2024/08/11/1,125文字
<会社に損害が発生するケース>
従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、会社も被害者に対して賠償責任を負うことがあります。
その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。
<報償責任という考え方>
こうした場合に、会社は事故を起こした従業員に対して、損害のすべてを賠償するよう求めることはできないとされています。
それは、会社は従業員に働いてもらって売上と利益を上げているのだから、損失が発生した場合には、その損失を負担するのが公平だという報償責任の法理が働くからです。
会社に生じた利益のすべてが従業員に分配されるわけではないのに、損害についてだけ従業員に負担させるのは不合理だというわけです。
<賠償金の給与天引き>
最初から違法な賠償額の予定があったわけではなく、客観的に適正な賠償額が確定したとします。
この場合でも、賠償金を給与から控除するには、また別の問題があります。
労働基準法には次の規定があるからです。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
原則として、賃金は全額を支払わなければなりません。
法令、労働協約、労使協定に定めがあるものは例外的に控除が許されます。
法令により控除が許されるのは、所得税、住民税、社会保険料、財形貯蓄などです。
賠償金は、控除の根拠が法令に規定されていません。
労働協約で組合費、労使協定で共済会費、社宅家賃の控除が定められていることは普通にあります。
賠償金も、労使協定などで定められていれば控除が可能です。
ただし、会社側からの強制で労使協定を交わしたのなら無効です。
<実務の視点から>
万一に備えて、規定を整備しておくことは重要です。
三六協定と呼ばれる労使協定も、残業がありうるのなら交わして所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。
届出なしに残業が1分でもあれば違法です。
つまらないことで足元をすくわれることがないように、手続的なことはきちんと行いましょう。
ただ、やるべきことは会社によって違いますので、信頼できる社労士にご相談ください。