2022/10/31|923文字
<常識的に考えて>
「残業代はいただきません」「年次有給休暇は取得しません」「5年間は退職しません」という同意があって、きちんと書面を残しておけば、すべてが有効だとします。
すると、会社が思いつく限りの同意書の提出を採用の条件とします。
こうして、新人の入社の時にあらゆる同意書を書かせておけば、労働基準法の存在など無意味になります。
このような不合理な結果を考えると、たとえ本人が心の底から同意していても、その同意は無効だということがわかります。
<法的に考えて>
憲法が労働者の保護をはかるため、賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定めることにしました。〔日本国憲法第27条第2項〕
こうして定められた法律が労働基準法です。
ですから、労働基準法の目的は、使用者にいろいろな基準を示して守らせることによって、労働者の権利を保護することです。
労働者自身の同意によって、この基準がくずされてしまったのでは、労働者の権利を守ることはできません。
労働基準法は使用者に対し、とても多くの罰則を設けて、基準を守らせようとしています。
一方で、労働者に対する罰則はありません。
労働者が労働基準法違反で逮捕されることもありません。
<会社への「しっぺ返し」>
パート社員から「12月の給料をもらうと扶養から外れてしまうので受け取りを辞退します」という申し出があったとします。
店長が大喜びで、念のため一筆とっておいたとします。
しかし、退職後にそのパート社員から「あのときの給料を支払ってください」と請求されたら、権利が時効消滅していない限り拒めません。〔労働基準法第24条第1項〕
事務職の正社員から「また計算間違いをしました。計算し直して、書類を作り直します。私のミスですから、今日の残業代はいりません」と言われた上司は、「まぁそうだよな」と思います。そして、念のため一筆とっておいたとします。
それでも、この正社員が退職するときに、会社に残業代の支払を求めたら、権利が時効消滅していない限り会社は拒めません。
社員は在職しているうちは、ある意味で会社に束縛されています。
しかし、退職すれば自由になります。
そして、労働者の権利を最大限に主張できるのです。