能力不足を理由とする解雇

2022/01/03|1,414文字

 

ミスが多い社員の解雇

 

<モデル就業規則の規定>

能力不足を理由とする解雇に関して、厚生労働省労働基準局監督課が作成したモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)は、次のように規定しています。

 

(解雇)第51条  労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。

⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。

 

直感的には、能力不足を理由とする解雇は、厚生労働省の立場からも②の規定により認められていると読み取れます。

しかし、この規定をよく見ると、解雇の条件がクリアされるためには、会社側にもそれ相当の準備が必要であることに気づきます。

裏を返せば、事前の準備なく安易に解雇すればしっぺ返しを食らうということになります。

 

<著しく不良>

「勤務成績」「業務能率」という言葉に明確な定義があるわけでもなく、ましてや評価基準となると、客観的に統一されたものなどありません。

これらが「著しく不良」であることを、会社側が証明するのは困難です。

 

<向上の見込みがない>

向上の見込みがあるか、それともないか、これを見極めるには、会社側が様々な教育・研修を行ってみる必要があります。

上司が熱心に指導して、少しも成長しないので匙を投げたという場合であっても、上司の指導力不足を疑われたら、反論するのもむずかしいでしょう。

 

<他の職務にも転換できない>

他の部署で活躍できるか、それともできないか、これを見極めるには、異動させてみないと分からない点もあります。

しかし、すべての部署を経験させてから見極めるのは、余りにも非現実的です。

 

<就業に適さない>

これはもう、その会社で働くことが向いていない、あるいは、働くことそのものが向いていないと言っているに等しい表現です。

そのような人物であれば、最初から採用しませんから、この規定を根拠として解雇するのは現実的ではありません。

 

<別の攻め方>

そもそも、「勤務成績」「業務能率」「向上の見込み」や適性は、目に見えない抽象的なものです。

ですから、これらを根拠に解雇しても、不当解雇を主張され解雇を無効にされる恐れがあります。

むしろ、不都合な事実を多数突き付けて、⑧の「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき」を理由に解雇するのが現実的です。

 

【解雇理由となる不都合な事実の例】

ルール違反が多い。

勤務中の居眠りが多い。※ただし、会社には健康管理の責任があります。

勤務中に個人的な興味でスマホをいじる時間が長い。

仕事をしているふりをして時間をつぶしている。

時々勤務中に感情を爆発させ叫ぶことがある。

上司から注意しても詫びないし、反省の色を示さない。

上司の指示に従わない。

世間一般の常識から外れた行為が目立ち、その自覚が無い。

遅刻の回数が多く、1回あたりの遅刻が長時間。

以上について、口頭・文書での注意が繰り返されているが改善されない。

 

万一、裁判などになれば「いろいろありました」ではなく、いつどこで何があったのかという事実の記録が必要です。

つまり、解雇するにもそれ相当の証拠の蓄積が必要になるということです。

 

大前提として、解雇が無効とされないためには、就業規則に具体的な解雇理由の規定が置かれていることも必要です。

その意味で、解雇に関する規定は、具体的で詳細なものであることが求められるのです。

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