予備的普通解雇

2022/08/24|1,549文字

 

<普通解雇>

狭義の普通解雇は、労働者の労働契約違反を理由とする労働契約の解除です。

労働契約違反としては、能力の不足により労働者が労働契約で予定した業務をこなせない場合、労働者が労働契約で約束した日時に勤務しない場合、労働者が業務上必要な指示に従わない場合、会社側に責任の無い理由で労働者が勤務できない場合などがあります。

 

<解雇の制限>

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第16条〕

普通解雇であれ、懲戒解雇であれ、すべての解雇は、この制限を受けることになります。

 

<懲戒処分の制限>

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第15条〕

労働契約法の第15条と第16条は、重複している部分があるものの、第15条の方により多くの条件が示されています。

懲戒処分は、この多くの制限を受けることになります。

 

<懲戒解雇の有効要件>

懲戒解雇というのは「懲戒かつ解雇」ですから、懲戒の有効要件と解雇の有効要件の両方を満たす必要があります。

普通解雇は、解雇の有効要件だけを満たせば良いのですから、懲戒解雇よりも条件が緩いことは明らかです。

 

<懲戒解雇と普通解雇の有効要件の違い>

そして、条文上は不明確な両者の有効要件の大きな違いは次の点にあります。

まず懲戒解雇は、社員の行った不都合な言動について就業規則などに具体的な規定が無ければできません。

しかし普通解雇ならば、そのような規定が無くても、あるいは就業規則が無い会社でも可能です。

また懲戒解雇の場合には、懲戒解雇を通告した後で他にもいろいろと不都合な言動があったことが発覚した場合でも、後から判明した事実は懲戒解雇の正当性を裏付ける理由にはできません。

しかし普通解雇ならば、すべての事実を根拠に解雇の正当性を主張できるのです。

ですから懲戒解雇と普通解雇とで、会社にとっての影響に違いが無いのであれば、普通解雇を考えていただくことをお勧めします。

特に、両者で退職金の支給額に差が無い会社では、あえて懲戒解雇を選択する理由は乏しいといえます。

 

<予備的普通解雇>

民事訴訟では、Aという請求をしつつ、これが認められないのならBという請求をするという「予備的請求」というものが認められます。

また、Aという請求をしたところ、Aの条件は満たしていないが、Bという請求としては効力が認められるという、無効行為の転換ということが行われます。

おそらく2000年以降ですが、懲戒解雇を通告し、予備的に普通解雇を通告しておいた会社に対し、懲戒解雇は無効だが普通解雇としては有効だという判決が見られるようになりました。

会社としては、心情的には懲戒解雇の通告をしたいところ、普通解雇の方が確実に条件を満たし有効性が認められやすいことに配慮し、次のような「懲戒解雇と予備的普通解雇を同時に通告する」方法をとることが可能です。

 

就業規則〇〇条に基づき、貴殿を〇月〇日付で懲戒解雇とします。

併せて、就業規則〇〇条に基づき、予備的に貴殿を〇月〇日付で普通解雇とします。

 

この場合、会社としては暫定的に懲戒解雇として手続を進めておき、万一労働者から訴えられた場合には、懲戒解雇がダメでも普通解雇は有効となるようにしておくということです。

法改正があったわけではないのですが、こうした裁判の動向からも、企業の選択肢が増えることもあるのです。

 

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