過労死基準の変更

2021/10/10|1,473文字

 

労災事故と被災者本人の過失

 

<過労死等防止啓発月間>

厚生労働省では、11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、過労死等をなくすためにシンポジウムやキャンペーンなどの取組を行っています。

この月間は、「過労死等防止対策推進法」に基づくもので、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、関心と理解を深めるため毎年11月に実施されています。

月間中は、国民への啓発を目的として、各都道府県で「過労死等防止対策推進シンポジウム」、「過重労働解消キャンペーン」として、長時間労働の削減や賃金不払残業の解消などに向けた重点的な監督指導やセミナーの開催、土曜日に過重労働等に関する相談を無料で受け付ける「過重労働解消相談ダイヤル」等が行われます。

ここで「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患又は心臓疾患を原因とする死亡、もしくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患、心臓疾患、精神障害をいいます。

 

<脳・心臓疾患の労災認定基準の改正>

厚生労働省は、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長宛てに通知しました。〔令和2年5月29日付基発0529第1号通達〕

そして今度は、「脳・心臓疾患の労災認定基準」が改正されました。〔令和3年9月14日付基発第0914第1号〕

従来は、業務による過重負荷を原因とする脳血管疾患や虚血性心疾患等については、平成13(2001)年12月に改正された「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」に基づき労災認定が行われていました。

しかし、改正から約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、最新の医学的知見を踏まえて、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」において検証等を行い、令和3(2021)年7月16日に報告書が取りまとめられ、認定基準が改正されたものです。

 

<改正前の基準>

業務の過重性の評価基準として、改正前の基準はそのまま維持されています。

これは、長期間の過重業務を基準とするものです。

・発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性が強い。

・月45時間を超えて長くなるほど、関連性は強まる。

・発症前1~6か月間平均で月45時間以内の時間外労働は、発症との関連性が弱い。

労働時間以外の負荷要因としては、 拘束時間が長い勤務、 出張の多い業務などが挙げられています。

 

<改正後の基準>

業務の過重性の評価基準として、従来の認定基準に新たに追加されたのが次の内容です。

まず、長期間の過重業務を基準とするものに以下が加わりました。

・改正前の基準の水準には至らないがこれに近い時間外労働があり、一定の労働時間以外の負荷もあった場合には、業務と発症との関連が強いと評価。

・勤務間インターバルが短い勤務、身体的負荷を伴う業務なども、評価対象とする。

また、短期間の過重業務であっても「発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」等、異常な出来事があった場合には、業務と発症との関連性が強いと判断できる。

 

<解決社労士の視点から>

新たに加わった基準により労災と認定される事例は、これから出現してくることになります。

しかし少なくとも、従来の労災認定基準が一段緩和され、認定されやすくなったことは確かです。

「雇い主である会社側の責任もそれだけ重くなった」と言えます。

残業削減の具体的な手法(働き方改革)

2021/10/09|1,974文字

 

残業の削減方法

 

<必要性の高くない業務をやめる>

「昔からこの業務をやっているから」というのは、無駄な業務である可能性が高いといえます。

なぜなら市場は変化し、これに対応する企業の業務も変化するわけですから、昔から行っている業務ほど無駄な業務である可能性は高いのです。

「もし、この業務をやめてしまったら」と仮定してみて、特に支障が無いのであれば直ちにやめましょう。

多少の不都合がある場合でも、それには目をつぶるとか、やり方を変えて時間を短縮できます。

ひとつの部門で無駄な業務を削減しようとしても、何が無駄なのか分からないことがあります。

関連する複数の部門で意見交換すれば、「その資料はもう要らないよ」という話が出てくるでしょう。

 

<ダブって同じ業務をやらないようにする>

上司が部下の仕事の具体的な内容を把握できていないことがあります。

これは上司が悪いのではなく、把握する仕組みが無いために起こる現象です。

上司が部下の仕事を具体的に把握できる仕組みがあれば、同じ仕事を複数の社員が行っているという無駄は省けます。

また、上司が部下の仕事内容を具体的に把握できている場合でも、別の部門とダブって同じ仕事を行っているケースは多いのです。

たとえば、総務、人事、経理で仕事内容の比較をすると、似通った業務があります。

どこか一つの部署でまとめて行えば、全体の労働時間が減少します。

 

<業務に必要な情報を社内外で共有する>

名刺情報を社内で共有するシステムは一般化しています。

小さな会社でも、「来週の火曜日は取引先の〇〇さんがお休み」という情報を共有すれば、その取引先に無駄な連絡を取ることが無くなります。

また、その取引先にとっても煩わしさが軽減されます。

情報の共有は、パソコンのサーバーを活用するなどITの活用が中心となりますが、専門的な知識は不要です。

できるところから実行に移しましょう。

 

<会議・打合せの廃止・短縮>

定例の会議というのは、必要性が疑われます。

その会議によって得られる効果がどのようなものであるか、具体的に検討して、よく分からなければ一度やめてみたらどうでしょう。

それで不都合が無いのであれば、廃止するのが正しいのです。

たとえ必要な会議であっても、本来の勤務時間外にはみ出してしまうようなものは開催時間帯の再検討が必要です。

また、会議の時間を2時間に設定していたところ、1時間で結論が出たので、あとの1時間は雑談や意見交換というのも見直したいです。

本当に必要な会議や打合せというのは、法定のものを除き、驚くほど少ないものです。

 

<その業務を行う日時の見直し>

たとえば、「業務日報はその日のうちに」というルールを設定すれば、当然に残業が発生するでしょう。

しかし、上司の自己満足ではないのかなど、これが本当に必要なのかを検討して、期限を延ばすとか、日報ではなく週報や月報にできないかなど、検討の余地が大いにあります。

 

<空き時間の活用>

手が空いてしまう時間があります。

こんなとき雑談したり仮眠を取ったりも良いのですが、「手が空いた時やることリスト」を作っておいて、これを行ってはいかがでしょうか。

書類のファイリング、不要書類の廃棄、徹底清掃、OJT、ロールプレイイングなど、「時間のある時にやろう」と思えることをリストアップしておいて、実際に行うということです。

 

<役割分担の見直し>

「全員が必ず」という仕事を、得意な人に集中して任せてしまうことが考えられます。

任された人は、その能力が高いのですから、給与が上がって当然です。

その分、負担が減った社員に別の仕事を任せるとか、見合った待遇を考えるとか、調整することも必要になります。

 

<スキルの向上>

社員の能力が向上するというのは、本人にとっても嬉しいものです。

資格を取得して業務に活用している社員に資格手当を支給するというのが一般的ですか、資格取得に必要な経費を会社が負担するという形もあります。

客観的に認められる形で能力の向上が示されるのであれば、他の社員も納得できますし、社員にとっても、能力向上へのモチベーションが高まります。

いずれにせよ、会社が負担する経費以上に、その社員が会社の利益に貢献してくれるのなら生産性が向上します。

そして、業務内容が同じであれば、それに要する時間も短縮されています。

 

<新たなツールの導入、運用の改善>

マニュアル、チェックリスト、予定表、目標達成グラフなどを新たに導入することにより、効率が上がったり、モチベーションがアップしたりということがあります。

ミスの軽減になったり、情報共有による効率化を図れたり、いずれにせよ労働時間の短縮につながります。

また、今使っているツールについても、そのツールを導入した目的に立ち返り、より良い活用法を考え、場合によっては廃止することも考えましょう。

労災防止も転ばぬ先の杖

2021/10/07|883文字

 

<転倒予防の日>

10月10日は、日本転倒予防学会が制定する転倒予防の日です。

「テン、とお」の語呂合わせです。

職場での転倒災害は、休業4日以上のものに限っても、令和2(2020)年に30,929件と労働災害で最も多く、さらに増加傾向にあります。

転倒災害は、その約6割が休業1か月以上と重症化するものも多く、特に50代以上の女性で多く発生しています。

転倒予防は、政府の目指す女性や高齢者の活躍できる社会の実現のためにも、大変重要な課題です。

具体的な予防策としては、次のようなものが有効です。

 

<整理・整頓・清掃・清潔>

いわゆる4Sです。

事故の発生しやすい通路、階段、出口に物を放置せず、定位置管理を徹底します。

また、床の水たまりや氷、油、粉類などは放置せず、その都度取り除きます。

定期的な清掃も大事ですが、転倒を予防するには「その都度」の清掃が必要です。

 

<危険の見える化>

ヒヤリハット活動により、転倒しやすい場所の危険マップを作成し、周知すると効果的です。

また、段差のある箇所や滑りやすい場所など、転倒事故が発生しやすい箇所に注意を促す標識を付けましょう。

十分に大きな文字と図を併用すると効果的です。

 

<設備の改善>

通路や階段を安全に移動できるように十分な明るさ(照度)を確保します。

節電の観点からも、一般の電球や蛍光管よりもLEDライトがお勧めです。

職場環境の改善等のために、エイジフレンドリー補助金も活用できます。

 

<転倒・腰痛予防体操>

これはかなり効果的であることが知られており、労働基準監督署が労災関係の監督に入ると推奨することが多いと思います。

ストレッチや転倒予防のための運動を朝礼の内容に取り入れるなど、無理無く習慣化することが大事です。

 

<転倒予防教育>

ポケットに手を入れたまま歩かない、滑りにくくちょうど良いサイズの靴を履くなど、基本的なことほど効果があります。

また、転倒・腰痛予防体操は職場だけでなく、休日等に自宅で行うことも必要ですから、こうした指導も行いましょう。

YouTubeで、転倒・腰痛の予防に役立つ「いきいき健康体操」も公開されています。

 

解決社労士のご紹介

労災事故の発生と本人の過失

2021/10/05|1,405文字

 

労災事故と被災者本人の過失

 

<労災保険の適用>

労災認定にあたっては、被災者本人の過失は問題とされず労災保険が適用されることになります。

仮に、被災者本人に過失があれば労災保険は適用されないのだとすると、労災保険は適用範囲が著しく制限されてしまいますから、制度そのものの存在意義が薄れてしまいます。

ところが現実には、被災者本人の不注意を反省させる意図があってか、上司から「自分の過失だから労災にはならない」という誤った説明が行われることもあるようです。

 

<労災事故の発生原因>

労災事故の発生原因として、その責任の所在から考えると次のようなパターンが考えられます。

・被災者本人に過失がない場合

・被災者本人にも使用者にも過失がある場合

・被災者本人だけに過失がある場合

・被災者本人が故意にケガをする場合

なお、通勤災害については、被災者本人の過失の他、道路の管理者、鉄道会社、バス会社などの落ち度が考えられます。

使用者の過失というのは、ほとんど問題にされることがありません。

 

<被災者本人に過失がない場合>

まず、使用者側に責任がある場合として、滑りやすい床の上で作業するにあたって会社から支給された靴を履いていたが、その滑りやすさから会社に改善を求めていたが拒否され、実際に事故が発生してしまったなどのケースが想定されます。

あるいは、設備の安全点検が不十分で、天井からの落下物によりケガをするケースも考えられます。

また、酔ったお客様から理由なく突然に暴行を受けて転倒しケガをするような第三者行為災害もあります。

これらの場合には、「自分の過失だから労災にはならない」という誤った説明がなされることは稀でしょう。

 

<被災者本人にも使用者にも過失がある場合>

これが労災事故では最も多いでしょう。

たとえば、被災者本人の過失が認められるものの、適切な指導教育が不足していたり、危険個所に危険を知らせる表示が無かったりと、使用者側にも落ち度がある場合です。

使用者としては、被災者本人の過失のみに注目して「自分の過失だから労災にはならない」という誤った説明が行われやすいケースです。

しかし、きちんと労災の再発防止を考えた場合には、使用者の行うべきことが数多く見つかりますので、被災者本人の過失に片寄って責任が追及されることは少なくなります。

 

<被災者本人だけに過失がある場合>

設備、機械、器具などに安全上の問題点はなく、被災者本人に対する指導教育も十分で、危険個所の表示も適切であって、本人の不注意以外に原因が見当たらないような場合もあります。

被災者本人がルールを無視して行動し被災してしまう場合や、椅子を傾けて座っていて椅子ごと倒れてしまう場合などが考えられます。

このような場合であっても、労災認定され労災保険が適用され給付が行われるのが一般です。

 

<被災者本人が故意にケガをする場合>

一般には、労災保険の適用対象外となります。

しかし、過重労働やパワハラなどによって、被災者本人が精神障害に陥り自傷行為に及んだような場合には、労災事故と認定されることがあります。

 

<労災の判断権者>

そもそも事故が起こってケガ人が出た場合に、それが労災となるかどうかの判断は、所轄の労働基準監督署(労働局)が行います。

使用者や被災者本人の判断が、そのまま有効になるわけではありません。

労災認定について疑問がある場合には、労働基準監督署や社会保険労務士に相談することをお勧めします。

将来の老齢年金受給額を増やすには

2021/10/04|1,003文字

 

年金手帳の再発行

 

<従業員の心理>

給与明細書を見て「社会保険料が高い」と嘆いていた社員も、老齢年金の受給開始年齢が近づくと自分の受給予定額を知ることになり、「思ったよりも少ない」という感想を抱くことが多いものです。

さらに、将来の年金額を増やしたいと考える従業員も少なくありません。

このニーズに応える方法としては、次のようなものがあります。

 

<繰り下げ>

特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給できる人を除き、老齢年金の受給開始年齢は原則として65歳です。

この受給開始時期を66歳以降に遅らせることによって、老齢年金の受給額を増やすことができます。

この場合、年金受給開始年齢は上がるわけです。

しかし紛らわしいことに、年金の「繰り下げ」と呼んでいます。

老齢年金の受給額は、繰り下げ1か月につき0.7%の増額となります。

最長で10年間繰り下げることができますから、最大で84%増額できる計算です。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受給できる場合に、両方を同時に繰り下げることもできますし、片方だけ繰り下げることもできます。

年金受給者に妻や子がいると加算される「加給年金」という仕組もあります。

老齢厚生年金を繰り下げている期間中は、加給年金を受給できませんので、老齢基礎年金だけを繰り下げると得なこともあります。

 

<70歳まで働く>

働いて厚生年金に加入し続けていれば、70歳までは、加入期間が延びることによって年金額も増えます。

働いて収入がある期間だけ年金の繰り下げをすることも考えられます。

会社としては、65歳以降も継続勤務して欲しい社員に対しての説得材料ともなります。

 

<追納>

経済的な理由で、国民年金保険料の全部または一部の免除を受けた期間がある人は、その内容に応じて年金額が減額されます。

この場合、10年以内に追納すれば、追納した保険料が年金額に反映され受給額が増えることになります。

学生納付特例制度など、国民年金保険料の納付猶予制度を利用した人は、そのままでは年金額が減額されてしまいます。

この場合にも、10年以内に追納すれば、追納した保険料が年金額に反映され受給額が増えることになります。

 

<任意加入>

老齢基礎年金が満額でない場合など、60代前半で厚生年金に加入していなければ、国民年金に任意加入して、満額となるまで受給額を増額することができます。

 

上記の他にも、付加年金や国民年金基金制度を利用することもできます。

社労士事務所との契約解除

2021/10/03|818文字

 

社会保険労務士の顧問契約

 

<柳田事務所の契約>

基本契約書の中に次の条項があります。

 

第4条 契約の解除

 甲乙双方は、次の各号のいずれかに該当する場合、直ちに本契約を解除することができる。

⑻ 所期の目的が達成されたとき

 

つまり、顧問契約は交わしたけれど、必要が無くなったので契約を解除したいという場合には、いつでも解約できるという条項です。

企業が社会保険労務士と顧問契約を交わすのは、会社設立に際して手続がわからない、算定基礎届や年度更新などの手続がわからない、労働トラブルへの対応方法がわからないなどの事情があるときです。

しかし、社会保険労務士の指導のもと、必要なノウハウが顧問先に伝授されたなら、自社で何とかなるわけですから、顧問の社会保険労務士は要らなくなるはずです。

そこまで行かなくても、柳田事務所では顧問先が成長すると顧問料が減額していく仕組を採用しています。

顧問先の手がかからない分、顧問料は安くなって当然だと思います。

 

<顧問契約の重要性>

会社が従業員を雇う場合には、労働条件通知書や雇用契約書によって、基本的な労働条件を書面で示すことが労働基準法によって義務づけられています。

ところが、社会保険労務士が企業の顧問となる場合には、契約書の作成が義務付けられているわけではありません。

顧問契約については、社会保険労務士から企業に対して説明する義務があります。

これは法的な義務というよりも道義上の義務です。

顧問料でどこまでの業務を行うのか、どの業務は顧問料の範囲外になるのかということが書面で確認されないのはトラブルの元です。

顧問料の請求があった場合に、なぜその金額になるのか明確な基準が無ければ企業にとっても不安です。

今、顧問の社会保険労務士がいる場合には、顧問契約書の内容を再確認していただきたいですし、これから社会保険労務士と顧問契約を交わしたいと思っている企業様は、契約の内容について十分な説明を受けたうえで、契約締結に臨むよう強くお勧めします。

高校生アルバイトの労働条件

2021/10/02|820文字

 

労働者本人の同意

 

<高校生の時給>

最低賃金法の制限があります。

高校生でも同じ最低賃金です。

試用期間でも最低賃金を下回ることはできません。

例外的に都道府県労働局長の許可を受けたときは、最大2割減額できるというのが最低賃金法に規定されています。〔最低賃金法第7条〕

しかし、ほとんど許可の実績がありません。

 

<17歳までの労働時間>

1日8時間を超える勤務はできません。

平均ではなく、どの日も8時間までです。

1週間で40時間を超える勤務はできません。

就業規則に特別な定めがなければ、日曜日から土曜日までの7日間で計算します。

日曜日から土曜日まで7日間連続で勤務することはできません。

また、フレックスタイム制などの変形労働時間制は使えません。

 

<17歳までの勤務時間帯>

午後10時以降翌日午前5時までは勤務できません。

 

<17歳までの業務内容の制限>

重量物の取り扱いについては、次の表のとおりの制限があります。

年齢と性別

重量の制限

たまに持ち上げる場合

続けて持ち上げる場合

15歳まで

12キログラム未満

8キログラム未満

15キログラム未満

10キログラム未満

16・17歳

25キログラム未満

15キログラム未満

30キログラム未満

20キログラム未満

運転中の機械・動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査・修繕をさせ、運転中の機械・動力伝導装置にベルト・ロープの取付け・取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせることはできません。

毒劇薬、毒劇物その他有害な原料・材料または爆発性、発火性、引火性の原料・材料を取り扱う業務、著しくじんあい・粉末を飛散し、有害ガス、有害放射線を発散する場所または高温・高圧の場所における業務その他安全、衛生または福祉に有害な場所における業務に就かせることはできません。

坑内労働に就かせることはできません。

 

※以上の内容には特別な例外もあるのですが、成人と同じようには扱えないということです。

成長しないことを理由にパート社員を雇止めしても大丈夫か

2021/10/01|1,461文字

 

雇止めの有効性

 

<成長しないパート社員>

複数のパート社員を雇用していると、自ずからその働きぶりに違いが出てきます。

パート社員にも人事考課制度があって、評価により昇給が異なる職場では、収入にも差が出てきます。

さらに、フルタイムや正社員への登用制度があれば、その差は歴然としてきます。

成長が遅く、後輩に追い抜かれているパート社員については、雇い続けることへの疑問が生じ、「契約の更新をやめて、別の人を新たに採用したほうが良いのではないか」と考えるようになるかもしれません。

 

<雇止めの有効要件>

契約を更新しないで雇止めするのは、解雇の一種ですから、解雇予告期間を置いたり解雇予告手当を支払ったりの必要があります。〔労働基準法第20条〕

また、一定の場合に「使用者が(労働者からの契約延長の)申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」という抽象的な規定があります。〔労働契約法第19条〕

成長しないことを理由に雇止めをするには、この条文の中の「客観的に合理的な理由」というのが特に問題となります。

なぜなら、成長しないことを理由に時給を据え置くことは客観的に合理的でありうるのですが、時給を下げること、ましてや雇止めをすることは、合理的な理由があるとは言い難いからです。

 

<契約更新の条件が示されている場合>

労働条件通知書には、契約更新の有無、更新する/しない場合の条件を明示することになっています。

たとえば、職能ランクや職務ランクが設定されていて、半年以内に一定のランクに到達することが契約更新の条件となっていて、成長に必要な研修や指導も行われているとします。

これにもかかわらず、本人の意欲不足など個人的な事情で一定のランクに到達しなかった場合には、雇止めも「合理的な理由」があることになります。

これは、採用時にこうしたことを具体的に説明しておけば、労働契約の内容となっているものと考えられます。

 

<最低賃金との関係で>

たとえば東京都では、2011年10月の最低賃金は837円でした。

これが、2021年10月からは1,041円になっています。

実に24%の上昇です。

2年前に、成長を期待して時給1,000円で採用したパート社員について、全く成長が見られず、周囲の負担となっていて、これからの成長が期待できないとしても、雇っているからには1,041円以上の時給でなければ違法になるわけです。

会社としては、こうした事態を避けたいわけですから、契約更新の条件を設定する場合、「最低賃金を下回るような職能ランク・職務ランクに該当する場合には契約を更新しない」という内容も加えておくべきでしょう。

 

<解決社労士の視点から>

「成長しないこと」を理由に雇止めを検討する場合には、自己責任が前提となっています。

つまり、家庭に解消し難いトラブルが続いていて業務に集中できない、休日に体力を消耗するボランティア活動を長時間行っていて勤務中にスタミナ切れになる、そもそも自分の業務に関心が持てないなど、本人に責任のあることで「成長しないこと」が前提となっています。

しかし、パワハラやセクハラ、指導不足などがあって、「成長しないこと」の責任が会社側にもある場合には、安易に雇止めができません。

やはり、契約更新などの機会をとらえた定期面談や聞取り調査の結果から、「成長しないこと」の原因を探っておくことが必要になってきます。

フレックスタイム制に必要な就業規則と労使協定

2021/09/29|2,136文字(長いなぁ)

 

<フレックスタイム制>

フレックスタイム制は、1日の労働時間の長さを固定的に定めず、最長3か月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者はその総労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決め、その生活と業務との調和を図りながら、効率的に働くことができる制度です。〔労働基準法第32 条の3

あくまでも労働基準法の範囲内で認められる特例ですし、導入するには就業規則と労使協定での規定が必要です。

ここを省略して運用すると違法ですし無効になります。

 

<就業規則の規定>

モデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)にはフレックスタイム制の規定例が見当たらないのですが、労働基準監督署などで配布される「フレックスタイム制の適正な導入のために」というパンフレットには、次のような規定例があります。

 

 (適用労働者の範囲)

第○条 第○条の規定にかかわらず、企画部に所属する従業員にフレックスタイム制を適用する。

第○条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前6時から午前10 時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後3時から午後7時までの間とする。

  ② 午前10 時から午後3時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、所属長の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。  

 (清算期間及び総労働時間)

第○条 清算期間は1箇月間とし、毎月26 日を起算日とする。   

  ② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、154 時間とする。  

 (標準労働時間)

第○条 標準となる1日の労働時間は、7時間とする。  

 (その他)

第○条 前条に掲げる事項以外については労使で協議する。

 

あくまでも規定例ですから、これをそのまま使うのではなく、それぞれの職場に合わせて修正することが必要です。

その際、法令の制限を超えた修正をしてしまうと、その部分は無効になってしまいます。

不安があれば、運用を含め社会保険労務士にご相談ください。

 

<労使協定の規定>

労使協定には、次の各項目を定めます。

 

・対象となる労働者の範囲

 対象となる労働者の範囲は、全社員、特定の部署、特定の部署の一部の社員、あるいは個人ごとに指定することもできます。

 

・清算期間

清算期間とは、労働者が労働すべき時間を定める期間のことで、清算期間の長さは、現在の法律では3か月以内に限ります。

1か月を超える期間とすると運用が複雑になりますから、賃金の計算期間に合わせて1か月とするのが一般的です。

 

・清算期間における起算日

 毎月1日から月末まで、16 日から翌月15日までなど、清算期間を明確にする必要があります。

 

・清算期間における総労働時間

清算期間における所定労働時間のことです。

 この時間は、清算期間を平均し、1週間の労働時間が40 時間(特例措置対象事業場は44 時間)以内になるように定めなければなりません。

 ここで、特例措置対象事業場とは、常時10 人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く。)、保健衛生業、接客娯楽業のことです。

 一般には、40時間 ÷ 7日 × 暦の日数 で計算されます。

 暦の日数が30日の月なら、171.4時間となります。

 1か月単位でみて制限を上回ってはいけませんから、端数は切捨てで設定します。

 

・標準となる1日の労働時間

 フレックスタイム制の対象労働者が年次有給休暇を1日取得した場合には、その日に標準となる1日の労働時間労働したものとして取扱うことが必要です。

 

・コアタイム

 コアタイムは、労働者が出勤日に必ず働かなければならない時間帯です。

設けないことも可能です。

なるべく短い方が、フレックスタイム制の効果は大きくなりますが、会社の労務管理の都合も考えて設定しましょう。

 特定の日や曜日だけコアタイムを変えたり、コアタイムを1日の中に複数設けることも可能です。

 

・フレキシブルタイム

 労働者が勤務できる時間帯に制限を設ける場合は、その開始時刻と終了時刻を定める必要があります。

 労働者の勤務時間を30分単位で区切り、その中から選ぶような仕組はできません。

 

<残業時間の計算>

「清算期間における総労働時間」を超えて勤務した時間が残業時間ですから、時間外割増賃金の支払対象となります。清算期間が1か月であれば、1日や1週単位での計算は不要です。

ここが、賃金計算上のメリットになります。

ただし、1週間丸々出勤した場合には、法定休日出勤の賃金を別に計算し、フレックスタイム制での労働時間には加えません。

また、精算期間内の残業時間を、次の精算期間の早帰りなどで相殺することはできません。

清算期間をまたいでしまっては、清算期間の意味がありません。

また、賃金の全額払いの原則〔労働基準法第24条第1項本文〕にも反します。

労働時間が「清算期間における総労働時間」に足りないときは、その時間分だけ欠勤控除をすることになりますが、年次有給休暇の取得によって総労働時間を補うことも多いでしょう。

労働基準監督署の監督指導による賃金不払残業の是正結果(実例付き)

2021/09/28|3,104文字(長いなぁ)

 

これって労働時間?

 

<是正結果の概要>

厚生労働省は、労働基準監督署が監督指導を行った結果、令和2(2021)年度に不払となっていた割増賃金が支払われたもののうち、支払額が1企業で合計100万円以上である事案を取りまとめ公表しました。

 

【監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和2年度)】

1.是正企業数1,062企業(前年度比549企業の減) うち、1,000 万円以上の割増賃金を支払ったのは、112企業(同49企業の減)

2.対象労働者数6万5,395人(同1万3,322人の減)

3.支払われた割増賃金合計額69億8,614万円(同28億5,454万円の減)

4.支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり658万円、労働者1人当たり11万円

 

<不正確な労働時間の把握の問題>

○立入調査(臨検監督)のきっかけ

「出勤の記録をせずに働いている者がいる。管理者である店長はこのことを黙認している。」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。

○指導の内容

ICカードを用いた勤怠システムで退社の記録を行った後も労働を行っている者が監視カメラに記録されていた映像から確認され、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

○企業の一次対応

労働者の正確な労働時間について把握すべく実態調査を行い、不払となっていた割増賃金を支払。

○企業の改善策

・労働基準監督官を講師として、各店舗の管理者である店長を対象に労務管理に関する研修会を実施するとともに、店長以外の従業員に対しても会議等の機会を通じて法令遵守教育を行い、賃金不払残業を発生させない企業風土の醸成を図った。

・社内コンプライアンス組織の指導員を増員して、店舗巡回を行い、抜き打ち調査を行うことにより勤怠記録との乖離がないか確認することとした。

●ポイント

管理職としては、自部門の人件費が少なくなるという期待から、不正を見逃したくなる誘惑にかられます。

労務管理に関する研修会や法令遵守教育は、最低でも年1回、しつこく繰り返すことが必要です。

途中で手を緩めると、いつの間にか元に戻ってしまう可能性は驚くほど高いのです。

 

<労働時間記録との乖離の問題>

○立入調査(臨検監督)のきっかけ

「時間外労働が自発的学習とされ割増賃金が支払われない」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。

○指導の内容

ICカードを用いた勤怠システムにより労働時間管理を行っていたが、ICカードで記録されていた時間と労働時間として認定している時間との間の乖離が大きい者や乖離の理由が「自発的な学習」とされている者が散見され、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

○企業の一次対応

勤怠記録との乖離の理由が自発的な学習であったのか否かについて労働者からのヒアリングを基に実態調査を行った。

この結果、自発的な学習とは認められない時間について不払となっていた割増賃金を支払った。

○企業の改善策

・代表取締役が適切な労働時間管理を行っていくとの決意を表明し、管理職に対して時間外労働の適正な取扱いについて説明を行った。

・労働組合と協議を行い、今後、同様の賃金不払残業を発生させないために労使双方で協力して取組を行うこととした。

・事業場の責任者による定期的な職場巡視を行い、退勤処理をしたにもかかわらず勤務している者がいないかチェックする体制を構築した。

●ポイント

賃金支払義務の無い「自発的学習」と認定されるためには、参加/不参加が全くの自由であって、参加しなくても欠勤控除されず、評価の対象とされず、上司を含め社内で非難されることが無いものであることが必要です。

また、その学習が業務に必須のものであれば、参加せざるを得ないのですから、この場合も「自発的学習」とは言えません。

 

<自己申告制の不適切な運用の問題>

○立入調査(臨検監督)のきっかけ

「自己申告制が適正に運用されていないため賃金不払残業が発生している」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。

○指導の内容

生産部門は、ICカードを用いた勤怠システムにより客観的に労働時間を把握している一方、非生産部門は、労働者の自己申告による労働時間管理を行っていた。

非生産部門の労働者について、申告された時間外労働時間数の集計や、割増賃金の支払が一切行われておらず、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

○企業の一次対応

非生産部門の労働者について、申告が行われていた記録を基に時間外労働時間数の集計を行い、不払となっていた割増賃金を支払った。

○企業の改善策

・非生産部門もICカードを用いた勤怠システムで労働時間管理を行うとともに、時間外労働を行う際には、残業申請書を提出させ、残業申請書と勤怠記録との乖離があった場合には、実態調査を行うこととした。

・労務管理担当の役員から労働時間の管理者及び労働者に対して、労働時間管理が不適切な現状であったため改善する旨の説明を行い、客観的な記録を基礎として労働時間を把握することの重要性についての認識を共有した。

●ポイント

自己申告制も「やむを得ない」事情があるときには許されます。

しかし、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によれば、対象労働者ひとり一人の教育、上司の教育、抜き打ちの実態調査、把握した労働時間と実際の労働時間の食い違いについての原因究明と改善など、非常にハードルが高いといえます。

真に「やむを得ない」事情がある場合を除き、自己申告制を運用することはお勧めできません。

 

<全社的な賃金不払残業が行われていたケース>

○立入調査(臨検監督)のきっかけ

「退勤処理を行った後に働いている者がいる」との情報を基に、労基署が立入調査を実施。

○指導の内容

ICカードを用いた勤怠システムにより労働時間の管理を行っていたが、労働者からの聴き取り調査を実施したところ、退勤処理後に労働をすること、出勤処理を行わず休日労働をすることがある旨の申し立てがあり、賃金不払残業の疑いが認められたため、実態調査を行うよう指導。

○企業の一次対応

労働者へのヒアリングやアンケートなどにより実態調査を行った結果、全社的に退勤処理後の労働が認められ、また、出勤処理を行わず休日労働を行っていることが判明したため、不払となっていた割増賃金を支払った。

○企業の改善策

・会社幹部が出席する会議において、代表取締役自ら賃金不払残業解消に関するメッセージ(労働時間の正しい記録、未払賃金の申告)を発信し、発信内容を社内のイントラネットに掲載するなどして、会社一丸となり賃金未払残業を解消することを周知した。

・36協定(時間外労働の協定届)の上限時間数を超えないために、時間外労働の適正な申請をためらうことが賃金不払残業の一因となっていた。このため、各店舗の勤務状況の実態調査を行い、人員不足や業務過多の店舗に対する人員確保や本社からの応援を行い、店舗の業務が過度に長くならないような措置を講じた。

●ポイント

賃金不払残業に限らず、パワハラやセクハラなど、代表者が「これを絶対に許さない」という決意を全社に表明することは、最初に行うべきことですし大きな効果が期待できます。

ただし、これもまた「労基署に言わされているのではないか」「本心は違うのではないか」と思われないように、繰り返し継続する必要があります。

代表者が「まともに残業代を支払って人件費が増えるのは嫌だ」「お気に入りの役職者のパワハラやセクハラは大目に見よう」と考えているのではないかと疑われるようでは、一歩も前に進めないのです。

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