職場でのアウティング

2021/07/23|1,139文字

 

<アウティング>

本人の了解を得ずに、性的マイノリティ(少数者)であることを暴露することをアウティングと呼ぶようになりました。

性的指向(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)や性自認(トランスジェンダー)をカミングアウトして、自分を偽らずに生きたいと思っている人もいます。

しかし、他人から否定的な態度をとられ、人間関係が崩れてしまう恐れも大きく、なかなかカミングアウトしやすい環境は整っていません。

こうした中で、本人の意思によらず秘密を暴露されてしまうのは、大きな精神的ダメージとなり、精神疾患を発症する原因ともなります。

 

<個人の法的責任>

性的指向や性自認の個人情報は、病歴や健康状態と同じく非常にセンシティブな個人情報です。

アウティングを行った人は、アウティングされた人からプライバシー侵害等を理由として、不法行為による損害賠償を求められる可能性があります。

損害賠償の中身は、基本的には慰謝料です。

しかし、精神疾患を発症した場合には治療費も含まれますし、勤務できなくなれば失われた収入も含まれます。

万一自殺すれば、遺族から多額の賠償金を請求されることにもなります。

 

<企業の法的責任>

企業は、従業員が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。

この義務の中には、アウティングが行われないようにする義務が含まれます。

つまり、個人情報をその内容に応じて必要な範囲内の社員だけで共有する、性的マイノリティやプライバシーの保護について社員教育を定期的に行うなどの配慮が求められています。

また、アウティングが業務の中で行われたのであれば、企業が使用者責任を負うこともあります。

これらの場合にも、アウティングされた人や遺族からの損害賠償請求が行われうることになります。

 

<就業規則での対応>

モデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)は、次のように規定しています。

 

【その他あらゆるハラスメントの禁止】

第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

 

この中の「性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメント」には、アウティングが含まれると解釈すべきです。

より明確にするのであれば、次のように規定することも考えられます。

 

【その他あらゆるハラスメントの禁止】

第15条  第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認の暴露やこれらに関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
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