年俸制の記事

<厚生労働省のモデル就業規則のねらい>

厚生労働省のモデル就業規則の最初のほうに「モデル就業規則の活用に当たって」という標題で、「このモデル就業規則(以下「本規則」といいます。)は、平成28年3月現在施行されている労基法等の規定に基づき就業規則の規程例を解説とともに示したものです。本規則はあくまでモデル例であり、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければなりません。したがって、就業規則の作成に当たっては、各事業場で労働時間、賃金などの内容を十分検討するようにしてください。」という説明があります。

モデル就業規則の各規定の内容を十分検討して、各事業場の実態に合ったものとすれば、労基法などの規定に基づいた就業規則が完成します。

 

<一方で年俸制とは>

プロ野球の選手のように、年1回、社員と会社とが交渉して、たとえば4月から翌年3月までの年俸を決めることは可能です。このときは、会社の業績と社員の働きぶりを踏まえて、期待できる内容に見合った金額とするわけです。

そして、年俸はすべて込みの報酬であり、決まった金額さえ支払えば残業代などは発生しないように誤解されがちです。

しかし、プロ野球の選手とは違いサラリーマンには、労基法などが100%適用されます。当然ですが年俸制にすれば、労基法を無視できるというわけではありません。

ということは、残業手当、休日出勤手当、深夜手当の支払対象ですし、欠勤すれば欠勤控除をすることも可能です。「年俸制の社員が休日にケガをして長期入院してしまった。年俸を下げてはいけないのか?」という心配は無用です。これらのことは、就業規則に定めておけばよいのです。

一定の時間・金額の残業代を年俸に含めるということも、正しいルールと運用で可能となります。

 

<結論として>

年俸制というと「プロ野球の選手のように」という勘違いはかなり多いのです。

また、具体的にルールを作ろうとすると、各事業場の実態に合ったものとすることが簡単ではありません。

こうしたことから、モデル就業規則の中に、年俸制についてのモデル例と解説を加えることは、かえって混乱を招くともいえます。

今現在、年俸制を導入している企業や、これから導入を検討している企業では、規定だけでなく運用についても、弁護士か社労士のチェックを考えていただきたいと思います。

 

2016.07.17.

<予定外の長期入院で月給が下がるのは>

月給制の従業員が入院したら、入院期間に応じて毎月少しずつ基本給が下がっていくシステムというのは聞いたことがありません。

これでは、会社の従業員に対する冷たさが見え見えです。そういう会社では働きたくないです。

また、不合理であり社会通念上も相当性がないので、法的に許されない不利益変更となります。

 

<年俸制なら許されるのか>

ではなぜ「年俸制の従業員が長期入院したとき年俸を下げてもよいのか」という疑問が出るのでしょうか。

これは、年俸が過去の実績を踏まえつつ、今後1年間でどれだけ会社に貢献してくれそうかという予測評価に基づいているためでしょう。

プロ野球の選手は、一般の労働契約とは違うと思いますが、サラリーマンにも応用できそうだということで、年俸制を採用している会社があります。

そして一度決めた年俸は、長期入院にもかかわらず、会社から支払いが続くというものです。

しかし、これは会社が独自に決めたルールです。年俸制なら欠勤控除できないという法令の規定はありません。そもそも、労働基準法などに年俸制の規定はありません。

予想外の長期入院が発生したときに不都合を感じるような給与支払いのルールを作っておいたことが失敗なのです。

 

<ではどうしたらよいのか>

年俸制であっても、労働基準法の縛りがあります。毎月1回以上定期に賃金を支払わなければなりません。残業手当、深夜手当、休日出勤手当も支払う必要があります。

しかし、欠勤控除してはいけないというルールはありません。実は法令には規定がないのですが、労働契約の性質から「労働者が働かなければ会社に賃金の支払い義務はない」という「ノーワークノーペイの原則」があります。

欠勤控除しないのは、会社がそういうルールにしているからです。

ですから、年俸制を実施している会社で、就業規則に欠勤控除の規定がなければ定めればよいのです。もちろん、就業規則がないのなら一から作る必要があります。

ただし、長期入院にもかかわらず、通常の賃金を支払い続けていたという例が過去にあった場合には、就業規則の不利益変更が疑われます。この場合には、弁護士や社会保険労務士などの専門家と、所轄の労働基準監督署に相談しながら慎重に事を進める必要があります。

 

2016.05.24.

<年俸制なら残業代は支払わなくてよい?>

プロ野球の選手なら年俸制で残業代の支払いはありません。

しかし一般の労働者には、残業代をはじめとする割増賃金の支給が原則必要です。

労働基準法は、時間外労働と休日労働・深夜労働の割増賃金を定めていて、年俸制を例外としていません。

この割増賃金の支払いを使用者に義務付ける理由は、法定労働時間と法定休日の維持を図るとともに、過重な労働に対する労働者への補償を行おうとすることにあります。

この趣旨は、どのような賃金体系であっても変わりがありません。

また、たとえ三六協定の無い、あるいは協定の限度を超える違法残業であっても、割増賃金は支払わなければなりません。

 

<なぜ年俸制では割増賃金が割高なのか?>

年俸制における代表的な賃金の支払い方法には、次の二つがあります。

・賞与無し=年俸額の12分の1を月例給与として支給する

・賞与有り=年俸額の一部を賞与支給時に支給する(例えば、年俸の16分の1を月例給与として支給し、年俸の16分の4を二分して6月と12月に賞与として支給する)

このうち、賞与有りの支払い方法の場合には、賞与が割増賃金の算定基礎額に含まれるという通達があるのです。〔平成12年3月8日基収78〕

したがって、月例給与よりも高い「年俸の12分の1」を基準に割増賃金を計算することになりますから、ある意味、賞与の二重払いが発生するのです。

 

<書面をもって合意をすれば合法に>

労使の合意で年俸に割増賃金を含むものとする場合についても、上記の通達が基準を示しています。

年俸がいくらで、その中に何時間分の残業代としていくら含まれているのか、書面をもって合意し、その12分の1を超える残業が発生した月には、その都度不足分の残業代を月々の給与と共に支払えばよいのです。

ただし、深夜労働や休日出勤の割増賃金は別計算となります。

 

ちなみに実際の通達は、次のように言っています。

「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区分することができ、かつ、割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上支払われている場合は労基法37条に違反しないと解されるが、年間の割増賃金相当額に対応する時間数を超えて時間外労働等を行わせ、かつ、当該時間数に対応する割増賃金が支払われていない場合は、労基法37条違反となることに留意されたい。また、あらかじめ、年間の割増賃金相当額を各月均等に支払うこととしている場合において、各月ごとに支払われている割増賃金相当額が、各月の時間外労働等の時間数に基づいて計算した割増賃金額に満たない場合も、同条違反となることに留意されたい。」

 

2016.04.07.