2022/10/26|2,266文字
<ジタハラとは>
仕事と生活のバランスが取れるようにし生産性を向上させるため、働き方改革の一環として労働時間の削減が推進されています。
ところが、会社によって労働時間が短縮されるのは、労働者にとって苦痛であり嫌がらせであると感じている人たちがいます。
これが、労働時間短縮ハラスメント(ジタハラ)です。
<ジタハラの具体的な被害>
ジタハラを主張する人たちは、次のようなものを被害として挙げています。
正社員では残業手当が減少し、パート社員では労働時間や勤務日数が減少することによって収入が減少します。
仕事を急いで全力でこなすことから、ストレスは増加し、人間関係やチームワークも悪化します。
現場での指導も不十分になりますから、仕事の完成度も低下します。
ケアレスミスも増えます。
こうして、従業員のモチベーションが低下し、退職者が増加します。
こなし切れない仕事は、自宅に持ち帰って行うこともあります。
自宅での仕事ぶりは見えませんし、評価の対象とはなりにくいものです。
いきおい人事考課が機能しなくなり、適材適所が困難となる恐れもあります。
一部の企業では、未払残業が発生します。
残業手当が支給されない管理職に業務が集中することもあります。
毎日残業し、休日も出勤する管理職の姿は、憧れの対象にはなりませんから、昇進を目指して努力するということも減ってしまいます。
一番困るのは、労働時間の短縮がお客様に対するサービスの低下をもたらし、お客様が離れてしまい、業績が低迷することではないでしょうか。
他にも、取引先との商談が減ったり、夜間の連絡が取れなくなったりの不都合が発生します。
これほど多くの不都合があるのなら、労働時間の短縮をしてはいけないのでしょうか。
これらは、政府の主導する働き方改革の弊害なのでしょうか。
ジタハラの問題を解決するには、次のような対策が必要です。
<副業・兼業の奨励>
労働時間の短縮により収入が減る場合でも、これを補うための副業や兼業が奨励されているのであれば、あとは労働者側の努力次第という説明も可能です。
そもそも職業選択の自由がある以上、プライベートの時間に本業とは別の仕事をするのは労働者の勝手というのが原則です。
もちろん、本業に支障が出たり、企業秘密が漏えいされたり、会社に損害を与えるようなことは許されません。
副業・兼業を許可制にするのは行き過ぎで、せいぜい届出制に留めるべきだと思います。
次のモデル就業規則最新版(令和3(2021)年4月版)の規定を参考に、社内規定を整備してはいかがでしょうか。
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
<労働者の主体性>
年次有給休暇について、会社が時季指定義務を果たすには、労働者の意向を汲んで行うことになっています。
ところが労働時間の短縮となると、殆どの場合に、その手段が会社からの押し付けになっていないでしょうか。
労働者に主体性を持たせ、創意・工夫による時間短縮を任せなければ、モチベーションが低下するのは当然です。
労働時間の短縮について労使の話し合いの場を持つ、キャンペーン的に労働者のアイデアを募って、成果の上がったアイデアは表彰するなど、労働者に主体性を持たせる方法はたくさんあります。
<お客様・お取引先への説明>
ただ単純に「閉店時間を早めます」「定休日を設けます」というのでは、不便になりますから、お客様の心は離れて当然です。
たとえば、スーパーマーケットのサミットは、元日だけでなく1月2日も休業日としています。
その説明は、次のとおりです。
~働き方改革の一環として1月2日を休業いたします~
弊社の事業ビジョンとなる「サミットが日本のスーパーマーケットを楽しくする」の実現に向け、お客様やお取引先を大切にすることはもちろん、それを実現するために社員の働き方を見直します。直接お客様と接する店舗の社員が家族・親族と過ごせる時間を増やし、社員一人ひとりがリフレッシュすることで、1月3日から更にお客様にご満足いただける売場・商品・サービスを実現します。また、3日からの営業となることで、弊社のお取引先様の負担を少なくしていきます。
こうした説明を受けて「けしからん」と思う人などいないでしょう。
きちんと説明すれば、会社のファンを増やすきっかけにもなるのです。
お客様やお取引先が納得してしまえば、従業員も営業時間や労働時間の短縮を批判できないものです。
<正攻法の重視>
一人ひとりの労働時間の短縮の手段としては、人員増、社員教育、システム化が王道です。
こうした正攻法を軽んじて、ノー残業デー、20時以降は消灯など、小手先の手段に走っていないでしょうか。
仕事と生活のバランスをとる、柔軟な働き方を選択できるようにするなど、働き方改革の本来の目的は労働者目線です。
いつの間にか、残業代削減など会社目線の施策が推進されていないでしょうか。
これはもはや、働き方改革ではなくなっています。
何のための働き方改革かという基本に立ち返って、労働時間の短縮に取り組むことが必要なのです。