連続して年次有給休暇を取得することの可否

2021/05/10|1,642文字

 

<年次有給休暇の制度趣旨>

年次有給休暇は、労働者が心身の疲労を回復し、明日への活力と創造力を養い、ゆとりある勤労者生活を実現するための制度です。

この趣旨から、対象者は正社員に限られず、国籍や会社の規模に関係なく適用されます。

会社側は、年次有給休暇を取得しやすい職場環境を作り、休暇の取得促進を図ることが求められています。

 

<時季変更権>

とはいえ、たとえば同じ店舗のメンバーが一斉に年次有給休暇を取得するようなことがあれば、通常、その日は閉店せざるを得ません。

こうした不合理なことが起こらないように、従業員が年次有給休暇を請求しても、それを会社側で変更することができる場合があります。

これが時季変更権であり、事業の正常な運営を妨げる場合には、会社側は年次有給休暇の取得そのものは否定できないものの、他の日に変更するよう求める権利が与えられています。〔労働基準法第39条第4項但書〕

しかし、客観的に事業の正常な運営を妨げる場合に当たらなければ、会社側が時季変更権を主張しても、それは権利の濫用ですから、年次有給休暇を他の日に変更することはできません。

たとえば同じ店舗のメンバーが一斉に年次有給休暇を取得する場合でも、同じ会社の近隣店舗や本部からの応援で、その日の店舗運営に支障がないのであれば、会社側は時季変更権を使えないことになります。

 

<事業の正常な運営を妨げる場合>

一般的な判断基準としては、その労働者の所属する事業場を基準として事業の規模・内容、その労働者の担当する作業の内容・性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等、諸般の事情を考慮して判断するものとされています。〔電々公社此花電報電話局事件最高裁判決(昭和 57318日)〕

そして会社側には、労働者が指定した日に年次有給休暇を取得できるように配慮する義務があるとされています。〔弘前電報電話局事件最高裁判決(昭和62710日)、横手統制電話中継所事件最高裁判決(昭和62922日)〕

少し厳しいですが、人手不足で代行者の調達が難しい場合であっても、年次有給休暇の取得に配慮して十分な人員を確保していなかったような事情があれば、会社側は正当に時季変更権を使えないというのが、これらの判例の考え方です。

つまり、年次有給休暇の取得は労働者の法的権利なので、会社側は取得率100%を想定しての採用計画が求められるということになるのでしょう。

 

<連続して年次有給休暇を取得する場合>

労働者が長期にわたり連続して年次有給休暇を取得しようとする場合は、それが長期のものであればあるほど、会社側が代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど、事業の正常な運営に支障を来たす蓋然性が高くなるので、会社側の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるという判例があります。〔時事通信社事件最高裁判決(平成4623日)〕

この判例は、労働者がこうした調整を経ることなく長期にわたり連続して年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する会社側の時季変更権の行使については、それが事業運営にどのような支障をもたらすか、休暇の時季や期間につき、どの程度の修正・変更を行うかに関し、会社側にある程度の合理的な範囲内で裁量的判断の余地を認めざるを得ないとしています。

このように労働者側に落ち度があれば、会社側は時季変更権を行使し、時季の変更や年次有給休暇の分割を求めることができる場合もあるということです。

 

<解決社労士の視点から>

このように法的権利の行使について、具体的な事情に応じて、労働者側の主張が認められたり、会社側の主張が認められたりする場合には、「常識」に頼らず、過去の裁判例やその変化に注意しつつ対応することが必要です。

従業員から年次有給休暇取得の申し出があり、その日に休ませることに不都合を感じた場合には、上司が安易に判断するのではなく、社会保険労務士などの専門家に判断を求める必要があります。

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