2022/06/18|1,058文字
<遺族からの退職金請求>
あと2年で定年退職という社員が、急病で亡くなりました。
会社から多くの社員が葬式に参列しました。
ただ泣くばかりの奥様が気の毒でした。
後日、就業規則の規定に従い、奥様名義の銀行口座に退職金が振り込まれました。
それから半年後、亡くなった社員の息子さん2人が会社にやってきて、退職金を請求します。
会社としては、もう退職金は支払い済みと思っていたところ、奥様とは別の相続人2人があらわれたのです。
確かに、法定相続分は、奥様が半分、息子さんは4分の1ずつです。
彼らは、母親とは仲が悪く10年以上会っていないのだそうです。
それで、自分たちの取り分である退職金の4分の1ずつは、直接自分たちに支払えということなのです。
<ひな形の規定>
これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。
あるひな形には、次のように書いてあります。
(退職金の支払方法及び支払時期)
第54条 退職金は、支給事由の生じた日から か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。
〔厚生労働省のモデル就業規則令和3年4月版〕
<注意書きを見ると>
厚生労働省のモデル就業規則には、次のような注意書きがあります。
・
退職金の支払方法、支払時期については、各企業が実情に応じて定めることになります。
労働者が死亡した場合の退職金の支払については、別段の定めがない場合には遺産相続人に支払うものと解されます。
もっともよく使われているひな形なのですが、どうやら今回のようなケースには対応できていないようです。
ですから、専門家ではない人が、就業規則のひな形だけを頼りに自分の会社の就業規則を作ると、思わぬ事態を招いてしまうのです。
<こうしてカスタマイズ>
こうした困ったことにならないようにするには、次のような規定にしておけば良いのです。
(退職金の支払方法及び支払時期)
第54条
2 死亡による退職のときの退職金を受ける遺族の範囲および順位は、次のとおりとします。
・配偶者(内縁関係にある者を含みます)
・子
・父母
・孫
・祖父母
・兄弟姉妹
3 同順位の者が2人以上ある場合には、その人数によって等分するものとします。
「就業規則の適用対象は社員だけだから、何かあったら、そこは話し合いで」という考え方は危険です。
特に、社員が退職した後のことや、ご家族にも影響のあることについては、慎重に規定の内容を吟味する必要があるのです。