労災保険給付と会社の損害賠償責任

2022/10/22|881文字

 

<労災保険給付と損害賠償との関係>

労働災害のうち業務に起因する業務災害では、被災労働者(または遺族)は、労災保険給付を請求できると同時に、使用者に対しても損害賠償請求を行うことができます。

しかし、労災保険給付と損害賠償がカバーする損害の範囲は大きく重なりますから、労災保険給付を受けながら、これが無かったものとして、損害賠償を得られるというのでは、被災労働者(または遺族)の損害が二重に回復されることになり不公平です。

また使用者は、労災保険料を負担しているにもかかわらず、労災保険給付によって責任が軽減されないのでは、労災保険への加入を義務付けられていることとの関連で、納得がいくものではありません。

こうしたことから、労災保険給付と損害賠償との間では一定の調整が行われます。

 

<労災保険給付と損害賠償との調整>

労災保険法に基づく労災保険給付が被災労働者に行われた場合、使用者は労働基準法上の「災害補償責任」を免れます。〔労働基準法第84条第1項〕

使用者により災害補償がなされた場合、同一の事由については、その限度で使用者は損害賠償責任を免れます。〔労働基準法第84条第2項〕

労災保険給付が行われた場合にも、労働基準法第84条第2項が類推適用され、使用者は同様に保険給付の範囲で「損害賠償責任」を免れます。

労災保険の受給権者が、使用者に対する損害賠償請求権を失うのは、保険給付が損害の塡補の性質をもっているからです。

そのため、政府が現実に保険金を給付して損害を塡補した場合に限り、損害賠償請求権が失われることになります。

このことから、将来支給予定の年金給付については、現実の給付がない以上、たとえ将来にわたり継続して給付されることが確定していても、基本的には損害賠償請求権が失われないとされています。

なお、労災保険給付は、被災労働者等の財産的損害を補償することを目的としているため、慰謝料等の請求関係には影響を与えません。

被災労働者等は、保険給付との調整とは無関係に慰謝料等を請求できるとされています(東都観光バス事件 最高裁第三小法廷判決昭和58年4月19日)。

 

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