労働力の確保・質の向上に向けた課題

2022/08/12|2,286文字

 

<労働力の確保・質の向上に向けた課題>

令和4(2022)年7月29日、内閣府より「令和4年度年次経済財政報告-人への投資を原動力とする成長と分配の好循環実現へ-」が公表されました。

この中で、労働力の確保・質の向上に向けた課題が次のように把握されています。

 

一人当たり賃金は、デフレが長期化する中で経済全体の稼ぐ力が十分に高まらなかったことに加え、労働生産性の伸びに対し十分な分配が行われなかったことなどから伸び悩み。

労働生産性の伸びと物価上昇率に見合った賃金上昇の実現が重要。

人口減少に伴う労働投入量の減少が見込まれる中で、女性や高齢者等の一層の労働参加、すでに就労している者の労働移動を通じた一層の活躍促進が必要。

また、同一労働同一賃金を徹底し、男女の賃金格差縮小に取り組むとともに、人への投資を通じた労働の質の向上に向けて、社会人等の学び直しを強化していくことが重要。

 

<賃金の状況など>

賃金の状況など、成長と分配からみた人への投資の課題については、次のように述べられています。

 

我が国の実質GDPは約30年間、緩やかな増加にとどまってきたが、労働投入の面からみると、その背景は人口減少と、完全週休二日制の普及や非正規雇用者数の増加等による一人当たり労働時間の減少。

労働時間当たりの実質GDPは主要先進国とそん色のない伸び。

我が国は2013年以降、TFPと労働の寄与が高まる一方、資本の寄与は大幅に縮小し、他の主要先進国との差が拡大。

一人当たり名目賃金は伸び悩み。

一人当たり労働時間の減少、相対的に賃金水準が低い女性や高齢者の増加が押下げ。

一方、2013年以降、時給の増加によるプラス寄与が拡大。

一般労働者(フルタイム)について、女性の時給は総じて緩やかに増加。

男性は全体では2013年頃から上昇に転じたものの、40代では減少傾向が続く。

50代は定年延長等の取組により、2010年代半ば以降緩やかに増加。

 

日本では名目賃金が伸び悩んでいます。

労働時間の減少によるマイナスと、女性の時給増加によるプラスが拮抗するなど、各要素の動きはあるものの賃金の押し上げには至っていません。

 

<雇用の動向など>

人口減少と雇用の動向、雇用形態の多様化と労働参加の促進については、次のように述べられています。

 

女性の労働参加の進展により、人口減少の下でも2010年代半ば以降、就業者数は増加。

今後、人口減少や少子高齢化が本格化する中、マンアワーベースの労働投入量(一人当たり労働時間×就業者数)は、労働参加が一定程度進んだとしても年率0.6~1.1%程度減少する可能性。

労働の量の減少を緩和するためには、女性や高齢者などの一層の労働参加の促進が必要。

人口の1割弱程度を占める不本意非正規雇用者、失業者、就業希望者に加え、就業時間の増加を希望する短時間就業者、就業時間を調整している者などに対しても、制度の見直しや就労支援を通じ、活躍を促していくことが重要。

 

内閣府は「就業時間の増加を希望する短時間就業者、就業時間を調整している者」の就業時間の増加促進を考えています。

一方で、段階的な社会保険適用拡大も迫っていますので、内閣府の期待とは反対に、就業時間の減少を希望する短時間就業者や就業時間を更に調整する者などの増加も懸念されます。

企業には、短時間労働者の就業時間の増加を促す動きが期待されています。

 

<多様な働き方など>

多様な働き方と労働移動の促進については、次のように述べられています。

 

労働移動の状況について、転職入職率は、30代男性、40代・50代の女性では上昇傾向。

30代以下の男性や30代・40代の女性では転職に伴い賃金が増加する者が多い。

正社員間の転職1年後の年収は、49歳以下では増加しており、転職1年後の年収増加は異業種間転職よりも同業種間の方が高い。

感染症下で正規雇用の転職希望者が増加。

労働移動を通じ、すでに就労している様々な年齢層の一層の活躍の後押しが今後の課題。

副業・兼業は、現時点では若年層中心。

成功事例と課題の共有、ガイドラインの普及等を通じ、その動きが広がっていくことを期待。

 

企業は経験者や即戦力を求め、人材の獲得競争にさらされています。

また、副業・兼業による疲労の蓄積が本業に及ぶことへの恐れから、企業がすべての年代にわたって副業・兼業を促進しているわけではないことが読み取れます。

 

<賃金格差とリカレント教育>

男女間賃金格差・非正規雇用と労働の質、リカレント教育促進については、次のように述べられています。

 

男女間の賃金格差の背景には、女性の方が正規雇用、高い職位のシェアが少ないこと、正規の平均勤続年数が短いこと、女性の方が正規雇用での就業や年齢の上昇による賃金増加程度が小さいこと等が挙げられる。

非正規雇用者比率は男性において中長期的に上昇傾向、女性は2010年代半ば以降、低下傾向。

学校卒業後の初職が非正規の者は現職も非正規の割合が大きく、非正規雇用が固定化している可能性。

学び直しの効果として、大学等で学んだ者の2割程度が希望の転職や年収増加を実現。

特にOFF-JTと自己啓発を両方実施する者は、片方のみの者に比べ、年収増加が明確。

企業側が業務に必要な技術・能力等を明確化することで雇用者の学び直しを促し、処遇改善や年収増加につながることを期待。

 

リカレント教育には一定の効果が期待されるため、国が強力に推進し始めたところです。

今まで教育の機会を与えられてこなかった、就職氷河期世代の非正規雇用者には、大きな効果が現れるのではないでしょうか。

 

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