船員の働き方改革がスタートします

2020/02/10|1,863文字

 

働き方改革と労働基準法との関係

 

<法改正の動き>

一般の労働者については、厚生労働省が中心となって働き方改革の推進を図っています。

船員の場合には、一般の労働者と異なる特殊性が多く見られることから、国土交通省が中心となり働き方改革が推進されようとしています。

令和3(2021)年5月に公布された「海事産業強化法」に基づき、船員法、船員職業安定法、内航海運業法が改正され、令和4(2022)年4月1日から施行されます。

これに伴い、国土交通省海事局船員政策課が「船員モデル就業規則」を策定し公開しました。

船員を雇っていない企業にとっても、国土交通省による説明や「船員モデル就業規則」は大変参考となる内容です。

 

<船員の労働時間の把握と記録>

一般の労働者については、平成31(2019)年4月に労働安全衛生法が改正され、労働時間の客観的な把握が法的義務となりました。

令和4(2022)年4月1日の船員法改正により、船舶所有者は、船員の労働時間の状況を把握し、労務管理記録簿に記載する義務を負うことになります。

船員法によると、船員の「労働時間」とは、船員が職務上必要な作業に従事する時間、海員にあっては、上長の職務上の命令により作業に従事する時間に限るとされています。〔船員法第4条第2項〕

ここで「作業」とは、国土交通省のガイドラインによれば、実作業のみならず、所定場所での作業開始まで待機等の労働からの解放が保障されていない場合も含むとされます。

また「命令」には、「明示の命令」だけでなく、船員が上長との関係で当該作業に従事することを余儀なくされている場合等の「黙示の命令」も含むとされます。

このガイドラインの内容は、一般の労働者の労働時間の把握についても参考となるものです。

つまり、勤務場所で労働からの解放が保障されていない時間は、休憩時間として扱うことができず、労働時間とされることになります。

また、上長との関係で作業に従事することを余儀なくされている場合も「黙示の命令」と考え、労働時間に該当すると考えるのが妥当です。

 

<船員の新たな労務管理体制>

船員法改正で、以下の内容が船舶所有者に義務付けられます。

○船員の労務管理を行う主たる事務所で、労働時間等の管理を行う記録簿(労務管理記録簿)を作成し、備え置く。

○労務管理記録簿の管理等を行う労務管理責任者を選任する。

○労務管理責任者の意見を勘案し、船員に対して労務管理上の措置を講じる。

○措置を講じるために必要がある場合、内航海運業者(オペレーター)に対して運航計画の変更等に関する意見を述べる。

一般の事業で、船舶所有者を経営者に置き換えて考えると、経営者が労務管理記録簿の管理等を行う人事部門の責任者の意見を聞きながら、労務管理上の措置を講じたり、部門計画の変更等に関する意見を述べたりするということになります。

こうしたことは、企業が働き方改革を強力に推進するのに必要な社内での連動といえるでしょう。

 

<海賊行為による被害を受けた場合の休暇>

「船員モデル就業規則」には、次の規定があります。

 

第44条 船員が海賊行為により船上又は船外で拘束された場合には、海賊から解放され適切に送還されるまで又は拘束中に死亡した日(失踪宣告を受け、死亡したとみなされた場合を含む。)までの間、有給の休暇とする。

 

海賊行為というのは、決して外国の物語に登場するだけではなく、現在でも「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」の第2条に定義されている犯罪です。

この犯罪の被害者となって拘束された場合には、その事情を踏まえ、労働基準法に定められた年次有給休暇とは別に、特別な有給の休暇を与えるという規定です。

一般の労働者であっても、また、身体の拘束が無かったとしても、犯罪被害者の方々が仕事を続けられるようにするため、被害回復のための休暇制度の導入が求められます。

年次有給休暇の取得だけでは日数が足りないかもしれませんし、入社後半年未満などで年次有給休暇が無い社員は欠勤になってしまいます。

実際に出勤できなくなる事情としては、警察への届出、事情聴取、証拠提出、病院での受診、弁護士との相談・打合せ、裁判への出廷・傍聴などがあります。

特に裁判となると、年に10回以上法廷が開かれるなど、被害者の負担は大きいものです。

なにより、本人に責任の無いことで、たまたま犯罪の被害者となり、勤務が困難となったことにより、会社が貴重な人材を失うというのは避けなければなりません。

会社に犯罪被害者休暇の制度を設けて、こうした事態を防ぎましょう。

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