年俸制にするのなら

2022/08/06|1,015文字

 

<予定外の長期入院で月給が下がるのは>

「年俸制の従業員が長期にわたって入院したら年俸を下げることはできるのか」というご質問を受けたことがあります。

月給制の従業員が長期間入院した場合に、入院期間に応じて毎月少しずつ基本給が下がっていくシステムというのは聞いたことがありません。

これは、明らかに不合理であり社会通念上も相当ではないので、法的に許されない不利益変更となります。

 

<年俸制なら許されるのか>

ではなぜ「年俸制の従業員が長期間入院したとき年俸を下げてもよいのか」という疑問が出るのでしょうか。

これは、年俸が過去の実績を踏まえつつ、今後1年間でどれだけ会社に貢献してくれそうかという予測評価に基づいているためでしょう。

プロ野球の選手は、球団との間で一般的な労働契約を交わしているわけではありません。

ところが、サラリーマンにも応用できそうだということで、年俸制を採用している会社もあります。

そして一度決めた年俸は、長期入院にもかかわらず、会社から支払が続くというものです。

しかし、これは会社が独自に決めたルールです。

年俸制なら欠勤控除できないという法令の規定はありません。

そもそも、労働基準法などに年俸制の規定はありません。

また、厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)にも、年俸制を想定した規定はありません。

ですから、予想外の長期入院が発生したときに不都合を感じるような給与支払のルールを、会社が独自に作っておいたのが失敗なのです。

 

<年俸制にするのなら>

年俸制であっても、労働基準法の縛りがあります。

毎月1回以上定期に賃金を支払わなければなりません。

残業手当、深夜手当、休日出勤手当など割増賃金を支払う必要もあります。

しかし、欠勤控除してはいけないというルールはありません。

法令には規定がないのですが、労働契約の性質から「労働者が働かなければ会社に賃金の支払い義務はない」という「ノーワークノーペイの原則」があります。

欠勤控除しないのは、会社がそういうルールにしているだけです。

ですから、年俸制を実施している会社で、就業規則に欠勤控除の規定がなければ定めればよいのです。

ただし、長期入院にもかかわらず、通常の賃金を支払い続けていたという前例が過去にあった場合には、就業規則の不利益変更が疑われます。

この場合には、社会保険労務士などの専門家に相談しながら、慎重に事を進める必要があるでしょう。

 

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