2022/02/15|2,465文字
パワハラの6類型
<パワハラ>
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称パワハラ防止法)によれば、職場のパワーハラスメントとは職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されるものをいいます。〔同法第30条の2第1項〕
これによると、相手に精神的・身体的苦痛を与えて、その人の就業環境を害した、あるいは、他の人たちまで巻き込んで就業環境を悪化させたという実害の発生が、パワハラの成立条件のようにも見えます。
しかし、企業としてはパワハラを未然に防止したいところです。
ですから、就業規則にパワハラの定義を定めるときは、「精神的・身体的苦痛を与えうる言動」「就業環境を悪化させうる言動」という表現が良いでしょう。
<優越的な関係>
パワーハラスメントという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせを指して使われる場合が多いでしょう。
しかし、先輩・後輩間や同僚間でも起こります。
さらには、部下から上司に対して行われるものもあります。
複数の部下が共謀して上司にパワハラを行うこともあります。
「優越的な関係」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、勤続年数や経験などの様々な優位性が含まれます。
<業務上必要かつ相当な範囲>
業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上必要かつ相当な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントにはあたりません。
たとえば、上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められます。
職場のパワーハラスメント対策は、そのような上司の適正な指導を妨げるものではなく、各職場で、何が業務の適正な範囲で、何がそうでないのか、その範囲を明確にする取組を行うことによって、適正な指導をサポートするものでなければなりません。
そうでなければ、上司は部下を適正に指導することに臆病になり躊躇してしまい、組織としての機能が損なわれて、企業全体の生産性が低下してしまいます。
<パワハラの判断基準>
具体的な事案が発生した場合に、それがパワーハラスメントであったかどうか判断をするには、行為が行われた状況など詳細な事実関係を把握し、各職場での共通認識や裁判例も参考にしながら判断しましょう。
しかし、パワハラかどうかの判断をするのに、裁判例を参考にするのはむずかしいと思います。
むしろ、就業規則を読めばわかるようにしておきたいものです。
そして、就業規則にパワハラの定義を定めるときには、適正な指導との区別を具体的に明らかにする必要があります。
まず主観的には、相手の成長を思い親身になって接するのが指導です。
これに対して、自分の感情を爆発させストレスを発散する言動がパワハラです。
ですから、指導に単なる怒りの感情は伴いません。
100%怒りの感情だけがあれば、それは間違いなくパワハラです。
そして客観的には、指導というのは、その対象者の親・家族が見ていて、「しっかり指導してくれてありがとう」と思える言動です。
これに対して、パワハラというのは親・家族が見ていて「何てことを言うんだ!何てことをするんだ!」と怒り嘆く言動です。
なぜなら、指導というのは相手の成長を願って行うものであり、また、指導した者には指導に従った結果に対して責任を負うという覚悟があります。
親が子に厳しくしても、この前提が崩れない限り指導であり躾(しつけ)です。
こうしたことを踏まえて、就業規則にパワハラの定義を定めなければ、従業員には何が禁止されているのか不明確ですし、それらしき行為があっても確信が持てなければ、誰も注意することができないのですから被害者は救われません。
「自分の言動が、パワハラとなるかどうかわからない。要は、相手の受け取り方次第なので、ハッキリしない。」というのが加害者側の理屈でしょう。
これを許さないためには、具体的で明確な定義が必要なのです。
<パワハラ発生のメカニズム>
そもそも部下や後輩などが、優位に立つ自分に対して従順で素直で協力的なのは、経験、能力、意欲の差が明白だからではありません。
立場上あるいは心理的に仕方なくてそうしているのです。
決して実力の差が、仕事上の立場を超えて現れたわけではありません。
ここを勘違いしている人が、パワハラに走っているように思います。
パワハラ防止のための教育研修の内容には、このパワハラ発生のメカニズムも加える必要があるでしょう。
<企業として必要な対策>
パワハラに限らず、セクハラでもマタハラでも、ハラスメント対策としては、次のことが必要です。
・ハラスメントは許さないという経営者のメッセージ
・就業規則にあらゆるハラスメントの禁止規定と対応する懲戒規定を置く
・実態を把握するための体制と仕組みの整備
・社員教育
・再発防止措置
・相談窓口の設置
この中で、相談窓口としては、厚生労働省が社外の専門家を推奨しています。
なぜなら、社内の担当者や部門では、被害者が申し出をためらいますし、個人情報が漏れるなど被害拡大やもみ消しの恐れもあるからです。
まずは、経営者がハラスメントの問題を重くとらえ理解し、社内に「許さない」というメッセージを発信するのが第一歩です。
<社外での解決>
被害者の申し出にもかかわらず、企業が納得のいく対応をしてくれない場合には、被害者は労働局に申請して紛争調整委員会に斡旋(あっせん)をしてもらうことができます。
反対に、企業がきちんと対応したのに、被害者が納得してくれない場合にも、企業から斡旋を求めることができます。
斡旋では、委員会が話し合いの場を設けます。
双方の話し合いで解決すれば良いのですが、そうでなければ訴訟に発展することもあります。
特定社会保険労務士は、この斡旋での一方当事者の代理人となる資格を持っています。
専門家の助力が必要であれば、弁護士か特定社労士にご相談ください。