従業員が傷病手当金にこだわる事情

2021/11/22|1,484文字

 

<こだわりの原因>

傷病手当金を受給できないケースであるにもかかわらず、従業員が受給を希望し、会社に協力を求めてくることがあります。

会社から「今回のあなたの場合には、傷病手当金を受給できないので、会社は手続に協力することができません」と伝えても納得せず、受給にこだわることがあります。

これには、次のような理由が考えられます。

・「傷病手当金支給申請書」の用紙を、ネットでダウンロードするなどして従業員自身で準備し、診察した医師に「療養担当者記入用」の「療養担当者が意見を記入するところ」を記入してもらった。記入してもらうのに文書料を負担しているので、これが無駄になるのは嫌だ。また、医師が記入してくれたのだから、傷病手当金をもらえるはずだと思う。

・健保協会に問い合わせたり、ネットで調べたりして、休業1日につきいくらの傷病手当金を受給できるかを確認し、自分の受給額を計算済である。

・会社が協力してくれないことについて、健保協会などの保険者や社会保険労務士などに相談したところ、「会社には協力する義務がある」という回答だった。

・休業中は無給なので、社会保険料や住民税を支払うために、なるべく早く傷病手当金を受給したいという焦りがある。

 

<傷病手当金を受給できない原因>

傷病手当金の受給には条件があるのですが、これを確認せず、条件を満たしていないのに手続を進めようとしていることがあります。

これには、次のような理由が考えられます。

・3日を超える休業をしていない。特に、医師が10日間の労務不能を証明したのに対し、本人が無理をして3日間しか仕事を休んでいないようなケースでは、実態としての3日間の休業が優先されるので受給できないことになる。

・私傷病ではなく、業務災害や通勤災害による傷病なので、健康保険の適用対象外である。

・医師の診断を受けずに自己判断で休業し、市販薬を使用しながら自宅療養し、回復とともに出勤を再開した。この場合、医師による労務不能の認定が受けられないので、傷病手当金の手続ができない。

 

<説明の失敗>

事実は「出勤のため自転車に乗っていたところ、雨上がりのマンホールの蓋で滑って転び足を骨折した」のだとしても、けがをした従業員が医師に対して「自転車に乗っていてころんだ」とだけ話せば、医師は私傷病だと判断するかもしれません。

この場合、「傷病手当金支給申請書」に記入するのは自然な流れです。

傷病手当金の受給を希望する従業員は、直属上司に相談するかもしれません。

その上司に知識が不足していれば、あやふやな説明に終始してしまうことになります。

この場合には、上司が詳しい人に相談せず自己流の説明をして失敗しているわけです。

また、健保組合や社会保険労務士に相談した場合でも、会社が手続に協力しない不満を述べるだけで、傷病の原因についての具体的な説明が無ければ、誤った回答が出される危険があります。

 

<会社からの正しい説明>

会社が従業員から傷病手当金の相談を受けたなら、社内外の専門家がご本人に聞き取りを行い、適確な説明をする必要があります。

特に、ご本人の勘違いで傷病手当金の手続を進めるつもりになっていた場合には、より一層丁寧な説明が必要となります。

 

<解決社労士の視点から>

従業員の勘違いに起因するものであっても、無駄な出費が発生した場合には、会社に対する不信感が発生することもあります。

健康保険の傷病手当金や高額療養費、労災保険の給付、育児・介護関連については、一定の頻度で発生しますから、社内での相談窓口を明確にしておくこと、最低限の知識は社内で共有することが必要です。

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