出向命令と出向拒否

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<出向の意味>

「出向」とは、他の企業の指揮監督下で労務を提供する形態の雇用契約です。

元々在籍している企業を「出向元(しゅっこうもと)」、実際に勤務している企業を「出向先(しゅっこうさき)」と言います。

出向元から見て、他の企業に出向することを「出出向(でしゅっこう)」と言います。

反対に、他の企業から受け入れている出向を「入出向(いりしゅっこう)」と言います。

また、籍を元の企業に置いたまま他の企業に出向する「在籍出向」と、元の企業の籍を失って他の企業に出向する「転籍出向」とがあります。

「在籍出向」では、出向元・出向先の両方との間で雇用契約が成立しています。2つの契約には矛盾が生じうるので、これを調整するため、一般には出向元と出向先の間で出向契約という契約が交わされます。

「転籍出向」では、出向元との雇用契約が解消され、出向先との雇用契約のみになります。元の企業に戻る可能性は、その企業のルールや慣行によります。

厄介なことに、これらすべてが一口に「出向」と呼ばれます。

しかも「出向」と言った場合に、どの「出向」を指しているかは企業によって異なります。

 

ここでは、最も一般的な在籍出向に限定して述べます。

 

<出向命令の根拠>

出向元が従業員に出向を命ずる根拠は、就業規則や労働条件通知書に記載されているのが一般です。

モデル就業規則の最新版(平成31(2019)年3月版)は、次のように規定しています。

 

【人事異動】

第8条  会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。

2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。

3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

 

こうした規定が無ければ、出向命令はできないのですが、会社と従業員とが新たに合意して出向契約を交わすことは可能です。

 

<出向拒否の根拠>

労働契約法は、懲戒や解雇と同様に、権利の濫用にあたる場合には無効であることを規定しています。

 

【出向】

第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

 

ここで、「その他の事情」には、出向後の労働条件の説明、不利益変更の有無、出向命令を受けた従業員の個人的な事情などが含まれます。

先ほどのモデル就業規則第8条第3項と併せて読むと、次のような事情があれば、出向拒否をする正当な理由があるということになります。

 

【出向拒否の正当な理由】

1.業務上の必要が無い

2.他の不当な動機・目的をもって出向命令が行われた

3.出向後の労働条件の説明が無い

4.出向により賃金の減額など労働条件が不利益に変更される

5.個人や家庭の事情により出向に対応できない

 

<1.業務上の必要>

企業は、関連会社との人材交流、出向者の技術取得、現場経験、あるいは出向先での技術指導を行わせるなどの必要から、出向を命じます。

慣例として、ローテーションで出向命令が出されているようなケースでは、これに該当することが多いでしょう。

しかし、業務上の必要の判断は、一般には企業側に裁量権があります。

 

<2.他の不当な動機・目的>

社長の個人的な恨み、組合活動への報復、年次有給休暇の取得が多いなどの理由で出向命令が出された場合には、出向命令に正当な目的がありませんから、権利の濫用となり無効となります。

 

<3.4.出向後の労働条件>

出向後の労働条件について、対象者に個別あるいは説明会で具体的に説明する必要があります。

就業規則に詳細を定めてしまえば、対象者への説明はかなりの部分が省けます。

労働条件の不利益変更については、一般の場合と同様に、個別の同意を得るか就業規則の定めが必要となります。

ただし、著しい不利益変更であれば、本人の同意があっても、権利の濫用や公序良俗違反(民法第90条)とされ無効になることもあります。

 

<5.個人や家庭の事情>

たとえば、育児介護休業法には次の規定があります。

 

【労働者の配置に関する配慮】

第二十六条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

 

企業は、子の養育や家族の介護に大きな支障が出ないように配慮をすることが必要です。

そして、可能な措置を尽くしても、なお大きな支障が出るのであれば、出向を拒否されても仕方が無いことになります

この他、出向者本人の生活に大きな支障が出る場合、たとえば勤務そのものが困難であるとか、持病の治療が継続できなくなるなどの正当な理由があれば、出向を拒否することに正当な理由が認められます。

 

企業が出向命令を出すには根拠規定が必要なこと、出向者に対する説明と出向者からの聞き取りも必要なことを忘れないようにしましょう。

出向拒否があっても、就業規則の規定だけを見て懲戒や解雇を検討してはならないのです。

 

2019.06.10. 解決社労士 柳田 恵一