2022/08/04|2,048文字
<監督指導・送検等の状況>
令和3年に、外国人技能実習生の実習実施者(技能実習生が在籍している事業場)に対して労働局や労働基準監督署が行った監督指導や送検等の状況について、厚生労働省が取りまとめ公表しました(令和4(2022)年7月27日)。
外国人技能実習制度は、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図ることにより、企業などでの人材育成を通じた技能等の母国への移転により国際協力を推進することを目的としています。
しかし今回の公表結果によると、労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,036事業場(実習実施者)のうち6,556事業場(72.6%)に及ぶということです。
ここでは、監督指導の実例を4件ご紹介させていただきます。
<違法な時間外労働等についての指導>
陸上貨物を取り扱う事業場で、外国人技能実習機構から違法な時間外労働等が疑われる旨の通報があったことから、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)を実施しました。
この結果、1か月100時間を超える違法な時間外労働が認められました。
また、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、1年以内に5日間以上の年次有給休暇を取得させていないことが認められました。
これらに対して、労働基準監督署は有効な36協定が締結されないまま時間外労働を行わせたことについて是正勧告しました。
また、過重労働による健康障害防止対策として、長時間労働の削減について指導しました。
さらに、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、1年以内に5日間以上の年次有給休暇を取得させていないことについて是正勧告しました。
指導を受けた会社は、元請と業務量(荷の取扱量)について協議を実施するほか、シフトの細分化や業務量増加が見込まれる場合の短期的人員増加を図りました。
また、1年間に合計10日間の有休取得奨励日を設定し、取得促進を図りました。
<掃除等の場合の機械の運転停止についての指導>
食品製造を行う事業場で、ベルトコンベヤーの回転部分に指が挟まれる労働災害が発生したため、立入調査(臨検監督)を実施したところ、ベルトコンベヤーの掃除を行う際に機械の運転を停止していなかったことが認められました。
これに対して労働基準監督署は、機械の掃除を行う場合、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときに、機械の運転を停止しなかったことについて是正勧告しました。
指導を受けた会社は、被災者及び同様の業務を行う労働者に機械の清掃時は運転を停止させる必要があることなどの安全教育を実施しました。
また、ベルトコンベヤーの回転部分に指が挟まれないよう防護柵を設置しました。
<割増賃金の不払等についての指導>
空調設備設置工事を行う事業場で、外国人技能実習機構から割増賃金の一部が支払われていない旨の通報があったことから、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)を実施しました。
この結果、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないことが認められたほか、書面による労使協定がないにもかかわらず、賃金から寮費を控除していたことが認められました。
これらに対して労働基準監督署は、週40時間を超える時間外労働に対して、法定の割増率以上で計算した割増賃金を支払わなければならないことについて是正勧告しました。
また、賃金から寮費を控除する旨の書面による協定を締結していないにもかかわらず、賃金から寮費を控除していたことについて是正勧告を行いました。
指導を受けた会社は、不足していた時間外労働に対する割増賃金を遡って支払いました。
また、賃金から寮費を控除することについて、書面による労使協定を締結しました。
<フォークリフトの無資格運転についての指導>
建設業の事業場で、フォークリフトの無資格運転を行っている旨の情報が寄せられたことから、労働基準監督署が立入調査(臨検監督)を実施しました。
この結果、資格を有していない技能実習生がフォークリフトを運転していたことが認められました。
これに対して労働基準監督署は、技能講習を修了していない労働者に、最大1トン以上のフォークリフトの運転業務を行わせてはならないことについて是正勧告しました。
指導を受けた会社は、無資格者にはフォークリフトを運転させないよう安全教育を徹底しました。
また、複数の労働者にフォークリフトの資格を取得させ、有資格者が不在とならない体制を構築しました。
<解決社労士の視点から>
会社が違法と知りつつ敢えて行っていた違反と、細かな法規制や法改正に対応しきれず意図せず行っていた違反が混在しているように見えます。
労働基準監督署にとっても、悪意ある違反と無知による違反は区別できません。
こうしたこともあって、労働基準監督署の指導に従い改善したケースで、送検されたものは見当たりません。
会社が労働法を遵守するのは当然のことですが、労基署から万一の不備などを指摘された場合には、積極的に改善する姿勢を示すことが求められます。