2025/03/13|1,398文字
<法定の権利という性質>
年次有給休暇は、労働基準法によって法定された労働者の権利です。
労働基準法は、労働者を守るため基準を定めて使用者に遵守を求めます。
違反については、罰則が定められ、刑事事件として書類送検されることもあります。
<年次有給休暇取得届>
労働基準法は「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定していて、会社側の承諾については何も規定していません。〔労働基準法第39条第5項本文〕
ところが「申請」「承認」という運用をしている企業もあります。
これは、日付さえ指定して請求すれば簡単に取得できるはずの年次有給休暇に、会社側の承諾という条件を加えているわけですから、労働基準法よりも一段高い基準を設けて年次有給休暇の取得を不当に制限していることになります。
また慶弔休暇など、企業独自の法定外の休暇と同じフォーマットに「申請」「承認」の欄が設けられている場合もあります。
法定外の休暇については、就業規則で独自の取得ルールを設けても構わないのですが、年次有給休暇にも同じ「申請書」などを使ってしまうことにより、誤った運用をしているのでしょう。
年次有給休暇は、時季指定の「届」が正しい形となります。
<届出の期限>
労働基準法は、年次有給休暇の取得について「何日前までに届出」といった制限をしていません。
しかし、年次有給休暇の届出期限を「原則前日まで」としている企業がある一方で、「1週間前まで」とする企業もあります。
労働者が指定した取得日では、事業の正常な運営を妨げることになる場合には、企業側が労働者に取得日の変更を求めることができます(時季変更権)。〔労働基準法第39条第5項但書〕
労働者から年次有給休暇の取得届が提出されると、会社側は他の従業員の勤務調整を行う必要があるかも知れません。
このために時間を要し、結局調整が困難な場合には時季変更権の発動ということになります。
ですから、何日前までに年次有給休暇取得届を提出するルールとするかは、その企業や職場によって異なってくるでしょう。
もちろん、前日の届出でも認めることが、労働基準法の趣旨に適うことは言うまでもありません。
また、各個人から年次有給休暇の年間予定表を提出してもらうなど、事業の正常な運営を妨げる可能性について、予め検討しておける制度を運用することも考えられます。
<取得の理由>
殆どの場合、年次有給休暇を取得する理由はプライベートなものです。
年次有給休暇の本来の趣旨は、仕事による疲労の蓄積を解消しリフレッシュすることにありますが、実際には、病院で診察を受ける、役所で手続する、子供の学校の行事に参加するなど、疲労回復とは異なる理由のことが多いものです。
労働者から年次有給休暇の届出があった場合に、企業はこれを拒否できません。
事業の正常な運営を妨げることになる場合に、企業側が労働者に取得日の変更を求めることができるに過ぎません。
年次有給休暇取得の理由を申告させ、理由次第で取得を拒否したり、取得日の変更を求めたりはできないのです。
ということは、年次有給休暇の取得理由を申告させることは、不当なプライバシーの侵害になります。
年次有給休暇取得届に理由欄を設けたり、上司が部下の取得の理由を詮索したりは、人権侵害になります。
無用なプライバシー侵害が発生しないよう十分に注意しましょう。