定年後の再雇用トラブルの原因と予防法

2021/09/27|1,389文字

 

労働条件を確認しましょう

 

<就業規則の規定>

厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)では、定年を満60歳とする場合の例として次のような規定が示されています。

 

[例3](定年等) 

第49条  労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。

 (以下略)

 

定年後の再雇用については、多くの企業で似たような規定を置いていると思われます。

 

<本人の希望>

「定年後も引き続き雇用されることを希望」の部分にトラブルの原因が隠れています。

定年退職後に、退職者から「再雇用を希望していたのに退職させられた。これは不当解雇である」と主張されることがあります。

具体的には、再雇用されていれば得られたはずの賃金と慰謝料の支払を、会社に対して求めてくるわけです。

このとき、会社が「離職票に署名してある」と主張しても、退職者は「ハローワークで手続できなくなると脅されて不本意ながら署名したに過ぎない」と反論するでしょう。

また、健康保険証の返却についても、退職者が「返却しなくても紛失扱いで手続すると言われたので不本意ながら返却した」と主張するかもしれません。

 

このような言った/言わないのトラブルを防ぐために、再雇用の希望を書面で提出するルールにしている会社もあります。

しかし、退職者が提出したと言い、会社側が提出を受けていないと言うのでは、結局トラブルになってしまいます。

 

こうしたトラブルを防ぐためには、「再雇用確認書」のような書式を準備しておき、定年の2か月前までに希望の有無を記入して提出してもらうなどの運用にする必要があります。

つまり、希望しても希望しなくても、定年を迎える社員から所定の書面を提出してもらい、再雇用の希望の有無がわかるようにしておくわけです。

 

<再雇用できない理由>

たとえ本人が希望しても、「解雇事由又は退職事由に該当」する労働者であれば、会社は再雇用を拒めるという部分にもトラブルの火種が隠れています。

そもそも、定年を迎える直前になって解雇事由が発生することは稀ですし、このタイミングで退職事由が発生するというのは、本人が再雇用されずに退職したいという希望を表明している場合ではないでしょうか。

 

実際には、定年の数年前から解雇事由があって、会社側がこれを放置しているというケースがあります。

「あと少しで定年を迎えるから」ということで我慢しているわけです。

たとえば、健康状態が不良でたびたび欠勤しているが治療を受けていない、ルール違反が多くて同じ部署のメンバーに迷惑をかけ続けている、新しい仕事を覚えられず会社が必要としている業務をこなせないといった事情を、会社側が我慢してしまうのです。

こうした場合に、定年と共に普通解雇や懲戒解雇を言い渡すというのは不合理です。

本人にしてみれば、今まで不問に付されていたのに、定年のタイミングで解雇されるというのは納得できません。

 

「あと少しで定年を迎える」社員も、若い社員と同じように、問題点があれば注意・指導し改善が見られなければ、普通解雇や懲戒解雇を検討すべきです。

少し厳しいようにも思われますが、再雇用トラブルを防ぐには必要なことなのです。

定時決定(算定基礎届)の対象となる人・ならない人

<対象となる人>

定時決定(算定基礎届)は原則として、その年の71日現在、社会保険の加入者(被保険者)である人全員が対象になります。

・531日までに加入(資格取得)した人で、71日現在も加入者(被保険者)である人

・71日かこれ以降に、退職や勤務時間の減少などにより脱退(資格喪失)する人(資格喪失日でいうと72日かこれ以降)

・休職中、育児休業中、介護休業中、欠勤中の人

・刑事施設や労役場などに拘禁中の人

なお、定時決定という手続のために提出する届を算定基礎届といいます。

 

<対象とならない人>

・61日かこれ以降に、加入(資格取得)した人

・630日かこれ以前に、退職や勤務時間の減少などにより脱退(資格喪失)した人(資格喪失日でいうと71日かこれ以前)

・7月~9月に月額変更届、産前産後休業終了時変更届、育児休業等終了時変更届を提出する予定の人

なお、随時改定という手続のために提出する届を月額変更届といいます。

 

<見込みや予定が変わった人>

・算定基礎届を提出する時点では、8月か9月に月額変更届を提出する見込みだったが、その後、残業代や通勤手当などの変動により、月額変更届を提出しないことになった場合には、遅れて算定基礎届を提出することになります。

・算定基礎届を提出する時点では、8月か9月に月額変更届を提出する見込みではなかったが、その後、残業代や通勤手当などの変動により、月額変更の条件を満たすことになった場合には、算定基礎届の提出とは別に月額変更届を提出することになります。

最低賃金の引上げ等に伴う不当なしわ寄せ防止

2021/09/25|1,735文字

 

最低賃金違反を主張できない

 

<最低賃金の引上げ>

最低賃金が年々引き上げられ、事業規模に関わらず、賃金上昇圧力が高まっています。

令和2(2020)年10月は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえて、たとえば東京都では1,013円に据え置かれましたが、令和3(2021)年10月は1,041円へと引上げが再開されています。

コロナ禍が終息しない中での最低賃金引上げは、中小企業を中心に大きな打撃となりかねません。

 

<不当なしわ寄せ防止に向けた普及啓発活動の拡充・強化>

公正取引委員会は、最低賃金の引上げにより、労務費等のコストが大幅に上昇した下請事業者から、単価の引上げを求められたにもかかわらず、親事業者が一方的に従来どおりに単価を据え置いて発注することは、下請法(下請代金支払遅延等防止法)上の「買いたたき」に該当するおそれがあると解釈しています。

この点について公正取引委員会は、新しくQ&Aを作成しウェブサイトへの掲載による周知活動の強化などにより、事業者への周知徹底を図ります。

また、中小企業庁と共同して、毎年11月の「下請取引適正化推進月間」の開催に併せて、事業者団体等との連携拡大を通じて、全国津々浦々に不当なしわ寄せ防止に向けた取組の情報が行きわたるよう周知活動の拡充を行います。

また、下請法のより一層の普及啓発を図る観点から、下請法に関する考え方等を分かりやすく示した、最低賃金引上げによる不当なしわ寄せ防止に関する内容を含む新しい動画を作成し、WEB上で公開を行います。

 

<下請法等の執行強化>

公正取引委員会は、親事業者や親事業者と取引のある下請事業者を対象とした定期調査を実施しています。

令和3(2021)年度の下請事業者向けの定期調査では、最低賃金の引上げ等に伴い特に問題となることが想定される「買いたたき」の指導実績が多い業種や、コロナ禍により特に影響が出ているとされる業種向けの調査拡大、最低賃金の引上げを含む労務費や原材料価格の上昇の影響に関する質問追加等を行い、下請法違反被疑事実についての情報収集に関する取組強化を行います。

また公正取引委員会は、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」を指定し、荷主と物流事業者との取引の公正化に向けた調査を行っていますし、優越的地位の濫用規制及び下請法に関する実態調査を行っています。

令和3(2021)年度の荷主と物流事業者との取引に関する書面調査や、その他の優越的地位の濫用規制及び下請法に関する実態調査においても、最低賃金の引上げ等に伴う影響や取引先との価格交渉の状況に関する質問を追加するなど、情報を積極的に収集することとしています。

さらに、令和3(2021)年9月の「価格交渉促進月間」での中小企業庁をはじめとした関係省庁による取組の成果や上記情報収集の成果も踏まえつつ、下請法違反行為等に対して厳正に対処していきます。

親事業者に対して違反行為の改善を求める指導等を行う際に交付する注意喚起文書に、最低賃金の引上げを含む労務費や原材料価格の上昇に関連する注意事項を加え、不当なしわ寄せを行わないよう強く要請します。

 

<相談対応の強化>

最低賃金の引上げ等に伴い、取引先から不当なしわ寄せを受けやすい中小事業者等からの相談を受付ける「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」が設置されます。

また、中小事業者等のためのオンライン相談会が実施されます。

 

<解決社労士の視点から>

「そもそもコロナ禍での最低賃金引上げはおかしい」「企業の生産性向上に歩調を合わせるべき」などの意見も多く聞かれます。

最低賃金は、本来、労働者と家族が健康で文化的な最低限度の生活を営めるようにするための制度でした。

しかし、現在では働き方改革と軌を一にし、少子化対策の意味合いも濃くなっています。

つまり、低賃金の労働者であっても、安心して結婚し子を設けることができるようにするため、賃金水準を上げていくという意図が含まれています。

コロナ禍によって失業しあるいは収入が減少した労働者が急増している現状では、最低賃金の引上げもやむを得ないのかもしれません。

残業代が多い時期の随時改定(月額変更届)

2021/09/24|715文字

 

<定時決定(算定)での特例>

従来から業務の性質上、4月~6月の3か月間の報酬をもとに算出した標準報酬月額と、前年7月~当年6月までの1年間の報酬の月平均額によって算出した標準報酬月額との間に2等級以上の差があり、この差が業務の性質上、例年発生することが見込まれる場合には、申し立てにより、過去1年間の月平均報酬月額により標準報酬月額を算定することができるようになっています。

社会保険料の定時決定(算定)では、4月~6月の3か月間の報酬をもとに標準報酬月額を算出するのが原則ですが、この3か月間だけ極端に残業代が多かったり少なかったりすると、著しく不当な標準報酬月額となるため、これを避けるために年平均の額で計算することができるわけです。

これは、事業主の申立書と本人の同意等を提出することによって行います。

 

<随時改定(月変)での特例>

こうした定時決定(算定)でのやり方が、通達により平成30(2018)年10月以降の随時改定(月変)にも適用されています。

これにより業務の性質上、繁忙期に残業代の増加が著しく、この時期に昇給したような場合で、通常の随時改定(月変)では著しく不当になる場合には、年間平均によることができます。

年間平均で随時改定(月変)を行うには、次の条件を満たす必要があります。

・現在(改定前)の標準報酬月額と、通常の随時改定による報酬月額に2等級以上の差がある。

・非固定的賃金を年間平均した場合の3か月の報酬月額の平均が、通常の随時改定による報酬月額と2等級以上差がある。

・現在の標準報酬月額と、年間平均した場合の報酬月額との差が1等級以上ある。

・繁忙期に残業が集中するなどの傾向が、業務の性質上、例年見込まれる。

 

障害者手帳と障害年金

2021/09/23|1,377文字

 

解決社労士のご紹介

 

<障害者手帳>

障害のある人が取得できる手帳全体を障害者手帳と呼んでいます。

この手帳を取得することで、各種福祉サービスを受けることができます。

大まかに分類すると、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳に分かれます。

取得するには、市区町村への申請が必要であり、申請の方法が市区町村によって異なっていたり、手続が複雑であったりします。

そして、手帳の名称も全国で統一されているわけではありません。

このように、障害者手帳は全国統一の制度ではありません。

 

<障害年金>

障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、受け取ることができる年金です。

障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やケガで初めて医師の診療を受けたとき(初診日)に国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。

このことから、障害年金を受け取ろうとする場合には、初診日を証明する必要があります。

初診日が分からなければ、障害基礎年金と障害厚生年金のどちらを受けるかが確定しないからです。

障害年金は障害の程度により、障害基礎年金が1級と2級、障害厚生年金が1級から3級に区分されて支給されます。

また、障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害が残ったときは、障害手当金(一時金)を受け取ることができる制度があります。

さらに、障害年金を受け取るには、年金の納付状況などの条件(保険料納付要件)が設けられています。

このように障害年金には、初診日の証明や保険料納付要件がありますので、障害者手帳を取得できたとしても、障害年金を受給できないことがあるのです。

 

<障害基礎年金の保険料納付要件>

国民年金に加入している間、または20歳前(年金制度に加入していない期間)、もしくは60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間で日本に住んでいる間)に、初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日)のある病気やケガで、法令により定められた障害等級表(1級・2級)による障害の状態にあるときは障害基礎年金が支給されます。

この障害基礎年金を受けるためには、初診日の前日において、次のいずれかの要件を満たしていること(保険料納付要件)が必要です。ただし、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、納付要件はありません。

(1)初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること

(2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと

 

<障害厚生年金の支給>

厚生年金に加入している間に初診日のある病気やケガで障害基礎年金の1級または2級に該当する障害の状態になったときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。

また、障害の状態が2級に該当しない程度の軽い障害のときは3級の障害厚生年金が支給されます。

なお、初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときには障害手当金(一時金)が支給されます。

この障害厚生年金・障害手当金を受けるためには、障害基礎年金の保険料納付要件を満たしていることが必要です。

労働時間になるならないの境界線

2021/09/22|1,293文字

 

労働時間

 

<労働時間の定義>

労働時間とは、「労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間」と定義されます。

これは、会社ごとに就業規則で決まったり、個人ごとに労働契約で決まったりするのではなく、客観的に決められている定義です。

もっとも、これは法令に規定されているわけではなく、最高裁判所が判決の中で示したものですし、抽象的な表現に留まっていますので、具体的な事実に当てはめてみた場合には、判断に迷うことが多々あります。

会社の業務との関連性がある程度薄かったり、使用者の指揮命令関係から解放されていると断定できなかったりと、グレーゾーンにある時間帯が問題となります。

 

<業務の開始に必要な準備行為>

就業時間中に着用を義務づけられている制服や、特定の作業を行う場合に必ず着用することになっている作業服に着替える時間は労働時間です。

もちろん、出勤してきたときの元の私服に着替える時間も労働時間です。

これらは、明らかに使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間だからです。

これに対し、労働者が自分の好みで勤務中の私服を準備し、通勤中の私服から着替える時間は労働時間とはなりません。

会社が、業務の開始に必要と認めている行為ではなく、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価されないからです。

 

<待機時間>

仮眠室で待機するものとされ、警報や電話があれば、すぐさまこれに対応することが義務付けられている場合には、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価され労働時間とされます。

これに対し、仮眠時間が休憩時間として扱われ、労働からの解放が保障されている場合には、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価されず労働時間とはされません。

ごくまれに、緊急対応することがあったとしても、業務として待機を命じられているのでなければ、労働時間とはされません。

タクシーの運転手が客待ちの待機をする時間、バスの乗務員が乗務開始まで待機する時間、建設労働者が前工程の完了を待って待機する時間、店員がお客様を待って待機する時間などは、労働時間に該当することになります。

 

<休憩時間>

休憩時間は、自由に利用できる時間であり、労働からの解放が保障されていれば労働時間とはなりません。

しかし、「午後2時から4時の間で、お客様のいない時に休憩する」というのは、待機時間に他なりませんから労働時間となります。

こうした誤った休憩の与え方で、労働基準法違反となっている職場も散見されます。〔労働基準法第34条第1項、第3項〕

 

<住込みのマンション管理員>

住民の期待もあって、時間外に宅配便を預かっておく、住民からの連絡で汚れたエレベーター内の清掃をする、早朝にゴミの整理をする、深夜に設備の故障に対応するというのが実態という、住込みのマンション管理員もいます。

管理会社からの包括的な指示があれば、これらはすべて労働時間となります。

また、管理会社が実態を知りつつ放置している場合には、黙示の指示があったものとされ労働時間となることが多いと考えられます。

残業と人事考課

2021/09/21|1,098文字

 

残業の削減方法

 

<残業の性質>

残業は、会社が社員に命じて行わせるものです。

具体的には、上司が業務上の必要から、部下に命じて行わせることになります。

少なくとも、部下が残業の必要性を上司に打診し、これを受けて上司が部下に命ずるという形でなければ、残業は発生しない性質のものです。

そして、いつも上司がいるわけではありませんから、伝票の処理が終わらないときは残業しなさい、お客様のクレームがあったときは対応して報告書を作成するまでは残業しなさいという包括的な命令もありえます。

この場合には、ダラダラ残業の危険がありますから、上司は十分な事後チェックをしなければなりません。

ところが、社員がこの原則に違反して残業してしまった場合、タイムカードなどに出退勤の記録が残っている以上、会社は残業代を支払わざるを得ません。

 

<残業代を稼ぎたい社員の行動>

仕事の合間に居眠りしたり、軽食をとったり、雑談したり、喫煙したり、仕事に関係ない資料を読んだり、個人的興味でパソコンをいじったり、スマホを操作したりの時間は、本当の労働時間ではありません。

こうした時間の総合計が長い一方で、残業が発生している社員は、人件費の割に仕事が進んでいないことになります。

つまり、生産性が低いわけですから、これを人事考課に反映させて評価を低くし、賞与の金額を下げたり昇給を抑えたりということは、人事考課制度本来の目的にかなっています。

 

<残業したがらない社員の行動>

早く会社を出て、家に帰りたい、飲みに行きたい、パチンコをしたいなど、個人的な欲求から残業したがらない社員もいます。

残業の本来の性質からすれば、周囲の雰囲気を察して自発的に残業を打診しないからといって評価を下げてしまうのは、人事考課制度の適切な運用ではありません。

しかし、上司から残業命令が出ても、これを無視して業務を離れてしまうのは、評価を下げる正当な理由となりますし、しばしば行われれば懲戒処分の対象ともなりえます。

 

<残業と人事考課との関係>

このように、残業時間の多寡と評価との関係は単純ではありません。

残業が多い理由、あるいは、少ない理由を踏まえて評価を考えることが必要で

す。

単純に考えれば、自己都合の身勝手な残業と残業拒否は評価を下げるといえるでしょう。

 

<大前提として>

法定労働時間を超える残業は、所轄労働基準監督署長への三六協定書の届出が無ければ違法になってしまいます。

そもそも、就業規則に残業を命じる場合がある旨を規定しておかなければ、残業を命じる根拠がありません。

こうした手続き的なことは、残業の大前提となりますから、足元をすくわれないよう、しっかりと行っておきましょう。

ミスが多い新人への退職勧奨(退職勧告)

2021/09/20|1,801文字

 

ミスが多い社員の解雇

 

<本来は自由な退職勧奨>

「勧奨」は、勧めて励ますことです。

「勧告」は、ある事をするように説いて勧めることです。

「退職勧奨」の例としては、「あなたには、もっと能力があると思います。たまたま、この会社は向いていないようです。転職したら実力を発揮できるでしょう。退職について真剣に考えてみてください」といった内容になります。

「退職勧告」の例としては、「入社以来ミスが多いことは、あなた自身も残念に思っているでしょう。まわりの社員も、ずいぶん親切に丁寧な指導をしてきましたが、これ以上はむずかしいと思われます。退職を考えていただけますか」といった内容になります。

通常、「退職勧奨」と「退職勧告」は厳密に区別されず同視されています。

いずれにせよ退職勧奨は、会社側から社員に退職の申し出をするよう誘うことです。

これに応じて、社員が退職願を提出するなど退職の意思表示をして、会社側が了承すれば、労働契約(雇用契約)の解除となります。

もちろん、退職勧奨を受けた社員が、実際に退職の申し出をするかしないかは完全に自由です。

このように、退職勧奨は社員の意思を拘束するものではないので、会社が自由に行えるはずのものです。

しかし、社会的に相当な範囲を逸脱した場合には違法とされます。

違法とされれば、退職が無効となりますし、会社に対して慰謝料の請求が行われたりします。

会社から社員に退職勧奨を行い、これに快く応じてもらって円満退職になったと思っていたところ、代理人弁護士から内容証明郵便が会社に届き、不当解雇を主張され損害賠償請求が行われるということは少なくありません。

 

<安全な退職勧奨>

会社側としては退職勧奨のつもりであったところ、退職してもらうという目的意識が強いあまり、ついつい「勧奨」の範囲を超えてしまい、法的解釈としては「解雇の通告」と同視されてしまうことがあります。

こうしたリスクは、退職勧奨には付き物です。

退職が無効とされたり、慰謝料が発生したりのリスクが無い退職勧奨とは、次のようなものです。

・1人の社員に対して2名以内で行う。ただし、男性が女性に1人で退職勧奨を行うのは、セクハラなどを主張される恐れがあるので避ける。

・パワハラ、セクハラなど、人格を傷つける発言はしない。

・大声を出したり、机をたたいたりしない。脅さない。だまさない。

・長時間行わない。何度も繰り返さない。

・きっぱりと断られたら、それ以上の退職勧奨は行わない。

・他人に話を聞かれる場所で行わない。明るく窓のある個室が望ましい。

・家族など本人以外の人に働きかけない。自宅を訪問しない。

結局、本人の自由な本心による退職の申し出が必要なので、後になってから本心ではなかったとか、脅された、だまされたなどの主張がありえない退職勧奨であることが必要となります。

 

<会社側の好ましい対応>

退職勧奨の前であっても、ミスの連発を責めるのではなく心配する態度を示しましょう。

「入社以来ミスが多いですね。採用面接でも履歴書の内容からしても、あなたがミスを繰り返すというのは想定外です。まわりの仲間たちも、あなたのことを心配しています。個人的な事情があるとか、働く上での不安があるとか、何なりと教えてください」という問いかけをしましょう。

この問いかけには、対象社員に対する思いやりも示されていますが、採用面接の対話でも履歴書の記述にも、注意力が乏しくミスを連発しやすい人物だと推定できるようなことは示されていなかったという主張が含まれています。

会社は採用にあたって、応募者から必要な情報を引き出しているわけですから、その時点で注意力散漫な人物であることを承知のうえで採用しておいて、採用後に「ミスが多いから解雇します」とは言い難いわけです。

多くの場合、セクハラ、パワハラ、プライベートを含めて環境に慣れていない、上司や同僚からの指導不足など、問題点が浮かびあがることでしょう。

これらへの対応は頭の痛いことですが、むやみに退職勧奨を行うことを防げただけでも儲けものです。

このような面談を、当事者である会社側の人間が冷静に客観的に行うというのはむずかしいものです。

顧問の社会保険労務士がいれば、任せてはいかがでしょうか。

こうした面談を経て、会社側には問題が無いということを確信できたなら、自信をもって退職勧奨を行えますし、さらに普通解雇を検討することもできるわけです。

障害者差別解消法改正

2021/09/19|1,219文字

 

解決社労士のご紹介

 

<障害者差別解消法の改正>

国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25(2013)年6月、障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が制定され、平成28(2016)年4月1日に施行されました。

そしてこの障害者差別解消法が、令和3(2021)年5月に改正され、同年6月4日に公布されました。

この日から起算して、3年を超えない日に施行されることになっています。

 

<改正による企業への影響>

改正前の障害者差別解消法でも、障害を理由とする不当な差別的取扱については、行政にも民間企業にも禁止していました。

しかし、障害者に対する合理的配慮については、行政に対して義務付けるものの、民間企業に対しては法的義務ではなく、「努めなければならない」という努力義務に留めていました。

今回の改正によって、民間企業にも法的義務として、合理的配慮の提供が求められることとなります。

 

<企業に求められる合理的配慮>

改正法が企業に求める合理的配慮の提供とは、障害者の機会や待遇を健常者と平等に確保し、支障となっている事情を改善・調整するための措置を講じることです。

障害者の採用や雇用での合理的配慮については、障害者雇用促進法で義務化されているわけですが、障害者差別解消法は雇用以外のすべての分野を対象にしています。

ですから企業は、障害のあるお客様が商品やサービスを利用するにあたって、合理的配慮の提供が義務付けられることになります。

障害を理由に入店やサービス提供の受付を拒否したり、障害者を無視して周囲の支援者や介助者のみに話しかけたりすることは差別にあたります。

また、企業側の負担が重すぎる場合には、できない理由の説明や代替案の提示により、障害者の理解を得るようにすることが必要です。

 

<企業の具体的な対応>

一口に障害者と言っても、車椅子使用者や白杖を持つ視覚障害者のように外見からすぐに分かるお客様ばかりではありません。

聴覚や発話の障害、知的障害や精神障害、感覚過敏のお客様など、外見からは分かりにくい障害のあるお客様もいます。

また、手話通訳者やヘルパーを伴ったお客様もいます。

改正法施行までには、時間的な余裕があるようにも思えますが、お客様と直接・間接のやり取りをする従業員には、障害ごとの具体的特性とこれに応じて求められる合理的配慮について、十分な理解と共通認識が必要です。

また、具体的シーンに応じた合理的配慮や説明についての実践トレーニングも必要です。

こうした研修の他、各職場に応じたマニュアルの整備やクレームへの対応など、準備しておくことは多岐にわたります。

早い段階で計画化し、実行に移すことをお勧めします。

納得できない雇止め

2021/09/18|1,262文字

 

雇止めの有効性

 

<雇止め(やといどめ)とは>

会社がパートやアルバイトなど有期労働契約で雇っている労働者を、期間満了時に契約の更新を行わずに終了させることを「雇止め」といいます。

一定の場合に「使用者が(労働者からの契約延長の)申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」という抽象的な規定があります。〔労働契約法第19条〕

これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「雇止めに関する法理」という理論を条文にしたものです。ですから、雇止めがこの理論による有効要件を満たしていなければ、裁判では無効とされ、有期労働契約が自動的に更新されることになります。

 

<雇止めの有効性の判断要素>

雇止めは、次のような事情が多く認められるほど、有効と判断されやすくなります。

1.業務内容や労働契約上の地位が臨時的なものであること。

2.契約更新を期待させる制度や上司などの言動が無かったこと。

3.契約更新回数が少ないこと、また、通算勤続期間が短いこと。

4.他の労働者も契約更新されていないこと。

5.雇止めに合理的な理由が認められること。

 

<会社の義務>

契約期間の終了間際になってから雇止めの話を切り出したり、事前に充分な説明が無かったりすれば、それだけで「社会通念上相当でない」と判断されます。

ですから、雇止めをする事情が発生したら、対象者には早く説明してあげることが大切です。

上記1.については、労働条件通知書や就業規則の規定を示せば足りることが多いでしょう。

万一、就業規則が無く労働条件通知書の交付を忘れていたような場合には、説明のしようがありません。

口頭で伝えてあったとしても、労働条件を書面で労働者に通知することは法的義務なので、裁判になったら負けてしまいます。

上記2.については、有期契約労働者から契約更新の期待について話があれば、その範囲内で事実を確認すれば足ります。

上記3.4.については、事実を確認して有期契約労働者に示せば良いことです。

問題となるのは、上記5.の合理的な理由です。

ここでいう「合理的」とは、法令の趣旨や目的に適合するという意味だと考えられます。

法令の趣旨や目的は、法令の条文と裁判所の解釈が基準となります。

会社側の解釈も労働者側の解釈も基準とはなりません。

判断が分かれた場合には、早い段階で社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

会社は以上のような説明義務を負っていますが、有期契約労働者が納得することまでは求められていません。

そのため、説明文書を用意しこれを交付して説明するのが得策です。

説明義務を果たしたことの証拠となるからです。

 

<労働者が雇止めに納得できない場合>

会社側が上記のような説明をしない場合には、きちんと説明するよう求めましょう。

それでも説明が無い場合や、説明の内容がおかしいと感じたら、不当解雇を疑って、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

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