カスタマーハラスメント

2022/03/09|1,768文字

 

<カスタマーハラスメントの防止>

令和元(2019)年6月に、労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。

(中小企業では令和4(2022)年4月に改正法が施行)

この改正を踏まえ、令和2(2020)年1月に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定され、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められました。

 

<カスタマーハラスメントの意味>

カスタマーハラスメントは、顧客や取引先などからのクレーム一般を意味するものではありません。

クレームの中には、改善を求める正当な意見も含まれています。

一方で、過剰な要求や不当な言いがかりもあります。

こうした不当・悪質なクレームからは、会社と従業員を守る対応が必要です。

法令にカスタマーハラスメントの定義はありません。

しかし、厚生労働省のパンフレット類によると、企業へのヒアリング調査等の結果をまとめたものとして、次のような定義が表示されています。

 

【カスタマーハラスメント】

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

 

これには、次のような補足的説明が加えられています。

顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合には、その実現のための手段・態様がどのようなものであっても、社会通念上不相当とされる可能性が高くなると考えられます。

反対に、顧客等の要求の内容に妥当性がある場合であっても、その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合は、社会通念上不相当とされることがあります。

 

<顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合の例>

企業の提供する商品に瑕疵が無い場合、企業の提供するサービスに過失が無い場合など、クレームの対象となる落ち度が存在しない場合には、クレームそのものが社会通念上不相当な言いがかりとなってしまいます。

また、企業の提供する商品に瑕疵があり、あるいは、企業の提供するサービスに過失がある場合であっても、顧客等の要求の内容がこれらとは無関係なときは社会通念上不相当となってしまいます。

コンビニで、接客が悪いという理由で、タバコ2カートンを要求した人がいるという報道がありました。

接客の善し悪しに関わらず、タバコ2カートンの要求は接客とは無関係ですから、社会通念上不相当なわけです。

 

<要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動の例>

暴行、脅迫、土下座の要求のような犯罪行為の他、長時間のしつこい繰り返しなども社会通念上不相当な言動です。

また性的な言動は、カスハラにセクハラの要素が加わったものとなりえます。

使用済み商品の交換の要求、金銭補償の要求のように、要求内容が妥当ではないため、社会通念上不相当とされる場合もあります。

 

<カスタマーハラスメントの認定基準>

何をもってカスタマーハラスメントと認定するかは、法令に規定が無い以上、各企業の判断に委ねられていることになりますが、一般的には次の2つが基準となります。

・顧客等の要求内容に妥当性があるか

・要求を実現しようとする手段・態様が社会通念に照らして相当か

 

<実務の視点から>

昭和時代には「お客様第一」「お客様は神様」といったスローガンのもと、どんな悪質なカスタマーハラスメントにも従業員がじっと耐えるという姿が見られました。

しかし平成時代には、顧客を分析的に捉え、会社に利益をもたらす「お客様」と会社の負担となる「悪質顧客」に分けて考えられるようになりました。

そして、「悪質顧客」への正しい対応が、「お客様」の利益を守ることになると考えられています。

カスタマーハラスメントへの正しい対応は、会社と従業員だけでなく、一般の「お客様」を守ることにもなるわけです。

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