労働契約法の役割の特殊性

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<労働契約法ができた理由>

労働契約法は、労働契約に関する基本的な事項を定める法律です。

平成19(2007)年12月5日公布、平成20(2008)年3月1日施行ですから、10年以上が経過し、だいぶ認知度が上がってきました。

この法律は、個別労働紛争での予測可能性を高めるためにできました。

個別労働紛争というのは、労働組合が絡まない「会社と労働者個人との間の労働紛争」です。

労働基準法をはじめとする数多くの労働法は、その内容が抽象的なこともあり、労働紛争が裁判になったらどんな判決が出るのか、条文を読んでもよくわからないケースが増えてしまいました。

そこで、数多くの裁判例にあらわれた理論を条文の形にまとめたのが労働契約法です。

個別労働紛争が発生したり発生しそうになったときに、読みにくい判決文を参照しなくても、労働契約法を読めば裁判になったときの結論が想定しやすくなったのです。

 

<労働法の一般的な特色>

労働法というのは、1つの法令の名称ではなく、労働関係や労働者の保護についての法令の総称です。

もともと民法の契約自由の原則が適用されていた労使関係について、労働者の生存権という法理念による修正をする法体系です。

使用者と労働者との関係を形式的に見れば、契約の当事者であり平等な立場ですから、労働契約も他の契約と同じように当事者の自由な話し合いに任せればよいということになります。これが契約自由の原則の考え方です。

ところが、現実の資本主義経済では労働者の立場が非常に弱く、憲法第25条の保障する生存権がおびやかされてしまいます。

そこで、法律が労働者を保護するようになりました。この労働者保護が労働法の基本理念になっています。

 

<労働契約法第1条>

「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする」〔労働契約法第1条〕

これが労働契約法の目的ですが、「労働者と使用者の自主的な交渉」に任せていては「労働者の保護」が図れないことも多いでしょう。

 

<労働契約法の5原則>

労使対等の原則 = 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。〔第3条第1項〕

均衡考慮の原則 = 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。〔第3条第2項〕

仕事と生活の調和への配慮の原則 = 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。〔第3条第3項〕

信義誠実の原則 = 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。〔第3条第4項〕

権利濫用の禁止の原則 = 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。〔第3条第5項〕

 

<労働契約法の役割>

労働基準法には「使用者は、」で始まる条文が多く、使用者だけに罰則が適用されるのですが、労働契約法には「労働者及び使用者」ということばが多く、罰則規定はありません。

労働契約法は、民法の特別法としての性格を持つため、労働基準監督官による監督・指導は行われず、行政指導の対象ともなりません。

たとえば使用者に安全配慮義務〔労働契約法第5条〕の違反があって、労働者が労働基準監督署に相談しても、指導してもらうことはできないのです。

この法律は、あっせん、労働審判、訴訟での基準を示しているにすぎません。

結局、労働契約法が労働者を保護する役割は、範囲が限定されているといえます。

 

2019.06.19. 解決社労士 柳田 恵一