過労自殺と会社の責任

2023/07/09|1,120文字

 

<過労自殺と労災保険の適用>

自殺は故意に自分の命を絶つ行為ですから、一般には労働と死の結果との間に相当因果関係が無く、原則として業務起因性が認められないので、労災保険が適用されません。

つまり、労働によって死亡したとはいえないとされるのです。

ここで相当因果関係というのは、労働と災害との間に「その労働が無ければその災害は発生しなかった」というだけでなく、客観的科学的に見て「災害の有力な原因が労働だと考えるのが自然である」「その労働からその災害が発生するのは、偶然でもなく、異常なことでもない」という関係があることをいいます。

しかし、過重な労働によりうつ病になり、うつ病によって自殺したといえる場合には、労災保険が適用されます。

この場合には、労働とうつ病との間に相当因果関係があり、うつ病と自殺との間にも相当因果関係が認められれば、労働と自殺との間にも相当因果関係が認められて、労災保険の給付対象となるということです。

 

<安全配慮義務と債務不履行責任>

労災保険とは別に、会社に安全配慮義務違反などが認められれば、従業員の遺族から会社に対し債務不履行を理由とする損害賠償請求がなされることもありえます。

安全配慮義務というのは、労働契約を交わせば当然に会社が負う義務です。

これに違反するのは、会社の債務不履行になるのです。〔民法第415条〕

労働契約は、会社の「賃金を支払いますから働いてください」という意思表示と、労働者の「働きますから賃金を支払ってください」という意思表示が合致して成立します。〔労働契約法第2条参照〕

契約書や労働条件通知書など無くても、労働契約は口頭でも成立します。

そして労働者は、きちんと働けるようコンディションを整えて定時までに出勤しなければなりません。

たとえ出勤しても、すぐにトイレに入って眠っていたのでは、労務を提供していることにはならず、労働契約について債務不履行となります。

一方、会社は労働者がきちんと働ける環境を整えなければなりません。

危険な労働環境で働かせようとするのは、労働契約について債務不履行となります。

ここで「危険な労働環境」というのは、身の危険だけではありません。

「何やってんだコノ!」「ちゃんとしろグズ!」などと、部下の指導のフリをしてストレス発散をしている部門長のもとで働くのは、精神に差し迫った危険があります。

そして長時間労働の常態化は、身体と精神の両方にとって危険です。

結局、会社は労働者が精神を病んでしまう環境で働いているのを放置しておいて、実際にうつ病などにかかれば、債務不履行責任を負うことがあるのです。

そしてそのうつ病が原因で自殺すれば、自殺についても責任を問われるということです。

 

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