会社の物を壊したら弁償しなければいけないのか

2022/09/14|999文字

 

<常識的な解決>

たとえば、会社で20年以上使われてきた電卓を、たまたま自分が使っていたら壊れたとします。

こんなとき、乱暴に扱ったわけでもないのに「あなたが使っていて壊れたのだから、自分のお金で新しいのを買ってきなさい」と言われたら、決して納得できません。

法律上も、こうした常識に反する解決にはなりません。

 

<労働者の会社に対する損害賠償責任>

労働者が故意や過失によって、会社に損害を与えた場合には、損害賠償責任が発生します。〔民法第709条〕

物を壊すなど財産上の損害だけでなく、名誉や信用といった形の無いものに対する損害や、お客様に損害を与えたために会社が弁償した場合も含まれます。

特に、労働者が故意に基づいて会社に損害を与えたのであれば、その責任は重く、会社から損害額の全額を労働者に請求できる場合もあります。

もっとも、この場合であっても、中古品を破損した場合に新品の代金を請求するようなことはできません。

ましてや、故意によらず過失によって損害が発生した場合には、リスクをすべて労働者に負わせるのは不公平です。

会社は労働者の働きによって利益をあげていて、その利益のすべてを労働者に分配し尽くしているわけではありません。

損害についてだけ、労働者がすべて負担するというのは、あまりにも不公平です。

また、会社には危機管理の義務もありますから、これを怠っておいて、労働者に損害を押し付けるのもおかしいのです。

そこで裁判になれば、多くのケースで損害の全額を労働者に負担させることはできないとされています。

具体的には、労働者本人の責任の程度、違法性の程度、会社が教育訓練や保険で損害を防止しているかなどの事情を考慮して、労働者が負担すべき賠償額が判断されます。

 

<損害額の給与天引き>

労働者が、会社に損害賠償責任を負う場合であっても、会社が一方的に損害額の分を差し引いて給与を支給することは禁止されています。〔労働基準法第24条第1項〕

したがって、会社は給与を全額支払い、そのうえで労働者に損害賠償を請求する必要があります。

また、労働契約を結ぶ際に「備品の破損は1回5,000円を労働者が弁償する」など、労働者が会社に与えた損害について、あらかじめ賠償額を決めておくこともできません。〔労働基準法第16条〕

これは物品の破損などに限られず、「遅刻1回につき罰金3,000円」などのルールを設けることも違法です。

 

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