ニイヨン協定

2021/11/16|1,146文字

 

<労使協定>

労使協定とは、労働者と使用者との間で締結される書面による協定のことです。

法令に「労使協定」という用語があるわけではなく一種の通称です。

そして、使用者と労使協定を交わす主体は、事業場により2通りに分かれます。

・労働者の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合

・労働組合が無いとき、あるいは、労働組合があっても労働者の過半数で組織されていないときは、労働者の過半数を代表する者

労働者の過半数を代表する者は、その事業場で民主的に選出されます。

 

<36(サブロク)協定>

その事業場で、時間外労働(法定労働時間を超える早出、残業)や休日出勤(法定休日の出勤)が全くない事業場を除き、これらについての労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。

根拠規定が労働基準法第36条にあるので、36協定と呼ばれます。

労使協定の中には、所轄の労働基準監督署長への届出を義務づけられたものがいくつかありますが、届出をしなくても罰則が適用されるだけで、効力そのものは発生するのが原則です。

しかし、唯一の例外として36協定だけは届出をするまでは無効です。

しかも、届出をした日からの時間外労働などについてのみ有効とされ、日付をさかのぼっての効力は認められません。

さらに、有効期限が最長でも1年間なので、毎年届出が必要なため注意が必要です。

 

<24(ニイヨン)協定>

根拠規定が労働基準法第24条にあるので、24協定と呼ばれます。

労働組合がある会社では、むしろチェックオフ協定と呼ばれることが多いでしょう。

労働者の給与から労働組合費を控除して集め、労働組合に納入する制度をチェックオフといい、多くの労働組合で行われていますが、これはこの労使協定に基づいて行われているわけです。

賃金からは法令に基づき、労働者の同意を得ることなく、所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料が控除されています。〔労働基準法第24条第1項但書〕

これは源泉徴収ですが、労働者各個人が納付するより効率的で、確実に徴収できるためです。これに対し、組合費、寮費、昼食費など法定外のものを賃金から控除することは、賃金全額払の原則(労働基準法第24条第1項本文)に反することから、24協定の範囲内で許されます。〔労働基準法第24条第1項但書〕

24協定は、所轄の労働基準監督署長への届出義務がありませんし、有効期限を設ける必要もありません。

それだけに、紛失の危険があります。

万一、労働基準監督署の立入調査(臨検監督)が入ったときのために、保管場所だけはきちんと確認しておきましょう。

また、24協定についても、36協定や就業規則と同様に労働者への周知義務があります。〔労働基準法第106条第1項〕

まとめて周知することをお勧めします。

ひとり残業の問題点

2021/11/15|976文字

 

 一人で残業

 

<上司による管理>

上司は部下の仕事ぶりを管理しています。

しかし、部下が全員帰るまで、上司が会社に残っているというのも不合理です。

ある程度育った部下のことは信頼して、ひとりで残業させるというのも許されるでしょう。

しかし、部下だけで残業させておいてノーチェックというのも、上司としての職責を果たしていないことになります。

残業代が欲しくてただ残っているだけの部下に気付かないのではお話になりません。

 

<勝手に残業したのなら>

残業は、会社が社員に命じて行わせるものです。

具体的には、上司が業務上の必要から、部下に命じて行わせることになります。

少なくとも、部下が残業の必要性を上司に打診し、これを受けて上司が部下に命ずるという形でなければ、残業は発生しない性質のものです。

それなのに、部下が自己判断で勝手に会社に残って働いたのなら、上司が指導しなければなりません。

しかし、この場合でも最初の1回は残業代を支払わなければなりません。

なぜなら、会社側である上司の教育指導不足が原因だからです。

 

<残業命令があったとしても>

たしかに「明日の会議の資料を完成させてから上がるように」とは言ったものの、残業時間の長さの割に完成度が低いのであれば、上司から部下に具体的な事情を聴かなければなりません。

解らなかったり迷ったりで時間がかかったのであれば、上司も一緒に残業すべきだったのかもしれません。

能力不足が原因であれば、少なくとも会議資料の作成については、ひとりで残業させないようにする必要があるでしょう。

 

<ひとり残業を発生させない工夫を>

ひとりで残業するというのはモチベーションが下がりますし、たった一人のために光熱費をかけるというのも不合理です。

たとえ部下が残業の必要性を主張したとしても、ひとり残業になるのなら、上司はその部下を帰らせる勇気を持つべきです。

残業の必要性を申し出るタイミングが遅いのなら、仕事の進め方やスケジューリングについての指導が必要です。

仕事の合間に居眠りしたり、軽食をとったり、雑談したり、喫煙したり、仕事に関係ない資料を読んだり、個人的興味でパソコンをいじったり、スマホを操作したりの時間の総合計が長い一方で残業が発生している社員は、人件費の割に仕事が進んでいないことになります。

このような部下に対しては、上司の徹底的な指導が必要でしょう。

10人未満の小さな会社でも採用時に健康診断が必要か

2021/11/14|1,066文字

 

会社が健康診断を受けさせないリスク

 

<採用時の健康診断>

企業は、常時使用する労働者を採用するときには、労働安全衛生法に定める基準により、健康診断を実施しなければなりません。

たとえ就業規則に規定が無くても、あるいは就業規則が無くても、この実施義務は免れることができません。

労働安全衛生法に定める対象者の基準は次の2つです。両方の基準を満たす人については、健康診断の実施義務があります。

・期間を定めないで採用されたか、期間を定めて採用されたときでも1年(深夜業を含む業務、一定の有害業務に従事する人は6か月)以上引き続き使用(または使用を予定)されていること。

・1週間の所定労働時間が、その企業で同種の業務に従事する正社員の4分の3以上であること。

健康診断を行わなかった事業者に対する罰則は、1人1回罰金50万円ですが、健康診断をサボる労働者に対する罰則はありません。

そして、健康診断の実施義務は、事業規模に関係なく定められていますから、小さな会社が免除されることはないのです。

 

<法定されていることの恐ろしさ>

企業が健康診断の実施をサボったとしても、必ずしも罰則が適用されるわけではありません。

しかし、健康配慮義務違反ということになってしまいます。

他人にケガをさせた場合には、傷害罪や過失致死罪など刑法が適用されることがあります。

これとは別に、加害者は被害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されてしまいます。

企業が健康診断をせずにいたところ、労働者の一人が勤務中に病死したとします。

この場合に罰金を取られなかったとしても、遺族からは多額の損害賠償を請求されるでしょう。

企業としてやるべきことをやっていなかったのですから、責任は免れません。

しかも、健康診断の実施義務を果たしていなかったことは、簡単に証明されてしまいます。

 

<健康診断は企業にとっても安心材料>

労働者から「仕事が忙しくて血圧が上がった」「仕事のストレスで肝機能がおかしくなった」などの主張があっても、採用時の健康診断を正しく行っておけば、入社の時点から多少の異常は見られたことが容易に判明します

仕事が原因で健康を害したわけではないという証明もしやすくなります。

採用を決めてから、健康診断の結果が悪いことを理由に採用を取り消すのは、安易にできないことです。

むしろ、健康に配慮しながら働かせることになります。

この場合にも、健康診断の結果を踏まえて適正な対応をとったという主張をするには、結果を保管しておくことが役に立ちます。

なお、健康診断の個人別結果は、法定の保管期間が5年間と長いので注意しましょう。

違法な長時間労働に対する東京労働局の指導

2021/11/13|1,073文字

 

労働基準監督署の立入調査

 

<労働局の指導>

厚生労働省は、違法な長時間労働を複数の事業場で行っていた社会的に影響力の大きい企業について、都道府県労働局長等から企業の経営幹部に対して、全社的な是正を図るよう指導を行った上で、その旨を公表することにしています。

令和3(2021)年11月1日、これに基づき東京労働局長が指導を実施し、その当日に内容が公表されています。

◯違法な長時間労働の実態

労働基準法第32条に違反し、かつ1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働が複数の事業場で認められた

◯是正指導の状況

令和3(2021)年11月1日、東京労働局長から代表取締役社長に対し、違法な長時間労働について、代表取締役社長主導のもと、本社及びすべての傘下事業場における状況を再度点検し、速やかに全社的な改善措置を講ずるよう指導書を交付

◯早期是正に向けた当該企業の取組方針

長時間労働削減並びに法令遵守のため、本社主導で全社的な改善に取り組む

また、採用強化による必要人員の確保、機動的な社員配置を行うとともに、デジタル化の推進及びグループ会社を活用した業務効率化により、労働時間の削減を進める

 

<企業に対する指導・公表制度>

対象はあくまでも複数の事業場を有する大企業ですが、違法な長時間労働等が複数の事業場で認められた企業に対する指導・公表制度についても公表されています。

◯通常の場合

1.違法な長時間労働、2.過労死・過労自殺等で労災支給決定、3.これらと同程度に重大・悪質

1年間で2事業場に上記1.~3.があると、労働基準監督署長による企業幹部の呼出指導、ついで改善状況を確認するための全社的な立入調査が行われます。

ここで再び違反の実態が確認されると、労働局長による指導と企業名の公表が行われます。

◯特に重大・悪質な場合

1.月100時間超の違法な長時間労働、2.過労死・過労自殺で労災支給が決定され労基法32・40,35,36-6,37条違反あり

1年間で2事業場に上記2.が、あるいは上記1.と上記2.が2事業場で発生した場合には、即、労働局長による指導と企業名の公表が行われます。

 

労基法第32・40条違反 :時間外・休日労働協定(36協定)で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせている

労基法第35条違反 :36協定に定める休日労働の回数を超えて休日労働を行わせている

労基法第36条6項違反 :時間外・休日労働時間数が月100時間以上又は2~6月平均で80時間を超えている

労基法第37条違反 :時間外・休日労働を行わせているにもかかわらず、法定の割増賃金を支払っていない など

 

クイズ正解で有給休暇を与えるのはなぜダメなのか

2021/11/12|1,361文字

 

<クイズに正解で有給チャンス>

昔、ある支店長が部下に、「クイズに正解しなければ有給休暇を取得させない」というメールを送ったという事件がありました。

この支店長は平成28(2016)年に複数の部下に対して「正解で有給チャンス」など、メールでクイズを出題していたそうです。

不正解の部下には、実際に年次有給休暇の取得を認めなかったとのことです。

  

<しろうと目線では>

なかなか年次有給休暇を取得できない職場で、「少しでも有給休暇を消化させよう」と考え、上司が部下全員にくじ引きやクイズで働きかけて、取得を促進するのは、働き方改革の観点からも良い工夫であるかのようにも見えます。

たとえ経営者や人事部門から「もっと有給休暇を取りなさい」と言われても、全社的にあるいは一部の部門で、なかなか取得できない雰囲気があるかも知れません。

こんなとき「当たりくじを引いたから」「クイズに正解したから」という理由で、堂々と年次有給休暇を取得できたなら、その社員は救われた気持になることでしょう。

 

<法的観点からは>

しかし年次有給休暇は、労働基準法第39条に定められた労働者の権利です。

権利というのは、行使するかしないかが権利者の自由に任されています。

もし「当たりくじを引いたら」「クイズに正解したら」賞品として必ず年次有給休暇を取得するというルールなら、強制的に権利を行使させられることになり、権利者の自由ではなくなってしまいます。

また「外れくじを引いたら」「クイズに不正解なら」年次有給休暇を取得できないというルールなら、会社の許可なく自由に取得できるはずの年次有給休暇が不当に制限されてしまいます。

年次有給休暇の取得促進という目的が正しくても、手段が正しくなければ、法的観点からは違法なこととして否定されることがあるのです。

 

<労働基準法が改正されて>

平成31(2019)41日からは、法改正により、労働者からの申し出が無くても、使用者が積極的に年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。

権利を行使するかしないかが権利者の自由に任されていることの重大な例外です。

政府は、働き方改革の推進を権利の本来の性質に優先したことになります。

年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に対し、年次有給休暇のうち5日については、基準日から1年以内の期間に労働者ごとにその取得日を指定しなければなりません。

具体的には、基準日から次の基準日の前日までの1年間で、年次有給休暇の取得について、次の3つの合計が5日以上となる必要があります。

 

・労働者からの取得日の指定があって取得した年次有給休暇の日数

・労使協定により計画的付与が行われた年次有給休暇の日数

・使用者が取得日を指定して取得させた年次有給休暇の日数

 

こうしたことは、多くの企業にとって不慣れですから、ともすると次の基準日の直前にまとめて年次有給休暇を取得させることになりかねません。

これでは業務に支障が出てしまいますので、計画的に対処することが必要になります。

そこで、労働基準法施行規則も改正され、企業は「年次有給休暇管理簿」の作成・運用・保管が義務づけられています。〔労働基準法施行規則第24条の7〕

働き方改革の継続的な推進による法改正に取り残されることがないよう、十分に注意しましょう。

退勤後のメールも残業か

2021/11/10|1,553文字

 

<ある判決>

平成27(2015)年に長時間労働で過労死した服飾雑貨メーカーの男性の遺族が起こした訴訟で、東京地裁が令和3(2021)年10月28日、会社側に約1,100万円の損害賠償を命じる判決を出しました。

退勤後でも、メールの送信やパソコンのファイル更新の時刻が確認できれば、「業務時間」と判断できるという遺族側の主張を認めたものです。

しかし、このことから「退勤後のメールも労働時間に該当する」と短絡的に一般化できるわけではありません。

 

<労働時間の定義>

労働時間とは、「労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間」と定義されます。

これは、会社ごとに就業規則で決まったり、個人ごとに労働契約で決まったりするのではなく、客観的に決められている定義です。

もっとも、これは法令に規定されているわけではなく、最高裁判所が判決の中で示したものですし、抽象的な表現に留まっていますので、具体的な事実に当てはめてみた場合には、判断に迷うことが多々あります。

会社の業務との関連性がある程度薄かったり、使用者の指揮命令関係から解放されていると断定できなかったりと、グレーゾーンにある時間帯が問題となります。

使用者側が「指揮命令下に置いていなかった」と主張し、労働者側が「指揮命令下に置かれていた」と主張して、意見が対立することもあるわけです。

 

<労働時間の把握義務>

使用者には労働時間を適正に把握する義務があります。〔労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生規則第52条の7の3〕

そして労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これをもとに何時間働いたかを把握・確定する必要があります。

使用者が始業・終業時刻を確認し記録する方法としては、原則として、次のいずれかの方法によることが求められています。

・使用者が自ら現認し記録すること。

・タイムカード、ICカード、パソコン入力等の客観的な記録を基礎として確認し記録すること。

こうして把握された労働時間は、原則として使用者が労働者を指揮命令下に置いていた時間ということになります。

 

<裁判の証拠>

最初に掲げた判決の事件のように、遺族から「長時間労働で過労死した」という主張があった場合でも、使用者側が労働時間の客観的な記録を保管していれば、この証拠を法廷に提出して主張を退けることも可能になります。

しかし、実際の事件では、使用者側が法令に違反して労働時間の把握を怠っていたのです。

この場合、亡くなった労働者が何らかの記録を残していれば、あるいは遺族の証言があれば、それが法廷に提出され裁判の証拠となります。

タイムカードなどに比べれば、客観的な正確性は劣るかもしれませんが、こうした証拠がある以上、裁判所は判断を拒めません。

こうなると、使用者側はかなり不利な立場に立たされます。

 

<解決社労士の視点から>

もし、この会社がタイムカードで労働時間を適正に把握していたのなら、「退勤後のメールの送受信は、使用者の指揮命令によらず、労働者の個人的な判断で行っていたに過ぎず、会社はプライベートな時間の行動まで管理しきれなかった」という主張が可能だったかもしれません。

このように、会社が法定の義務を怠ったことにより、罰則が適用されることとは別に、民事訴訟で不利な立場に立たされることがあるのは、数多くの裁判例の示すところです。

「労働時間の客観的な把握」が法的な義務となったのは、平成31(2019)年4月からのことです。

働き方改革の一環で急速に進む法改正に取り残されないようにしましょう。

在宅勤務で改めて感じるリアル雑談の大切さ

2021/11/07|1,204文字

 

<リアル雑談>

オンラインではなく、直接顔を合わせて行う雑談を「リアル雑談」と呼ぶことにします。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響や、働き方改革の一環で、在宅勤務などのリモートワークが増えてきたため、リアル雑談が減ってしまいました。

オンライン雑談も可能なのですが、相手の様子が判らないので、簡単には声が掛けられません。

それでも、事実の伝達であればメールの方が確実で便利ですし、意思の伝達についても相手が内容を認識できますから、それほどの不自由は感じません。

 

<個別の雑談>

リアル雑談の利点は、何より相手の理解度や本心を探れることにあります。

たとえば「最近、〇〇の件については、××だと思うよ」と言ったのに対して、相手が「なるほど××ですね。気がつきませんでした」と答えたとします。

このときの、相手の顔色というかリアルな反応は、端末の画面では探りにくいものです。

返事があったのだから、おそらく内容を認識したとは思えるものの、どこまで理解したのか、本音で賛成しているのか反対しているのかは、リアル雑談のようには確信が持てません。

この話をさらに続けるべきか、やめるべきか、判断がつかないときには、ここで話を終了してしまいます。

リアル雑談であれば、相手の反応を見ながら説明を追加したり、話をふくらませたりもできます。

こうして理解と共感が深まり、これをベースとして新たな思考や発想も生まれてくるでしょう。

また、孤独感に苛まれて、メンタルヘルス不調に陥る人も出にくくなるわけです。

 

<雑談の集積>

特定の人とリアル雑談を繰り返すうちに、その人の興味の対象、思考の傾向、論理の流れなどを把握できるようになりますし、何をどう説明すれば理解してもらえるか、納得してもらえるかといったコツも分かってきます。

会議のメンバー間で、こうした関係が形成されれば、合意が得られやすくなりますし、結論の出ない会議のための会議は発生しにくくなります。

これはリアル雑談でも、必ずしも容易なことではないのですが、オンライン雑談では困難を極めます。

 

<人間関係の構築>

社内での信頼関係や人間関係は、業務の協力関係の中でも構築されますが、リアル雑談の効用も大きいと考えられます。

雑談をしないで業務だけで信頼関係を築くのは難しいものです。

営業マンは雑談力が重視されますし、会議の中にも雑談が持ち込まれるのは、雑談に大きな効果が認められているからでしょう。

また、信頼関係や人間関係を維持するには、コミュニケーションの継続と直近性が大事です。

「去る者は日々に疎し」という言葉が示すとおり、コミュニケーションを取ってから長い期間が経過してしまうと、人間関係が薄れる傾向にあります。

まれにオンライン雑談をする程度では、不安を感じる人も多いでしょう。

退職者の退職理由は、大半が人間関係であるとも言われます。

リアル雑談は、離職率の改善にも一役買っていることになります。

時差出勤(働き方改革)

2021/11/05|1,040文字

 

<現代版の時差出勤>

東京都では「時差Biz」と称して時差出勤を推奨してきました。

通勤ラッシュ回避のために通勤時間をずらすもので、働き方改革のひとつと考えられます。

たしかに働き方改革の定義は、必ずしも明確ではありません。

しかし、働き方改革実現会議の議事録や、厚生労働省から発表されている数多くの資料をもとに考えると「企業が働き手の必要と欲求に応えつつ生産性を向上させる急速な改善」といえるでしょう。

東京都の特に区部では、満員電車の混雑緩和が社会の生産性向上のための重要な課題のひとつとなっています。

通勤時間をずらすことによって満員電車の混雑緩和を促進する「時差Biz」に、多くの会社で一斉に取り組めば、現在の満員電車での通勤による労働者の肉体的・精神的な負担が軽減され、生産性が向上することは明らかでしょう。

ここに来て、東京オリンピックに向けた準備やコロナ禍によって、期せずして時差出勤の動きも盛んとなりました。

この動きがコロナ終熄後も続くことが、働き方改革の観点からは望ましいわけです。

 

<労働者側のメリット>

生産性の向上というと、企業側のメリットばかりが強調されてしまいますが、空いた電車では満員電車とは違って、働き手にとっても時間の有効活用が可能です。

満員電車では、ただただ耐えるだけの時間となってしまいます。

しかし、空いた電車の中では、スマホで個人の趣味に取り組んだり、ニュースをチェックしたり、資格試験の勉強をしたりと、通勤時間の有効活用が可能となります。

それに、朝早く出勤して夕方は早く帰宅というパターンなら夕方の時間をプライベートに使えますし、遅め出勤なら朝の時間に趣味や家族のコミュニケーションを充実させることも可能です。

 

<会社で必要な手続>

時差出勤は、フレックスタイム制とは違って1日の労働時間(所定労働時間)の長さはそのままです。

早く出勤して早く帰るか、遅く出勤して遅く帰るかということです。

しかし、これを導入するには、会社の就業規則に新たな規定を設ける必要があります。

始業時刻と終業時刻は、就業規則に必ず定める絶対的必要記載事項です。〔労働基準法第89条〕

そのため、時差出勤の対象者や時差出勤での始業時刻と終業時刻のパターンは、就業規則に定めておく必要があります。

また、時差出勤の導入によって休憩時間も変更する必要があったり、一斉休憩の原則が維持できなくなるようであれば、就業規則にその旨を定めたり、一斉休憩の適用除外に関する労使協定の締結も必要となります。

報連相を受ける側のレベルアップ

2021/11/04|1,042文字

 

<会社業務に不可欠な報連相>

複数の人が協力して、一人では成し得ないことを達成するためには、意思の疎通が必要です。

これを可能にするのが報告・連絡・相談です。

ですから、会社の中で報連相が適切に行われれば、その会社の中では社員一人ひとりの能力を遥かに超えた成果が得られます。

反対に、報連相が無かったり、いい加減な報連相だったりでは、多くの人が集まり会社として活動することが意味をなさなくなります。

これはすでに世間一般の常識ともいえることです。

それにも関わらず、会社の中には報連相の下手な従業員がいます。

上司は部下の報連相を待っているだけで良いのでしょうか。

 

<上司の指導>

上司は、報連相の下手な部下に対して、次のような指導をします。

・必要な情報の範囲は、情報の送り手が決めるものではなく、受け手が決めるものだから、相手のニーズを考えて報連相を行うこと。

・相手に伝わったことがすべてなのだから、自分が伝えたつもりになってもダメで、相手の都合を考えタイミングを見計らって報連相を行うこと。

・結論を先に言うこと。

・事実と意見を明確に分けること。

こうした指導を受けても、その部下がプライベートで家族や友人から「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」を連発されているような部下であれば、改善は容易ではありません。

社内で要求される報連相は、プライベートでのそれを、質的にも量的にも遥かに上回っているからです。

 

<報連相は双方向のコミュニケーション>

上司が部下に対して、報連相の重要性と適切な方法について精一杯の説明をして、部下が適切な報連相をしてくれるのを待ってみるということも行われます。

しかし、報連相は一人では成り立たないコミュニケーションの一つです。

報告・連絡・相談のすべてに相手がいます。

この相手を想定して積極的に行うというのは、報連相の下手な部下にとって、習慣になるまではむずかしいことなのです。

ですから、上司から部下に対して、次のようなOJTを行うことが不可欠なのです。

・〇〇は終わりましたか?終わっていたら報告してください。

・〇〇の件、先方には連絡してありますか?先方の反応はどうですか?

・まだ〇〇に着手できていないようですが、何か迷っていることがあれば相談してください。

こうした指導を繰り返されることによって、部下は言われる前に自分で考えて報連相を行う習慣が身に着きます。

「あいつは報連相ができないんだよなぁ」とボヤく上司もまた、ある意味コミュニケーションが苦手なのかもしれません。

これからの人材育成

2021/11/01|1,765文字

 

<人材育成は投資>

かつては新人教育に熱心だった企業が、即戦力を求めるあまり、人材育成を後回しにする風潮が見られます。

人材を労働力と捉え、教育をコストと考えてしまうと、人材育成は進みません。

しかし、人材育成をコストではなく、投資と捉え積極的に進めなければ、企業の明るい未来は描けません。

 

<事業内職業能力開発計画>

事業内職業能力開発計画は、企業の雇用する労働者の職業能力の開発と向上を、段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画です。

この計画の作成は、職業能力開発促進法第11条に基づき、事業主の努力義務となっています。

これを受けて、雇用関係助成金の中に人材開発支援助成金が設けられています。

事業内職業能力開発計画の作成は、人材開発支援助成金の一部のコースにおいて支給要件となっています。

そして厚生労働省は、この計画作成の意義について次のように述べています。

 

計画の作成は、従業員の職業能力開発について、仕事の種類やレベル別に、「何を身につけたらよいか」「そのためにはどのような学習・訓練を受ければよいか」を整理することができます。

これらを明らかにして示すことで、企業の経営者や管理者と従業員が能力開発について共通の認識を持ち、目標に向かってこれを進める「道しるべ」となり、効果的な職業能力開発を行うことが可能になります。

さらに、従業員の自発的な学習・訓練の取組意欲が高まることも期待されます。

 

<キャリア形成支援の必要性>

厚生労働省は「事業内職業能力開発計画作成の手引き」を作成し公表しています。

この中の「キャリア形成支援の必要性」の項目では次のように述べています。

 

従来の人材育成は新入社員研修から始まる階層別研修など日本的雇用慣行に基づいて会社が主体となり実施してきました。しかし、経営の核となる人材に対しての選抜研修や従業員一人ひとりが目標を設定し自己啓発に取り組むといった仕組みが広がりつつあります。

特に多様な働き方が一般化したことにより、個人の自律的な能力開発も広がっています。

キャリア形成とは、「自らの職業生活設計に即して必要な職業訓練・教育訓練を受ける機会が確保され、必要な実務経験を積み重ね、実践的な職業能力を形成すること」と定義しています。

短くまとめると「長い職業生活を充実させるため、よく学び、仕事の経験を重ね広く通用する職業能力を身につけること」としています。

また、このような状況の下で会社は従業員のキャリア形成をどのように支援していけばよいのでしょうか。

従来のような従業員全員に対して一律的な能力開発を行おうとしても限界があります。

このため個人が主体的に行おうとするキャリア形成を側面から支援することが求められています。

実際にキャリア形成といわれてもとまどう人が多いのではないでしょうか。

個人主導となっても、何をすればいいのかわからないという人もいます。また、情報が無いため何があるのかわからない、あるいは業務の多忙さから取り組めないということもあります。

このため、キャリア形成を実施するための情報提供や休暇取得、勤務時間の配慮が求められます。このようなことを実施することで求める人材の確保にもつながります。

厳しい経営環境を乗り切れる人は、創造的で高度な専門能力を発揮できる能力を身につけている人といえます。このような人は主体的に自身の能力開発に取り組めますが、その能力を発揮する場面は主に職場です。

よりよい人材を確保するためにも、キャリア形成を支援する必要性があります。

 

会社主導の能力開発は、終身雇用・年功序列を前提とした他律的・一律的なものでした。

しかし、この前提が崩れ、職業能力開発の主導が会社から個人へと移りました。

個人主導の能力開発は、IT人材のような新しいタイプの人材の確保・育成に対応した自律的・多面的なものです。

とはいえ、キャリア形成を自己責任としていたのでは、人材育成の目的が果たせませんから、会社が積極的にキャリア形成を支援する必要があるということです。

 

<解決社労士の視点から>

社会の激しい変化に対応すべく、改めて人材育成の強化に乗り出す企業が増えると思います。

過去の研修の復活を検討するのではなく、従業員のキャリア形成の支援の観点から計画を進めていただけたらと思います。

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