというのでは、経済的に生活が苦しくなってしまいます。

このように、所定労働時間というのは、各労働者の生活実態を反映し、微妙なバランスの上に成り立っていることが分かります。

ですから、所定労働時間を変更するには、労使の対等の立場における合意で行われます。

労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。〔労働契約法第3条第1項〕

 

<労働者側の希望による所定労働時間の短縮>

育児や介護を理由とする所定労働時間の短縮については、法令や就業規則の規定に従って行われることになります。

この他にも、労働者の希望により、所定労働時間の短縮が行われることがあります。

たとえば、資格取得の学校に通うために、月、水、金曜日に2時間の早退が認められるような場合です。

その資格取得のための勉強が、業務に役立つものであれば、会社の合意が得られやすいでしょう。

 

<会社の都合や方針による所定労働時間の短縮>

働き方改革に関連して、長時間労働を是正するために、所定労働時間を短縮することは、大企業を中心に見られる動きです。

一般に、給与は据え置きで運用されます。

一方で、売上や客数の減少に伴い、所定労働時間の削減が行われることもあります。

人員の削減によって対応する場合には、整理解雇が行われるのですが、人員削減による対応が困難な場合に、所定労働時間の削減によって対応するわけです。

これは、一種のワークシェアリングです。

会社の体力が低下した状態で行われますから、所定労働時間に比例して月給が減額されることもあります。

労働者にとっては、不利益変更となりますから、労使で十分話し合いのうえ行うことが求められます。

 

<労働者側の希望による所定労働時間の延長>

労働者の方から、会社に対して労働時間の延長を申し出ることがあります。

パートタイマーやアルバイトなどで、所定労働時間が法定労働時間を下回っている場合に、収入増を希望して申し出るパターンです。

人手不足や欠員の発生により、会社側にニーズがあれば、法定労働時間までの延長は可能です。

ただし、就業規則の規定と矛盾しない労働条件とすることが必要です。

正社員から、所定労働時間の延長の申し出があった場合、法定労働時間を超えての延長はできませんから、残業を増やしたいという希望だと解されます。

この場合にも、収入増を期待しているわけです。

しかし残業は、労働者本人の希望で行うものではなく、業務上の必要に応じて会社から労働者に命じるものです。

また、会社にとっては、割増賃金の負担も増加します。

会社から希望者に、こうした事情を説明したうえで、より多くの残業を希望する理由を慎重に確認して、対応する必要があります。

場合によっては、異動や転職の必要が出てくるかもしれません。

 

<会社の都合や方針による所定労働時間の延長>

所定労働時間を一律に延長するというのは、それ自体が、働き方改革に逆行するものです。

ただし、パートタイマーを正社員に登用するなど、所定労働時間の延長だけでなく、役割の変更や待遇の改善を伴うものは、むしろ働き方改革の流れに沿ったものとなります。

もし、人手不足が一時的なものであれば、派遣社員の利用で対応できるでしょうし、人手不足が長期にわたる見込みであれば、新人採用を考えるべきです。

 

<労働時間帯の変更>

所定労働時間はそのままで、始業終業時刻をずらすことがあります。

会社から命ずる場合には、就業規則や労働条件通知書などに根拠規定が必要です。

これに対して、労使の合意により変更する場合には、労働条件の変更ですから、就業規則に反しない範囲で行うことができます。

どちらについても、柔軟に対応できるよう、就業規則を整備しておくことが求められます。

 

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