2022/06/01|1,271文字
<退職金の請求>
長年働いて円満退職したパート社員の代理人弁護士から、退職金請求の内容証明郵便が会社に届くということがあります。
ネット上でも、こうした情報が増えるにつれ、実際の退職金請求も増えているようです。
「いや、うちの会社は契約更新のたびに、きちんと雇用契約書でパート社員には退職金の支給が無いことを確認しています」と言っている会社が、実際に退職金を支払う結末になっているのです。
<ひな形の規定>
これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。
あるひな形には、次のように書いてあります。
(適用範囲)
第2条 この規則は、 株式会社の労働者に適用する。
2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。
この条文は、次のことを言っています。
・「この就業規則」が原則としてすべての従業員に適用される。
・パート社員の就業規則は別に作る。
・パート社員の就業規則に書いていないことは、パート社員を含め、すべての従業員に「この就業規則」が適用される。
結局、この規定は「この就業規則」とは別に「パート社員就業規則」を作ることが前提となっているのです。
ですから、「この就業規則」に退職金の規定を置いて、別に「パート社員就業規則」を作らなければ、パート社員にも退職金の規定が適用されます。
たとえ、雇用契約書や雇い入れ通知書、労働条件通知書に「退職金は支給しません」とはっきり書いてあっても、労働者に有利なことは就業規則が優先的に適用されるのです。〔労働契約法第12条〕
<注意書き>
実は、このひな形には、次のような注意書きがあります。
なお、パートタイム労働者等について、規程の一部を適用除外とする場合や全面的に適用除外とする場合には、就業規則本体にその旨明記し、パートタイム労働者等に適用される規定を設けたり、別の就業規則を作成しなければなりません。
ところが、専門家ではない人が、この大事な注意書きを読み飛ばしてしまいます。
その結果、思わぬ事態を招いてしまうのです。
<こうして使いましょう>
困ったことにならないようにするには、2つの方法があります。
1つは、正社員用の就業規則とは別に「パート社員就業規則」を作ることです。
しかし、これは就業規則を2つ作るのですから、骨の折れる作業です。
もう1つは、就業規則の中で、正社員とパート社員とで違う取り扱いをする部分に、そのことをきちんと書いておくことです。
たとえば「退職金は正社員のみに支給し、パート社員には支給しない。パート社員に退職金を支給しないことは、雇用契約書(雇い入れ通知書、労働条件通知書)にその旨明示する」という規定を、就業規則の退職金の規定のところに加えておけば良いのです。
たったこれだけのことで、会社が痛い目を見ることは避けられるでしょう。
こうした規定の仕方は、同一労働同一賃金への対応としてもお勧めできます。