懲戒処分での情状酌量とは

2021/07/16|918文字

 

簡単ではない懲戒処分

 

<情状とは>

刑事手続では、訴追を行うかどうかの判断や刑の量定に影響を及ぼすべき一切の事情をいいます。

犯罪の動機や目的、犯人の年齢・経歴や犯行後の態度などがこれにあたります。〔刑事訴訟法第248条、刑法第66条〕

しかし、懲戒処分は会社の行う制裁であって、国が行う刑事処分と全く同じということではありません。

それでも、故意に行った場合には、その動機や目的が情状にあたります。

また、行為者の年齢、社歴、事後の態度などは情状にあたります。

 

<酌量とは>

刑事裁判では、同情すべき犯罪の情状を汲み取って、裁判官の裁量により刑を減軽することをいいます。〔刑法第66条〕

懲戒処分の場合にも、事情を汲み取って処分に手心を加えるという意味で使われます。

 

<就業規則の規定>

最新版(令和3(2021)年4月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)

第66条 2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。

 

この規定からも明らかなように、「平素の服務態度」つまり「日頃の勤務態度」は、情状酌量の対象となります。

ただし、これは客観的に認定されなければ、不平等や不公平の問題が発生しますから、勤怠だけでなく人事考課による適正な評価を基準とすべきです。

 

<情状酌量の効果>

モデル就業規則には、他にも「情状に応じ」〔第65条本文、第66条第1項本文〕、「その情状が悪質と認められるとき」〔第66条第2項第9号〕という言葉が出てきます。

つまり、情状酌量が懲戒処分を軽くする方向に向かう場合だけでなく、懲戒処分を重くする方向に向かう場合にも作用するということになります。

 

懲戒処分を行うこと自体、懲戒権の濫用となり無効となることがあります。〔労働契約法第15条〕

この場合には、不本意ながら、懲戒処分を通知した従業員から慰謝料など損害賠償を求められることもあります。

結局、安易な懲戒処分は会社にとって危険ですから、情状酌量をも踏まえて、どの程度の懲戒処分が可能なのかは、刑法に明るい社会保険労務士(社労士)にご相談ください。

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