普通解雇の有効要件(中途採用の特殊性)

2022/29/13|1,309文字

 

<解雇に関する規定>

労働契約法には、解雇について次の規定があります。

 

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

中途採用と新卒採用とで、異なる規定が置かれているわけではなく、両者に共通の規定があるだけです。

 

また、モデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)は、能力不足を理由とする普通解雇について、次のように規定しています。

 

第51条  労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。

⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。

 

実際の就業規則でも、普通解雇について、中途採用と新卒採用とで別の規定を置いていることは、殆ど無いと思われます。

 

<新卒採用の雇用契約>

新卒採用は、相当長期にわたって雇用が継続することを予定して行われます。

また多くの場合、即戦力であることは期待されておらず、会社が一から教育を施して、必要な能力を身に着けさせることを予定しています。

この方が、会社の方針・風土に即した成長が期待できるので、会社にとっても都合が良いものです。

配属後の働きぶりを見て、適性の面で無理があるようならば、全く異なる部署への異動も検討すべきことになります。

 

<新卒採用の普通解雇>

このような雇用契約の性質から、会社が根気よく教育を行ったにもかかわらず、本人がどの部署でも能力を発揮できないような、極めて期待外れな場合でなければ普通解雇は困難です。

なぜなら、労働契約法第16条や就業規則の普通解雇の条件を満たすためには、会社側にかなりの努力が求められるからです。

 

<中途採用の雇用契約>

中途採用は、これまでのキャリアが買われて採用されます。

そのため、一定の経験・能力・適性を備えているものとして、即戦力となることが期待されています。

新卒採用のように、入社時に長期間の研修を行うことはなく、入社と共に配属先が決まっているのが一般です。

その配属先で、立場に応じた役割を担い切れない場合には、全く異なる部署に異動させて様子を見るということも予定していません。

 

<中途採用の普通解雇>

このように中途採用は、会社から新卒採用よりも高い期待を持たれています。

会社としては、会社に馴染むまである程度の期間はフォローするものの、予定した役割を果たしてくれなければ、期待外れになってしまい、普通解雇を検討せざるを得なくなります。

この点、新卒採用の場合よりも中途採用の方が、会社の解雇権は広く認められることになります。

 

<会社が心がけること>

このように中途採用と新卒採用とで普通解雇の有効要件が異なるのは、雇用契約の内容が異なるからです。

しかし、「常識的に」「暗黙の了解で」というのでは、雇用契約の内容があやふやになり、解雇を検討する際にはトラブルの発生が危惧されます。

特に中途採用では、個人ごとに会社が期待する経験・能力・適性、社内で果たすべき役割など、具体的な内容を雇用契約書に盛り込んでおくことが必要です。

 

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