兼務役員が兼務しない役員になったときの雇用保険

2021/10/28|662文字

 

<役員が雇用保険の対象者(被保険者)となる場合>

役員などが同時に部長、支店長、工場長など会社の従業員としての身分を兼ねている兼務役員の場合であって、就労実態や給料支払などの面からみて労働者としての性格が強く、雇用関係が明確に存在している場合には、例外的に雇用保険の対象者(被保険者)となります。

ハローワークで雇用保険の対象者(被保険者)とするときの手続には、就業規則、登記事項証明書、賃金台帳、などの提出が必要となります。

「働いている」という実態に変わりがなくても、一般の従業員から兼務役員になった場合には、ハローワークでの手続が必要になります。

兼務役員は、従業員としての身分の部分についてのみ、雇用保険の対象者となります。

そして保険料も、役員報酬の部分は含まれず、労働者としての賃金部分のみを基準に決定されます。

このことから、役員報酬と賃金とが明確に区別できる状態であることも必要です。

 

<雇用保険の対象者(被保険者)ではなくなる場合>

法人等の代表者(会長・代表取締役社長・代表社員など)は、雇用保険の対象者(被保険者)とはなりません。

また、法人等の役員(取締役・執行役員・監査役など)についても、原則として雇用保険の対象者(被保険者)となりません。

これらの人と会社との関係は、雇用ではなく委任だからです。

従来、兼務役員として雇用保険の対象者(被保険者)であった人が、就労実態や給料支払などの面からみて労働者としての性格が弱くなり、雇用関係が存在しているとはいえなくなった場合には、雇用保険の資格を喪失することになります。

賞与支払届(賞与に社会保険料がかかる仕組み)

2021/10/27|569文字

 

<賞与にかかる社会保険料>

年3回以下支給される賞与についても、健康保険・厚生年金保険の毎月の保険料と同率の保険料を納付することになっています。

会社が社会保険加入の社員へ賞与を支給した場合には、支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届」により支給額等を届け出ます。

この届出内容により標準賞与額が決定され、これにより賞与の保険料額が決定されます。

なお、年4回以上支給される賞与は、賞与支払届の対象とはならず、報酬月額に加算され標準報酬月額の計算基準に含まれます。

 

<賞与の社会保険料の計算方法>

算定基礎届や月額変更届で使われる標準報酬月額保険料額表は使いません。

実際に支払われた賞与額(税引き前の総支給額)の1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」とします。

その「標準賞与額」に健康保険・厚生年金保険の保険料率をかけた額が、社会保険料となります。

保険料は、事業主と被保険者が折半で負担します。

 

<賞与の社会保険料の上限額>

標準賞与額の上限は、健康保険では年度の累計額573万円(年度は毎年41日から翌日331日まで)です。

また、厚生年金保険は1か月150万円とされていますが、同月内に2回以上支給されるときは合算した額で上限額が適用されます。

ここに示した上限額は、法改正により変更となる場合がありますので、最新情報をご確認ください。

シカハラ

2021/10/25|1,494文字

 

<希望者への支援>

会社が従業員に対して、自己啓発の一環として資格取得を支援するというのは、以前から行われていますし、業務との関連性の強いものは、特に支援を強化しているのが一般です。

あくまでも任意ですから、勉強時間の確保は自己責任です。

ただ、試験の当日や直前に特別休暇が設けられていることはあります。

勉強や受験に必要な経費の一部を会社が負担する場合もありますが、合格を条件として支払われることもあります。

事前申告無しに、合格したら報奨金を請求できるという仕組のこともあります。

いずれの場合も、資格取得を目指すか否かが、完全に従業員の自由に任されているわけです。

 

<資格取得を命じた場合の支援>

業務上の必要から、会社に資格者を置きたい場合には、従業員に資格取得を命じることもあります。

この場合には、資格取得に必要な行為は業務に準ずるものですから、次のような支援が必要となります。

資格取得に必須とされる教材費、受講料、受験料は会社負担とするのが妥当です。

会社指定の講習に参加させる場合には、その受講料や交通費、参加している時間帯の賃金の支払が必要です。

資格取得のためにレポートなどの提出が必要な場合には、その作成に必要な時間の賃金支払も必要です。

受験までは、業務の配分を見直して、勤務時間に勉強できるようにしたり、残業しなくても済むようにしたりの配慮も求められます。

資格取得に成功したら、昇級・昇格するとか、資格手当や金一封を支給するといったインセンティブも必要です。

 

<パワハラとなる場合>

パワハラの6類型のうちの「過大な要求」となるのが典型的です。

個人の能力や経験に照らして、難易度が高すぎる資格の取得を求め、一定の期間内に取得できなければ不利益を課すというのは明らかに「過大な要求」です。

業務との関連性が薄い資格の取得を強要したり、勤務状況から見て明らかに勉強時間を確保できないのに資格取得を求めたりするのも「過大な要求」となります。

 

<資格ハラスメントと背景>

資格ハラスメント(シカハラ)とは、会社が従業員に資格取得を強要し不当な負担を負わせたり、資格を取得できない従業員に対して減給、降格、退職勧奨、解雇などの不利益な取扱いをしたりするハラスメントです。

企業は、長年にわたって終身雇用、年功序列を前提としたメンバーシップ型雇用を行ってきました。

そこでは、企業内で役立つ能力が重視され、勤続年数や経験が能力の指標として用いられてきました。

しかし近年では、客観的に評価できる能力や仕事の成果が重視されるようになり、ジョブ型雇用も行われるようになりました。

こうした中で、資格を重視し従業員の資格取得を推奨する企業が増えた一方で、資格取得を口実とするハラスメントも顕在化するようになったのです。

 

<悪質な資格ハラスメント>

その会社の業務に無関係で難易度の高い資格取得を命じ、会社としての支援を全く行わないばかりか、長時間の残業や休日出勤を行わなければこなしきれない業務を担当させ、すぐに資格取得できないと解雇に追い込むというブラック企業もあります。

これはもう、資格取得の失敗を口実とする明らかな不当解雇です。

 

<解決社労士の視点から>

シカハラも、セクハラ、パワハラ、マタハラなどと同様に、以前から存在していたものが強く認識されるようになったものです。

その本質は、不当な嫌がらせであり、不法行為や犯罪に該当することがあります。

この場合、従業員や退職者は、企業に対して損害賠償を請求することもあります。

世間で新たなハラスメントの認識が強まるにつれ、企業の賠償責任のリスクも高まっているといえます。

短期退職手当等の退職所得金額の計算方法の改正

2021/10/22|848文字

 

<計算方法の改正>

令和4(2022)年1月1日、役員等以外で勤続年数5年以下の者に対する退職手当等(短期退職手当等)の退職所得金額の計算方法が改正されます。

 

【現 行】

退職所得金額=(退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2

退職所得金額は、その年中に支払を受ける退職手当等の収入金額から、その人の勤続年数に応じて計算した退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とされています。

ただし、役員等勤続年数が5年以下である人が、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受ける特定役員退職手当等については、この「2分の1課税」を適用しないこととされています。

 

【改正後】

令和3年度の税制改正により、令和4(2022)年1月1日からは、短期勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるもので、特定役員退職手当等に該当しないものは「短期退職手当等」といい、その退職所得金額については、次のとおり計算することとされました。

 

(短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)が300万円以下の場合

退職所得金額=(短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2

 

(短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)が300万円超の場合

退職所得金額=150万円+{短期退職手当等の収入金額-(300万円+退職所得控除額)}

300万円以下の部分の退職所得金額が150万円です。

300万円を超える部分の退職所得金額が、{短期退職手当等の収入金額-(300万円+退職所得控除額)}です。

 

<適用対象の注意点>

この改正は、令和4年分以後の所得税について適用されます。

退職手当等については、その「収入すべきことが確定した日」が令和4年1月1日以後であれば、改正後の法令が適用されます。

この「収入すべきことが確定した日」は、原則、退職手当等の支給の基因となった退職の日となります。

したがって、令和3年12月31日以前に退職した社員に対して支払う退職手当等については、改正前の法令の適用を受けることとなります。

正社員のほうが昇給して当然か

2021/10/19|1,863文字

 

正社員の昇給が少ないのはおかしいのか

 

<最低賃金の引上げ>

最低賃金が年々引き上げられ、事業規模に関わらず、賃金上昇圧力が高まっています。

令和2(2020)年10月は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえて、たとえば東京都では1,013円に据え置かれましたが、令和3(2021)年10月には1,041円へと引上げが再開されています。

こうして東京都の最低賃金は、この5年間だけを見ても932円から1,041円へと約11.7%上昇しています。

特に、小売業、製造業、清掃業、警備業などでは、最低賃金付近の時給で勤務している非正規社員が多いことから、最低賃金の急上昇が人件費の増加につながっています。

今年の10月に新規に東京都で採用されたパート社員の時給は、最低でも1,041円ですから、昨年、一昨年に採用されたパート社員は、更に高い時給でなければなかなか納得してもらえません。

最低賃金未満で働いていたパート社員の時給を、最低賃金に引き上げれば済むということではないのです。

 

<正社員の昇給>

厚生労働省が令和3(2021)年3月31日に公表した「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者(正社員)の月額賃金は、令和2年が307.7千円、5年前の平成27年が304.0千円、10年前の平成22年が296.2千円となっています。

令和2年の数値の出し方は、従来と変更されているので正確ではありませんが、単純計算では5年間で1.2%、10年間で3.9%の上昇と低い伸びに留まっています。

 

<正社員の不満>

正社員のうち数値管理の役割を担う管理職は、自部署の正社員・非正規社員の賃金の伸び率を把握していますので、非正規社員に対して正社員の昇給率が低いという実感を持ちやすいわけです。

昭和時代の感覚で言えば、「正社員は給与が高く、賞与や退職金も出る。パート社員の賃金が低く、賞与や退職金が出ないのは、パート社員として雇われたのだから当然だ」ということになります。

この感覚からすると、正社員と非正規社員とで、年収の差が縮まるのはおかしいということになります。

「正社員なのに毎年思うように昇給していかないのはおかしい」とも感じるわけです。

 

<同一労働同一賃金の考え方>

民法の「契約自由の原則」の趣旨を踏まえて、労働契約の締結を自由に任せておいたところ、正規労働者と非正規労働者との間で、不合理と見られる待遇差が増えてしまったという不都合が生じました。

原因としては、非正規労働者が使用者との間で労働契約の内容を決定する場合に、かなり弱い立場にあって、自由な交渉が大きく制限されているという実態が浮かび上がります。

つまり、当事者の対等な立場での交渉を前提とする「契約自由の原則」は、非正規労働者には当てはまらないのに、当てはまるものとして放置されてきたことに対する反省から、この待遇差を是正するために「同一労働同一賃金」が法制化されました。

改正前の労働契約法第20条や、現行のパートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第8条・第9条にその趣旨が示されています。

正規労働者・非正規労働者の区分がある以上、その間の格差は当然に存在するものであることは認め、不合理な差別とならないように均衡を求める趣旨となっています。

具体的には、担当する職務の内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容と配置の変更の範囲(職種の変更、昇進、転勤など)、その他の事情(正社員登用制度の実績など)を総合的に比較したうえで、個別の賞与、退職金、手当、休暇などに不合理な差別が無いかを検討する形になります。

こうして、「正社員は給与が高く、賞与や退職金も出る。パート社員の賃金が低く、賞与や退職金が出ないのは、パート社員として雇われたのだから当然だ」という昭和時代の感覚は否定されているわけです。

 

<働き方改革の視点から>

同一労働同一賃金は、働き方改革の一環で導入されました。

正社員と非正規社員との待遇差が不合理なものであってはならないというのは、正社員の待遇を引き下げて非正規社員並みにすれば良いということではありません。

非正規社員の待遇を引き上げて、非正規社員であっても安心して結婚し子供を育てられる日本にしようという、少子化対策の趣旨も込められています。

最低賃金の急速な引上げも、こうした少子化対策の趣旨に沿ってのことです。

「正社員なのに毎年思うように昇給していかない」のも、政府の推進する働き方改革の流れの中で、その意味を受け止めなければならないわけです。

採用面接で聞いてはいけないこと

2021/10/18|1,744文字

採用面接で聞けないこと

採用面接で病気のことを聞く

 

<労働局の指導>

面接担当官が、採用面接で聞いてはいけないことを聞いてしまい、応募者が労働基準監督署に相談した結果、その会社に労働局の指導が入るということがあります。

これは、全国の労働基準監督署が窓口となっています。

労働局は、その都道府県の労働基準監督署の上位に位置しますから、軽く考えてはいけません。

 

<聞いてはいけない本人に責任のない事柄>

・あなたの本籍はどこですか。

・あなたの家族の職業を言ってください。

・兄弟(姉妹)は何人ですか。

・あなたの自宅付近の略図を書いてください。

・○○町の××はどのへんですか。

企業としては、応募者の家族の状況を聞きたいところです。

しかしこれは、応募者の適性・能力にかかわりのない事柄を採否の判断基準に持ち込むことになり、個人の人権を尊重しない考え方です。

昔のJIS規格の履歴書には家族欄がありましたが、これは廃止され、厚生労働省から公表された新たな履歴書の様式例には、家族欄などありませんので注意が必要です。

また、現住所の環境についていろいろと聞くことは、身元調査に利用する目的ではないかと考えられても弁明の余地はありません。

 

<聞いてはいけない個人の自由であるべき事項>

・あなたの信条としている言葉は。

・あなたはどんな本を愛読していますか。

・家の宗教は何ですか。

・尊敬する人物を言ってください。

思想・信条や宗教、支持する政党、人生観などは、信教の自由、思想・信条の自由など、日本国憲法で保障されている個人の自由権に属する事柄です。

これらのことを記述させ、また聞いたりして採用選考の場に持ち込むことは、応募者の基本的人権を侵すことになります。

 

<企業の採用の自由とその制限>

企業にも職業選択の自由と経済活動の自由、そして契約締結の自由が保障されています。

これらが結びついて、企業には採用の自由が認められています。

したがって企業は、労働者の採用基準や採用条件について、原則として自由に決定することができます。

しかし、企業の採用の自由には、法律などによって一定の制限が課せられる場合があります。

その代表的なものは以下のとおりです。

・募集採用での性別による差別の禁止〔男女雇用機会均等法第5条〕

・労働者の身長、体重、体力を要件とすることの禁止

・転居を伴う転勤ができることを要件とすることの禁止〔男女雇用機会均等法第7条〕

・年齢制限の禁止〔雇用対策法第10条〕

・障害者差別の禁止〔改正障害者雇用促進法第34条〕

法定の規制を守らないと、口コミで会社の評判が落ちてしまいますし、応募者が来なくなってしまいます。

「うちは小さな会社だから、評判を気にすることはない」などと言っていると、人材不足で立ち行かなくなる可能性があります。

 

<公正な採用選考の取組>

企業が、学生・求職者らの応募者に対して、どのような採用手続で選考をするかについて法的な規制はありませんが、応募者である学生・求職者の基本的人権は尊重しなければなりません。

そこで、応募者の就職の機会均等が確保されるよう、公正な募集・採用選考が行われることが求められています。

つまり、本人が職務遂行上必要な適性・能力をもっているかどうかを採用基準とし、これと無関係な事項を採用基準としないことが必要です。

具体的には、本籍地や家族の職業など本人に責任のない事項や、宗教や支持政党などの個人の自由であるべき事項など、本人が職務を遂行できるかどうかに関係のない事項を採用基準とすることは許されません。

また、それらの事項を応募用紙や面接などによって把握することも、就職差別につながるおそれがあるため許されません。

 

<「面接シート」を使った採用面接の実施>

面接担当官が採用面接をするにあたっては、あらかじめ「面接シート」を準備しておくことをお勧めします。

「面接シート」には、面接で確認することをすべて網羅して記載しておき、応募者の回答も記入できるようにしておきます。

これを使いながら面接を進めることによって、聞き漏らしを防ぐことができ、効率よく進行することができますし、うっかり余計なことを聞いてしまうことも防げます。

裏面に面接担当官の評価やコメントを記入できるようにしておけば、記憶が新鮮なうちに情報をまとめることができます。

雇用保険マルチジョブホルダー制度

2021/10/16|941文字

 

<雇用保険法の改正>

令和4(2022)年1月1日から、雇用保険法の改正によりマルチジョブホルダー制度(高年齢被保険者の特例)がスタートします。

厚生労働省の事業主向けリーフレットによれば、次の適用要件を満たす労働者本人が、ハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができるようになります。

 

【適用要件】

・複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること

・2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること

・2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

 

<雇入れに際して事業主が行うべきこと>

労働者が用意する次の3つの申請書類のうち、「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」については、雇入れた事業主が労働者から記載依頼を受け、必要事項を記入したうえで確認書類と併せて本人に交付することとされています。

 

・雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届

・個人番号登録・変更届

・被保険者資格取得時アンケート

 

次の添付書類は省略できません。

 

・賃金台帳、出勤簿(原則、記載年月日の直近1か月分)

・労働者名簿・雇用契約書

・労働条件通知書、雇入通知書

 

役員、事業主と同居している親族および在宅勤務者等といった労働者性の判断を要する場合は、別途確認資料が必要となります。

事業主は、労働者の住居所管轄ハローワークから交付される「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主通知用)」を保管します。

 

<離職に際して事業主が行うべきこと>

離職者が「雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届」に申出人記載事項を記入し、事業主は記載依頼を受けて必要事項を記入し、確認書類と併せて本人に交付します。

離職証明書の交付依頼があった場合はこれを作成し離職者に交付します。

 

<解決社労士の視点から>

今回、65歳以上の労働者限定で、マルチジョブホルダー制度を導入するのは、試験導入的な意味合いを持っています。

今後の運用状況を検証して、すべての年齢層に制度を拡張することも予定されていることは、言うまでもありません。

常識とは違う誕生日と年齢の関係

2021/10/14|795文字

 

誕生日の前日に歳を取る

 

<誕生日の前日に1歳年をとる>

「年齢計算ニ関スル法律」という古い法律に次の規定があります。

 

年齢は出生の日より之を起算す

民法第143条の規定は年齢の計算に之を準用す

 

つまり、誕生日の前日の「午後12時」(2400秒)に年をとります。

「前日午後12時」と「当日午前0時」は、時刻としては同じですが日付は違うという理屈です。

学校でも、42日生まれから翌年41日生まれまでを1学年としています。

41日から翌年331日までの間に○歳になる生徒の集団ということです。

おそらく「誕生日に年をとる」だと、229日生まれの人は、4年に1回しか年をとらないので不都合だからでしょう。

2月29日生まれの人は、前日の228日に年をとることにして、救済しているのだと思います。

 

<就業規則にある定年の規定>

会社の就業規則で、「65歳の誕生日が属する月の月末をもって定年とする」なら勘違いは無いのですが、「65歳に達した日の属する月の月末をもって定年とする」だと、毎月1日生まれの人の定年退職日を間違えやすいのです。

たとえば、41日生まれの人の場合、前者の規定なら4月末で定年、後者の規定なら3月末で定年です。

間違った運用を長く続けているのなら、就業規則の方を改定しましょう。

 

<保険年齢という考え方>

満年齢で計算したうえで、1年未満の端数については6か月以下のものは切り捨て6か月を超えるものは切り上げて計算する方式があります。

端数についての「67入」です。

たとえば、299か月の保険加入者(被保険者)は30歳として取り扱われるわけです。

これは、保険年齢方式と呼ばれ、健康診断でも健診機関によっては個人の問診票にこの年齢が記載されます。

従業員から「私の年齢が1歳多い」というクレームが出ることもあります。

こうした場合には、健康診断のお知らせの中に保険年齢の説明を加えておくことをお勧めします。

つぎはぎだらけのハラスメント防止規程を見直しましょう

2021/10/13|1,951文字

 

パワハラの定義

 

<パワハラの定義の法定>

令和2(2020)年6月1日、労働施策総合推進法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が改正され、パワハラの定義が法定されました。

これをきっかけに、就業規則やハラスメント防止規程の見直しをした企業は多数に上ります。

しかしハラスメント対策は、セクハラ対策→パワハラ対策→マタハラ対策の順に進んだ企業も多いことから、社内規程が継ぎ接ぎだらけになっている恐れがあります。

また、社内規程の運用をする中で、新たに意識されるようになった問題も増えてきています。

これを機会に、ハラスメント防止に関する社内規程を、再度見直していただけたらと思います。

 

<セクハラ対策>

企業内でのセクハラ問題がクローズアップされた当初は、主に男性の女性に対するものが取り沙汰されていました。

やがて、女性の男性に対するセクハラが問題視されるようになり、現在では同性間のセクハラ防止が求められるようになっています。

もし社内規程の中に「異性」という言葉が含まれているならば、同性間のセクハラ防止が十分な内容となっているか確認することをお勧めします。

また、かつてはセクハラの直接の対象者の保護が重視されていましたが、今では周囲にいる従業員の被害や就業環境を害することが強く認識されています。

被害者は、決して行為の直接の相手方だけではないという視点からの規定となっているか、社内規程の内容を見直すことが必要です。

 

<パワハラ対策>

パワハラ対策については、法改正もあり、厚生労働省等の資料も充実していますので、企業の社内規程も完成度の高い内容に改正されているものと思われます。

労働施策総合推進法には、「労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない」と規定されています。〔第30条の3第4項〕

ですから、パワハラ問題に対する関心と理解を高め、パワハラ行為を行わないように注意し、企業のパワハラ対策に協力するといった労働者の義務についても、社内規程に定めておきたいものです。

 

<マタハラ対策>

マタハラ対策についても、多くの企業で社内規程が充実していることでしょう。

ただ少子化対策は、政府が強力に推進し続けていますし法改正も盛んです。

これらに合わせた更新が行われているか、3か月に1回程度はチェックしましょう。

また、男性が育児休業に関連した制度を利用しようとしたとき、これに対して行われるハラスメント(パタハラ)についても、社内規程の充実が必要です。

 

<企業内相談窓口の運用>

相談者から得られたプライベートな情報については、相談者の許諾の範囲内での利用が許されます。

・誰のどのような情報であるかを明かさずに改善に役立ててほしい

・事実関係について誰の話か特定できないような形で情報を活用してほしい

・誰と誰についての話か公表してもかまわない など

相談窓口の趣旨に反しない限り、相談者の意向を尊重するルールとしたいです。

ただし、加害者にもプライバシー権がありますので、「公表」には加害者の同意が必要となることもあります。

また、加害者からの相談もあります。

「自分のした言動の相手方から『ハラスメントだ』と言われたが理解できない」のような相談です。

こうした場合の対応についても、企業内相談窓口が行うのか、どのように行うのかについてルールを定めておかないと、相談を受けた担当者が対応に困ります。

さらに、相談窓口に対するクレームも発生します。

これにどう対応するかのルールも必要です。

いきあたりばったりの対応では、社内での信頼を失ってしまいます。

 

<包括的・横断的規定>

ハラスメント対策が必要なのは、セクハラ、パワハラ、マタハラに限られません。

被害者が働けなくなったり退職したりすれば、企業にとって大きなダメージとなるのは、他のハラスメントでも同様です。

モデル就業規則第15条のような「第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない」といった、すべてのハラスメントを禁止する規定が必要でしょう。

また、労働施策総合推進法には「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」ということが明示されています。〔前掲の第30条の3第4項〕

つまり、業務上必要かつ相当な範囲内の言動は、パワハラに該当しないということです。

これは、すべてのハラスメントに共通の内容ですので、パワハラのみについて規定するのではなく、共通の総論的な部分に規定するのがお勧めです。

暑すぎる/寒すぎる職場と法律の規制

2021/10/11|1,688文字

 

<労働安全衛生法>

快適な職場環境の形成について、基本的なことを定めているのは労働安全衛生法です。

略して安衛法と呼びます。

安衛法の目的について、第1条が次のように規定しています。

 

第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。

 

つまり、この法律は、次の2つのことを目的としています。

・労災を防止して労働者の安全と健康を確保する

・快適な職場環境の形成を促進する

 

<事業者の講ずる措置>

そして、快適な職場環境の形成を促進するために、会社など事業者に次のような義務を課しています。

 

第七十一条の二 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない

一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置

二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置

三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備

四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置

 

この条文の「努めなければならない」というのは、努力義務であることを示しています。

努力義務というのは、法律の規定に違反しても、刑事罰や過料等の法的制裁を受けない義務です。

結局、守られるか否かは当事者の任意の協力次第ですし、守られているか否かの判断も当事者の評価に委ねられることになります。

 

<快適職場指針>

会社など事業者が快適な職場環境の形成を促進する義務については、労働安全衛生法に基づき、厚生労働省が「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」を定めています。

その中の「温熱条件」という項目には、次のように定められています。

 

屋内作業場においては、作業の態様、季節等に応じて温度、湿度等の温熱条件を適切な状態に保つこと。

また、屋外作業場については、夏季及び冬季における外気温等の影響を緩和するための措置を講ずることが望ましいこと

 

<事務所衛生基準規則>

さらに、事務所内で事務作業に従事する労働者については、空気調和設備等による調整が可能である場合に限定して、事務所衛生基準規則に次の規定があります。

 

第五条 事業者は、空気調和設備又は機械換気設備を設けている場合は、室に供給される空気が、次の各号に適合するように、当該設備を調整しなければならない。

3 事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない

 

これによると、事務所内は気温が17℃以上28℃以下、湿度が40%以上70%以下というのが基準になります。

つまり、年間を通してこの範囲内にあれば、法令の基準を満たしていることになります。

それでもなお、「暑い」「寒い」という話が出てくるのであれば、話し合いによる調整が必要となります。

 

<働き方改革との関係で>

働き方改革の定義は、必ずしも明確ではありません。

しかし、働き方改革実現会議の議事録や、厚生労働省から発表されている数多くの資料をもとに考えると「企業が働き手の必要と欲求に応えつつ生産性を向上させる急速な改善」といえるでしょう。

ひとり一人の労働者が「暑い」「寒い」ということで生産性が低下しているのであれば、温度環境を整えることで生産性が向上するのは目に見えています。

設備投資と電気代を人件費と比べるだけでなく、定着率の向上や採用の困難性を考えて、どこまでの対応が必要なのか、経営者としての判断は難しいのかもしれません。

それでも、蒸し暑い部屋で採用面接を行った場合と、快適な室内で採用面接を行った場合とでは、辞退者の人数に違いが出てくるのではないでしょうか。

 

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