被災者が労災手続を拒んだ場合

2021/11/23|748文字

 

被災者が労災保険の手続に協力しない

 

<従業員が拒むケース>

労災保険の手続をすれば、被災者は無料で治療を受けたり、賃金の一部が補償されたりします。

ところが、「自分の不注意でケガをしたのだから会社に迷惑をかけたくない」あるいは「面倒くさい」などの理由で、手続に必要な書類の作成に協力しない従業員もいます。

 

<被災者の権利ではあるものの>

労災保険による補償を受けるのは被災した従業員の権利です。

権利というのは、原則として行使するかしないかが権利者の選択に任されています。

この原則からすると、被災者が権利を放棄している以上、何ら問題は無いようにも思われます。

しかし、使用者は労働者を労務に従事させることにより事業を営んでいるので、労働者の業務上のケガや病気については、本来、使用者が補償する責任を負っています。〔労働基準法第75条以降〕

ただ、労災保険による補償がある場合には、その範囲で責任が免除されます。〔労働基準法第84条第1項〕

ですから、被災者本人か労災手続を拒んでいる場合に手続を進めなければ、使用者には労働基準法上の補償責任が残ってしまいます。

ただし、これは業務上のケガや病気についての補償の場合であって、通勤災害については労働基準法上も使用者が責任を負いませんので当てはまりません。

 

<被災者を説得するために>

まず、手続を速やかに進めないと、労災隠しを疑われるなど会社が迷惑するという説明が必要でしょう。

また、労災手続をすることによって治療費がかからなくなること、手続をしない場合、健康保険が適用されないので、3割ではなく治療費の全額が自己負担となること、労災なのに健康保険証を呈示して治療を受ければ一種の保険詐欺になることも説明しましょう。

さらに休業補償がある場合には、1日あたりの具体的な金額を示して説明することも有効です。

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