労災認定の限界事例

2021/08/05|1,066文字

 

労災保険の勘違い(労働者編)

労災保険の勘違い(事業主編)

 

<業務災害認定の原則>

業務災害と認定されるには、業務遂行性と業務起因性の2つが必要です。

業務遂行性とは、労働契約関係が認められたうえで発生した災害であることをいいます。

業務起因性とは、業務と病気や怪我との間に因果関係があることをいいます。

ですから、業務とは無関係な私傷病による事故は、業務災害とは認められません。

 

<業務災害の限界事例>

事務所に1人でいる時に意識を失い、後から入室してきた別の従業員に発見されて、救急搬送されたケースがありました。

こうした場合の殆どは、業務とは無関係な病気によるものです。

しかし病院の検査で、外傷性くも膜下出血と診断され、頭に大きなコブも発見されました。

この診断結果を受けて、事務所内を確認したところ、机の上にFAXで受信した書類が置いてあり、FAXのコードが抜けかけていたことが分かりました。

この時点で、FAXのコードに足を取られ、転んで頭を打ったことにより、外傷性くも膜下出血を発症したことが疑われました。

幸いにも意識を回復し、こうした事実が正しいことが確認されました。

結局、業務災害と認定されました。

 

<通勤災害認定の原則>

通勤災害と認定されるには、通勤によって被災したこと、つまり、通勤に潜む危険が現実化して被災したことが必要です。

通勤ではない移動中のケガや、通勤に伴う危険とは無関係に、私傷病が原因でケガをした場合には、通勤災害と認定されません。

 

<通勤災害の限界事例>

会社に向かうため、バスに乗ろうとしてステップに足を掛けたところで倒れ、頭を打ち意識を失って救急搬送されたケースがありました。

頭を打って意識を失った場合、身体の半分以上がバスに入っていた場合にはバス会社の責任が発生しうるのです。

バス会社に状況の説明を求めたのですが、運転手も他の乗客もよくみていなかったという回答でした。

後日、病院の診断結果が出ました。

たまたまバスに乗ろうとしたタイミングで、貧血を起こして意識を失い、そのまま倒れて頭を打ったということでした。

結局、通勤災害ではないと認定されました。

 

<就業規則との関係で>

就業規則によりバイク通勤が禁止されている会社の従業員が、バイクで出勤中に転倒してケガをした場合、会社に届けていた通勤経路とは別のルートで帰宅中にケガをした場合、これらは就業規則違反であり、懲戒の対象となることもあります。

しかし、これはあくまでも社内的な話です。

労災保険は国の制度ですから、原則として、各企業の就業規則の内容に左右されません。

就業規則違反の事実は捨象して、労災の成否を検討しましょう。

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