労働紛争の記事

2021/01/18|1,127文字

 

<労働問題解決の手順>

労働問題の解決は、1.事実の確認、2.問題の抽出、3.解決策の立案、4.解決策の実行 という4つのステップで行うのが基本です。

我々人間だけでなく、すべての生物は事実を頼りに判断しています。

ですから、最初に事実を確認すべきです。

これが不十分なまま、先に進むのは時間の無駄ですし、対応について悩んでしまうことになります。

次に、確認した事実の中から問題を抽出します。

ここでは、法令や判例などの法的知識と、人間関係に関する知識・経験がものをいいます。

知識・経験が不十分なまま問題を抽出しようとしても、やはり悩んでしまうことになります。

そして、解決策の立案では、a.目の前の問題を収束させる即効性のある解決策、b.長期的視点からの改善策、c.再発防止策 の3つを明確に分けて考える必要があります。

この3つのうちの1つでも欠けていると、問題が再燃し悩んでしまうことになります。

あとは、解決策を計画化して実行するだけです。

 

<1.事実の確認>

「おそらくこうだろう」という推測を排除して、客観的な事実の収集と、関係者からの聞き取りを行います。

関係者からの聞き取りでは、事実と感想・意見を明確に分け、あくまでも事実を中心に確認します。

社員に対して下手な聞き取り調査をしてしまうと、重要な証拠を消されてしまったり、人権侵害の問題が発生したりで、悩みの種が増えてしまいます。

慎重かつスピーディーに、効率良く行うことが求められます。

 

<2.問題の抽出>

確認した事実の中から問題を抽出するには、法的知識が必須ですから、人事部門が法務部門と連動して行うべきです。

これが難しいのであれば、労働問題の経験が豊富な弁護士や、特定社会保険労務士の力を借りるのが安全です。

こうした専門家は、法的な問題点を「争点」と呼んで数多く把握しています。

 

<3.解決策の立案>

解決策を考える場合、どうしても目の前の問題を収束させる方法だけに意識が集中してしまいます。

しかし、問題の発生には背景があるわけですから、その背景を改善しなければ、当事者だけの解決に終わってしまい、全社的な解決にはなりません。

同じ背景をベースとする別の問題が発生する危険、同じ問題が別の人に発生する危険を解消できないのです。

また、発生した問題について再発防止策を講じることも大事です。

抽出された問題の一つひとつについて、原因、原因の原因、そのまた原因を追究して、それを消滅させる必要があります。

 

<4.解決策の実行>

長期的視点からの改善策や再発防止策は、ついつい後回しになる傾向にあります。

これでは、いつまで経っても、労使トラブルが減少しません。

どの解決策も、計画を立て、スケジュール通りに実行しましょう。

 

解決社労士

2021/01/17|687文字

 

<会社に損害が発生するケース>

従業員が業務上、自動車の運転をしていて、人身事故や物損事故を起こした場合には、使用者責任(民法第715条)により、被害者に対して会社が賠償責任を負うこともあります。

その他、自動車の修理代や自動車保険料の増額分、営業上の損失も発生します。

 

<ルール設定の必要性>

こうした事態に備えて、従業員の会社に対する損害賠償のルールを設定しておかないと、その都度、損害賠償の範囲を検討したり、事故を起こした従業員への説明と交渉で多大な労力と時間が必要になります。

明確かつ客観的な規定を就業規則に置いておけば、万一の場合に役立つに違いありません。

 

<就業規則の規定>

ところが、厚生労働省のモデル就業規則を見ても、このような規定は見当たりません。

交通事故に限らず、従業員の会社に対する損害賠償の規定が無いのです。

実は、予め賠償額や損失の負担割合のルールを決めておくことは、労働基準法違反となり、ルールを定めるだけで最高刑懲役6月の罰則があります。〔労働基準法第16条、第119条第1号〕

こうした規定は、労働者を不当に拘束するものとして禁止されているのです。

さらに進んで、「賠償金の支払いが完了するまでは退職を認めない」などということになれば、強制労働の禁止に違反し、これには最高刑懲役10年の罰則があります。〔労働基準法第5条、第117条〕

どちらも、労働基準法違反の犯罪になってしまうわけです。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

あれば便利なルールでも、定めること自体が違法ということもあります。

就業規則の作成にあたっては、信頼できる社労士にご相談ください。

 

解決社労士

2021/01/16|1,615文字

 

<労働基準法の規定>

労働基準法によると、解雇する場合には30日前に予告しなければならないのが原則です。

30日前に予告する代わりに、12日分の解雇予告手当を支払うとともに18日前に予告するなど、足して30日になるという方法も取れます。

30日分の解雇予告手当を支払うとともに即日解雇も可能です。

この場合には、「後日支払う」という約束ではなく、現実に支払っておくことが必要です。

そして、試用期間中の労働者に対しては、最初の14日間に限り、解雇予告も解雇予告手当も不要です。

労働基準法には、こうした規定しかありません。

ですから、入社から14日間は解雇の条件が緩いという誤解が生じます。

 

(解雇の予告)

第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 

2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

 

3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

 

第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

一   日日雇い入れられる者

二   二箇月以内の期間を定めて使用される者

三   季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者

四   試の使用期間中の者

 

<試用期間についての判例>

試用期間については、最高裁判所が解約権留保付労働契約だと言ったために、何か特別な契約期間であるかのように思われがちです。〔昭和44年12月12日三菱樹脂事件判決〕

しかし、最高裁判所が試用期間について述べたのは、判決を下すのに必要があって述べたわけではなく、傍論として、ついでに語っただけです。

試用期間であれば、本採用後よりも解雇のハードルが低くなる趣旨のことを述べていますが、具体的に、どの項目についてどの程度低くなるのかは語っていません。

結局、試用期間も本採用後も労働契約の期間であることに変わりはなく、両者の違いを明確に説明することはできません。

それでも、試用期間であれば、本採用後とは違った扱いができるという勘違いは、多くの企業に存在しています。

 

<解雇の制限>

試用期間の最初の14日間でも、解雇権濫用であれば不当解雇とされます。

不当解雇なら、使用者が解雇したつもりになっていても、その解雇は無効です。

一方、労働者は解雇を通告されて、解雇されたつもりになっていますから出勤しません。

しかしこれは、解雇権を濫用した使用者が悪いのです。

何か月か経ってから、労働者が解雇の無効に気付けば、法的手段に訴えて会社に賃金や賞与を請求することもあります。

これを使用者側から見れば、知らない間に労働者に対する借金が増えていったということになります。

これは労働契約法に、次のように規定されています。

 

(解雇)

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

一部の企業に端を発した法令の拡大解釈や、最高裁判所の判決に対する誤解が、いつの間にか「常識」となってしまうこともあるのです。

さらに、昨日まで正しかった常識も、法改正や判例変更によって、不適法になることがあります。

正しいことは、信頼できる社労士にご確認ください。

 

解決社労士

2021/01/13|895文字

 

<設立直後の会社>

できたばかりの会社では、創業者だけ、あるいは創業者の他は家族だけということもあります。

この場合は、労働条件通知書も就業規則も作られないことが多いでしょう。

すべてはお互いの信頼関係に基づいた口約束で足ります。

創業者に対する尊敬や恩義の気持から、大きな問題は発生しないものです。

 

<事業の拡大>

やがて知り合いを採用し、近隣の人たちをパートやアルバイトとして採用します。

法律上は、労災保険や雇用保険の手続だけでなく、労働条件通知書などの作成交付も必要です。

ところが、家族による事業の運営の延長線上で、これらの手続が行われないことがあります。

もちろん、労働基準法違反の犯罪ですから、罰則の適用もありえます。

違法だと分かっていて手続をしないよりは、よく分からないから放置することの方が多いようです。

また、労働保険や労務管理の専門家は社会保険労務士なのに、何でもかんでも税理士の先生に確認して済ませていると、違法な状態が解消されません。

 

<創業者の離脱>

事業がこれからという時に、創業者が病に倒れ、配偶者やお子さんたちが後を継ぐという事態は、常に想定しておかなければなりません。

相手のあることであれば、分からないことは相手に聞けば良いのですが、それですべてが分かるわけではありません。

特に、従業員の給料のこと、とりわけ残業代については、労働条件通知書や就業規則、そしてきちんとした給与明細書が無ければ、分からずじまいになってしまうことも多いのです。

創業者に対する尊敬や恩義の気持から長く働いていた従業員も、会社から心が離れ、何年分もの残業代を請求してくるかもしれません。

また、退職金を要求するかもしれません。

こうした法的紛争になったときに頼れるのは、人ではなくて、書類を中心とする物的証拠なのです。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

労働関係法令を知らずに他人を雇うリスクは大きなものです。

会社が大きくなったら、事業が軌道に乗ったらではなくて、創業の時から信頼できる社労士にご相談ください。

従業員がいないうちに、労働条件や会社のルールを決めておいた方が楽なのは明らかなのですから。

 

解決社労士

2021/01/10|1,222文字

 

<具体的なトラブル>

円満退社のパート社員が、退職にあたって会社に退職金の支払を請求する、あるいは、退職後に請求するということがあります。

もちろん、パート社員にも退職金を支払うルールなら問題ないですが、会社が支払わないつもりだったならトラブルになります。

 

<就業規則が1種類しか無い場合>

社員が10人以上になったときに会社の就業規則が作成され、そのときは正社員しかいなかったのに、やがてパート社員も働くようになっていたとします。

この場合には、将来パート社員も入社してくることを想定して、就業規則が作成されているとは限りません。

つまり、正社員用の就業規則しか無い状態になりうるのです。

あるいは、就業規則のひな形をそのまま引用して「パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する」という規定を置きながら、別に定める規則を作っていなければ、パート社員にも正社員用の就業規則が適用されます。

こうして法的には、パート社員にも正社員と共通の唯一の就業規則が適用され、会社に退職金の支払義務が発生するのです。

 

<社員の定義が無い場合>

就業規則に「正社員に退職金を支給する。パート社員には退職金を支給しない」という明確な規定があったとします。

それでも退職するパート社員から「私は残業もしたし、休日出勤もしました。この会社は賞与が出ないけど、誰ももらっていないから我慢しました。でも、退職金が出ないなんておかしいです。私は正社員として働いてきました」と主張されたら、会社は就業規則に示された正社員の定義とパート社員の定義を説明して切り抜けなければなりません。

しかし、就業規則に「正社員とは…」「パート社員とは…」という定義が定められていなければ、説明のしようがありません。

「何となくわかるでしょ」というレベルなら、労働者に有利な解釈がとられるのが労働法の世界です。

結局、会社が退職金の請求を拒むことは困難です。

 

<労働条件通知書に「退職金無し」と書かれている場合>

労働条件通知書、雇用契約書、労働契約書などの名称で、個人ごとに労働条件が通知されています。

ここに「退職金無し」と書かれている場合でも、労働契約法に次の規定があります。

 

(就業規則違反の労働契約)

第十二条  就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

 

つまり、就業規則には「退職金あり」と書いてあって、労働条件通知書などに「退職金無し」と書かれていたら、労働者に有利な「退職金あり」が有効になるということです。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

退職金一つをとっても、法的に争われたら会社が負けてしまうことがあります。

就業規則にトラブルの火種を残さないよう万全を期すため、信頼できる社労士にご相談ください。

 

解決社労士

2021/01/08|1,839文字

 

<コミュニケーション不足>

コミュニケーションというのは、人と人との間で行われる知覚・感情・思考の伝達です。

労働問題の原因の大半は、コミュニケーション不足にあると考えられます。

コミュニケーションの良い職場では、労働問題が少ないといえます。

しかし、「コミュニケーションを心がけましょう」と言ってみたところで、それは掛け声に終わってしまいます。

 

<コミュニケーションコスト>

コミュニケーションコストとは、知覚・感情・思考の伝達に必要な、時間・労力・精神的負担のことです。

短時間で手軽に気軽に伝われば、コミュニケーションコストが低いことになりますし、長時間にわたり苦労しないと伝わらないのは、コミュニケーションコストが高い状態です。

 

<伝え手のコミュニケーションコスト>

伝え手のコミュニケーションコストは、受け手に伝えるのに必要な時間・労力・精神的負担です。

主に受け手側に、忙しそう、嫌そうに見える、伝えると怒りそう、反論しそう、理解力が低いなどの問題があると、伝え手のコミュニケーションコストが高くなります。

受け手が、いつも機嫌良く、話しかけると嬉しそうに笑顔になって、反論せずに最後まで聞いて、「ああなるほど」と言ってくれる相手であれば、伝え手のコミュニケーションコストは極めて低くなります。

こういう受け手の所には、情報が集まります。

 

<受け手のコミュニケーションコスト>

受け手のコミュニケーションコストは、伝え手から知覚・感情・思考を受け取るのに必要な時間・労力・精神的負担です。

主に伝え手側に、遠慮している、自信が無い、感情的になっている、言語能力が不足している、論理的でない、話が脱線するなどの問題があると、受け手のコミュニケーションコストが高くなります。

伝え手が、自信を持って堂々と冷静に、分かりやすく論理的に手短に話してくれる人なら、受け手のコミュニケーションコストは極めて低くなります。

こういう伝え手には、協力者が集まります。

 

<職場のコミュニケーションコスト>

職場のコミュニケーションコストは、情報の共有と価値観の統一が進んでいて、メンバーが高い言語能力と理解力を備えていれば、全体に低くなります。

言語能力と理解力は、個人の資質と努力にかかっていますので、職場のコミュニケーションコストを下げるには、情報の共有と価値観の統一を図るのが合理的です。

価値観の統一を図るには話し合いが必要ですから、コミュニケーションコストが低い職場ほど、価値観の統一が進むことになります。

反対に、相手の立場に立って考えることが苦手なメンバーが多いと、価値観の統一を図るのは困難です。

 

<報連相の問題>

ある職場で、報連相不足が認識されたとします。

「報連相を心がけましょう」と言ってみたところで、それは掛け声に終わってしまいます。

もちろん、報連相をする部下の意識が低いだけであれば、こうした掛け声だけで改善されることもあるでしょう。

しかし、多くの場合には、部下のコミュニケーションコストが高くて、報連相がしにくいという実態があります。

つまり上司が、部下の前ではいつも忙しそうで機嫌が悪く、何か伝えても途中で反論しながら怒るというのでは、安心して報告も、連絡も、相談もできる筈がありません。

報連相不足が問題視される職場では、管理職が態度を改めることによって、改善が進みやすくなります。

 

<テレワークの問題>

テレワークでは一般に、コミュニケーションコストが高くなります。

リモート会議のツールを使っても、話し相手の反応にはラグ(遅延)が付き物ですから、コミュニケーションコストが高くなって当然です。

ましてやメールの場合には、相手の様子が分からないまま、文字だけで知覚・感情・思考を伝達するのですから、どうしてもコミュニケーションコストが高くなってしまいます。

当然のマナーともいえますが、メールを打ち終わっても、すぐに送信するのではなく、次のチェックを行いながら何度も推敲すべきです。

 

【メール送信前のチェック】

・可能な限り相手の立場に立って、分かりにくい点は無いか、誤解を招く点は無いか。

・論理矛盾は無いか。

・用件と無関係なことを書いていないか。

・相手がメールを読んで起こすべきアクションは明確か。

・誤字、脱字、誤変換、「てにをは」の誤りは無いか。

 

こうすることによって、コミュニケーションコストを低くすることができます。

もし、感情的になっていたら、一度冷静になってから上記のチェックを行うようお勧めします。

 

解決社労士

2021/01/05|1,450文字

 

<労働条件>

労働条件は、原則として労働契約の内容です。

ただし、法令、労働協約、就業規則よりも不利な点は、これらによって修正されます。

法令には、労働基準法、最低賃金法、賃金支払確保法、男女雇用機会均等法などが含まれます。

労働協約は、労働組合法に従って締結された、労働組合と使用者(またはその団体)との取り決めをいいます。

 

<労働契約の原則>

労働契約法第3条は、労働契約の原則を次のように定めています。

 

【労働契約の原則】

1 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。

2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。

4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。

 

労働基準法は、使用者に多くの義務を課し違反に対して罰則を設けている一方で、労働者に対する罰則はありません。

これに対して、労働契約法は、労働者と使用者の両方に義務を課しているものの、罰則は設けられていません。

違反があった場合には、損害賠償等により民事的に解決されます。

 

<労働条件の決定と明示>

結局、労働条件は、労働契約の内容として労使の合意により決定されるのですが、法令、労働協約、就業規則よりも不利な点は、これらによって修正されます。

労働契約は、口約束でも成立します。〔民法第623条〕

しかし、労働者にとっては生活がかかっていますし、使用者にとっては賃金その他の経費を含め合計数億円に達する大取引ですから、トラブル回避のためにも、使用者が労働者を採用するときは、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければなりません。〔労働基準法第15条第1項〕

明示された労働条件が事実と相違する場合には、労働者は、即時に労働契約を解除することができます。〔労働基準法第15条第2項〕

労働条件通知書や労働契約書で、「残業なし」と明示されているのに残業を命じられたら、すぐに退職を申し出ることができるわけです。

 

<労働条件の変更>

労使の合意により、労働契約を変更することによって、労働条件を変更できます。〔労働契約法第3条第1項〕

変更についても、法令、労働協約、就業規則より不利な点は、これらによって修正されます。

労働基準法は、労働者を採用するときだけ、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示するよう求めていますが、労働条件を変更する場合にも、トラブル回避のためこれを行っておくべきです。

労働条件の変更のうち、労働者にとって不利益な変更を特に「不利益変更」と呼んでいます。

不利益変更の場合には、労働者の同意の有無が争点となりやすいものです。

しかも、この同意は労働者の「自由な意思による同意」であることが必要です。

使用者は、労働者の真意に基づく同意があったことを証明できるよう、「同意書」のような書面を証拠として残しておくべきです。

この書面には、労働条件の変更内容と同意した旨の他、具体的な変更理由を表示しておくことによって、労働者から「勘違いしていた」「だまされた」などの主張が出されても、納得のうえ同意したことを説明できるようにしておくべきでしょう。

 

解決社労士

2020/10/07|1,385文字

 

<退職者からの文書>

退職者から会社に宛てて、様々な主張、要求、金銭的請求などが書かれた文書が郵送されてくることがあります。

代理人弁護士名義で届いた文書であれば、退職者が弁護士に相談し、弁護士が退職者の委任を受けて発信していますから、事実関係の認定は不確かなものの、退職者の主張する事実を前提とした法的主張の部分は正当なはずです。

しかし、退職者が自分自身の想いで作成し、会社に対して主張をぶつけてきた文書は、かなり主観に傾いたものであることが多く、その趣旨が不明確なことも多いものです。

大企業では、こうした文書の内容に対して寛大な態度がとられることもあり、言った者勝ちの不公平が発生する恐れがあります。

一方で、中小企業の経営者は立腹し、その内容を全否定しようとする危険があります。

 

<退職者の心境>

毎日のように出勤し、余計なことを考えずに生活していたところ、退職して自分の時間を持て余すようになった退職者は、あれこれと余計なことを考える傾向にあります。

思いを巡らせるうちに、ネットサーフィンで得た不確かな情報を拡大解釈、類推解釈して、会社に物申したくなることもあります。

転職先の決まっている退職者や、事業を立ち上げる準備を開始した退職者は、毎日が忙しく充実していますから、余計なことを考え、ネットでつまらない情報を探索する時間はありません。

会社に文書を送りつけてくる退職者は、次の仕事が決まっていない場合が多いのです。

すぐに転職先が決まるつもりでいたところ、なかなか決まらないとなれば、精神的にも経済的にも追い詰められてきますから、会社に金銭的請求をしようと考えても不思議ではありません。

 

<会社に対する主張>

在職中に、大変な目に遭っていたという主張は多く見られます。

セクハラやパワハラのような嫌がらせがあったという、不平・不満・恨みが支離滅裂に書き連ねられているのです。

その中に、一部感謝の気持が述べられていることもあります。

感情を爆発させたいという欲求を満たしているかのような文書となります。

文書に対する回答は、文書で行うのが社会のルールです。

しかし、ただ単に感情をぶちまけているだけの文書であれば、これに文書で回答するのは、冷たくあしらっているように受け取られます。

人事部門の担当者などが直接面会して親身になって話を聞くのが良いでしょう。

そして、職場環境の改善に努めたいという話をすれば、納得して帰ることが多いものです。

 

<会社に対する要求>

具体的な根拠となる事実関係の主張がなく、ただ単に金銭を要求している内容であれば、「事実関係と計算根拠を示して請求してください」という内容の文書で回答すれば良いでしょう。これに対して、それなりの根拠を示したうえで、会社に対する謝罪の要求や、未払い賃金の請求、慰謝料などの賠償請求を含む内容であれば、文書の中に記された事実関係を確認する必要があります。

会社から回答する文書の内容としては、会社が認定した事実関係と会社の見解の2点に限られます。

回答するまでの期間が長くなってしまうと、退職者が労働基準監督署などに相談して、余計な労力と時間を費やす結果を招くことになりかねませんので、事実関係の確認は、なるべくスピーディーに行いましょう。

退職者の主張する事実関係が信じられないからといって、放置することだけは避けなければなりません。

 

解決社労士

2020/08/12|755文字

 

<報連相は大事だが>

会社の物品が壊れた時に、すぐに報告せず遅れて報告したら、責任を問われ半額弁償するよう迫られたという相談がありました。

かなりメチャクチャな話であることは明らかです。

理論的に反論するなら、報告が遅れたことと会社の物品が壊れたこととの間に因果関係が無いので、物品の修理費用や新品の購入代金を基準に責任を負わされるのは不合理だということになります。

報告が遅れたから物品が壊れたわけではないのに、壊れたことに対して責任を負うのはおかしいのです。

 

<営業上の損害が発生する場合>

パン屋さんやピザ屋さんで、閉店間際にパンを焼くオーブンやピザを焼く窯(かま)が壊れたとします。

このときすぐ会社に報告して、修理の手配や代品の手配ができるようにしなかったため、翌日、臨時休業になったとします。

会社の損害は、その店舗の1日分の売上に基づく利益ということになります。

もし、会社に損害を加えようとして、わざと報告しなかったのであれば、不法行為としてこの損害を基準とする賠償を求められることもありえます。〔民法第709条〕

しかし、この場合でも、修理費用が賠償額の基準になるわけではありません。

また、その場にいる従業員だけで、何とか修理しようとして翌朝まで頑張ってしまい、会社に報告することなど思いもよらなかったというケースなら、故意はありません。

過失にしてはひどすぎますが、会社側の教育不足も原因だと考えられます。

就業規則の懲戒規定に従い、合理的な範囲内で懲戒処分を受けることになるでしょう。

 

<社労士(社会保険労務士)の立場から>

こんなとき報告を受ける側としては、ついカッとなってしまいます。

クビにしようか、全額弁償させようかと、極端な思考に走りがちです。

一呼吸おいて信頼できる社労士にご相談いただけたらと思います。

 

解決社労士

2020/06/10|1,116文字

 

<労働条件通知書の交付義務>

労働条件のうちの基本的な事項は、労働者に対して書面で通知するのが基本です。

この書面が、労働条件通知書です。

 

【労働基準法第15条第1項:労働条件の明示】

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

 

これが労働基準法の定めです。

そして、1件につき30万円以下の罰金という罰則もあります。〔労働基準法第120条第1号〕

最近の傾向として、非正規労働者に対しては、きちんとした労働条件通知書を交付しているものの、正社員に交付する労働条件通知書に必要な項目が漏れているケースが散見されます。

是非、再確認していただくことをお勧めします。

 

<労働条件通知書の保管義務>

労働条件通知書は3年間の保管義務があります。

「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない」〔労働基準法第109条〕

そして、こちらにも1件につき30万円以下の罰金という罰則があります。〔労働基準法第120条第1号〕

 

<労働条件変更時の労働条件通知書>

時給が上がった、契約期間が更新されたなどの場合、就業規則や賃金規定に具体的な規定があって、その規定を見ればだいたいのことが分かるという状態であれば、労働者の包括的な合意があるともいえます。

こうしたことから、前掲の労働基準法第15条第1項の「労働契約の締結に際し」というのは、一般には、新たに雇い入れる場合のことを指していると解釈されます。

ですから、就業規則などの範囲内での労働条件変更であれば、新たに労働条件通知書を交付する法的義務は無いということになります。

それでも、多くの会社で、有期雇用の労働者に契約更新の都度、労働条件通知書を交付するのは、常に現状の労働条件を明示してトラブルを防止するためです。

正社員についても、昇給や人事異動があった場合には、トラブルを防止するため、労働条件通知書を交付することをお勧めします。

 

<労働法上の義務を超えて>

労働基準法だけでなく、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、パートタイム労働法から改正されたパートタイム・有期雇用労働法などなど、経営者に課せられた法的義務は把握するだけでも大変な状況です。

しかし、形式的な義務だけ果たしていても、労働トラブルを防止することはできません。

法的義務を超え、トラブル発生の予防を図ることで、経営者自身を護ることにつなげましょう。

 

解決社労士

2020/04/20|1,689文字

 

<使用者責任の求償>

従業員が、勤務中に第三者に損害を与えることがあります。

たとえば、従業員が勤務中に会社の車を運転していて交通事故を起こし、第三者に怪我をさせたような場合です。

この場合に、事故を起こし怪我をさせた従業員は、第三者に対して損害賠償責任を負います。不法行為責任です。〔民法第709条〕

それだけでなく、会社も、相当の注意をしていたなど一定の条件を満たした場合を除き、使用者責任を負うことになります。〔民法第715条第1項〕

会社が使用者責任に基づき、損害賠償を行った場合には、従業員に対してその責任の程度に応じて賠償額の一部を負担させることができます。

求償権の行使です。〔民法第715条第3項〕

これらのことについて、民法は次のように規定しています。

 

【使用者等の責任】

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

会社の従業員に対する求償権は、相当程度制限されるのが一般的です。

なぜなら、求償権の行使は、従業員の責任の程度に応じたものでなければならないからです。

 

<使用者責任の逆求償>

会社よりも先に、従業員が第三者に損害賠償を行った場合に、従業員が自分の責任の程度を超えて賠償金を支払った場合には、会社の本来の負担分を請求できるのではないかが問題となります。

いわゆる「逆求償」の問題です。

これまで、これに関する最高裁の判例は無かったのですが、最高裁第二小法廷令和2年2月28日判決がこれを認めました。

 

<最高裁の判決>

最高裁は、次のように判断しました。

 

民法第715条第1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである。このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができると解すべきところ、上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるものと解すべきである。

 

<判決の意味するところ>

民法の不法行為制度は、社会の中で必然的に発生する損害について、その損失を当事者間で公平に分担するための制度です。

民法には、会社から従業員に対する求償のみが規定されていて、従業員から会社への求償(逆求償)は規定されていません。

しかし、不法行為制度の趣旨からすると、逆求償が認められて当然だという判断が示されました。

つまり、会社と従業員のどちらが先に賠償金を支払っても、自分の責任を超える額については、他方に求償できるという、常識的な判断を示したことになります。

 

解決社労士

2020/04/07|531文字

 

<賠償予定の禁止>

会社の就業規則で、研修の費用を労働者の負担とし、一定期間勤続せずに退職した場合には、返還するものと定めていることがあります。

しかし労働契約を結ぶ際に、契約違反があったときの賠償額を決めておくことは、人身拘束につながるとして禁止されています。〔労働基準法第16条〕

通常の業務のために行われる教育訓練や、通常の新人研修や社内研修として実施される教育訓練について、退職時の費用返還を定めておくことは、この規定に違反する可能性があります。

 

<返還請求が認められる場合>

ところが裁判の中には、返還請求が認められた例もあります。

たとえば通常の業務と直接の関係がない研修であって、もともと本人が支出すべき内容の研修費用を、会社が一時的に立て替えたに過ぎない場合です。

希望者を募って海外の大学院へ留学させた例で、費用を会社が貸し付けた形をとり、一定の年数の勤続によって返済を免除するという事例で、退職者への返還請求を認めた裁判例があります。

実際に返還請求が認められるためには、返済金額や返済方法などから客観的に見て退職の自由を奪うものではないこと、返還について事前に十分な説明が尽くされていて合意があったことなど、厳格な条件を満たしていることが必要になります。

 

解決社労士

2020/02/17|1,348文字

 

<コミュニケーション>

従業員の間で情報交換が盛んであれば、起きない労働問題もあります。

ある従業員が「何かおかしい」と思ってネットで調べたことを、自分に都合よく解釈し、不満が大きくなったところで、会社にぶつけるというパターンの労働紛争があります。

会社としては、ほとんど言いがかりに感じますが、完全に適法ではない部分もあり、対応に困ってしまいます。

この従業員が「何かおかしい」と思ったとき、ネットで調べるのではなくて、社長、上司、先輩に確認したら、みんなで考えることになります。

一人の従業員と会社が対立する形にはならず、みんなで解決する形になります。

 

<信頼関係>

従業員間の信頼関係があれば、起きない労働問題もあります。

上司から叱られた部下が、「これは嫌がらせだ。イジメだ。パワハラだ」と思い、労働問題になることがあります。

しかし、「あの上司は親身になって叱ってくれてありがたい。よし、頑張ろう!」と思えば、客観的にはパワハラの疑いがあっても、労働問題にはなりません。

むしろ、感謝の気持ちとモチベーションが増大する結果になります。

 

<やりがい>

従業員が自分の仕事にやりがいを感じていれば、起きない労働問題もあります。

「毎日残業続きで、しかも残業代の一部がカットされているような気がする。言われたからやっているけれど、やる意味が解らない。これじゃうつ病になりそうだ」こう考える従業員は、メンタルヘルス不調になりがちです。当然、会社の責任問題にもなります。

ところが、仕事にやりがいを感じていれば、「毎日自分の納得がいくまで残業させてもらえる。会社の光熱費負担だけでも大変だろう。何とか貢献度を上げて成果を出さねば」こう考える従業員は、精神的に充実していますから、多少労働時間が長くても調子が落ちないものです。

この「やりがい」は、コミュニケーションと信頼関係に大きく依存します。自分の仕事が、どこで誰の役に立っているのか、失敗すると誰に迷惑がかかるのかが明確だからです。

 

<就業規則の充実>

上記3つが足りない会社では、就業規則の充実が急務です。会社にピッタリの就業規則は、会社にとって大きな武器になります。

ところが、会社にとって余計なことが書かれている就業規則、会社にとって必要なことが書かれていない就業規則、規定の意味が何とでも受け取れる就業規則、そして法改正に追いついていない就業規則では、会社の武器になるどころかブラック社員の武器になります。特に退職前後のブラック社員にとっては、大変強力な武器となってしまいます。

就業規則の作成や改定を、専門家に依頼して時間とお金をかけるのは当然です。

 

<相談窓口>

どうしても労働問題を防止できない環境にある会社では、問題が小さいうちに発見して対応することが最大の課題となります。

パワハラ、セクハラ、マタハラについての相談窓口設置は必須です。

病気と同じで早期発見と早期治療は大変有効です。

 

就業規則の作成や変更だけでなく、相談窓口となったり、社内のコミュニケーション、信頼関係、やりがいの改善をすることは、すべて社労士(社会保険労務士)の業務です。

社内で対応し切れない、あるいは、早く対応したいということであれば、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

 

解決社労士

2019/12/17|943文字

 

<ノーワーク・ノーペイの原則>

たとえば勤務時間中に、スマホを片手にモンスター探しの旅に出ていたら、その時間の賃金はもらえなくて当然です。

働いていなければ賃金は発生しないというノーワーク・ノーペイの原則は、労働契約の性質から当然に導かれます。

つまり、使用者の「働いてください。賃金を支払います」と労働者の「働きます。賃金をください」という意思表示が合致して労働契約が成立したのですから、働かなければ賃金が発生しないのは当然なのです。〔労働契約法第6条〕

ただし、欠勤控除をするかしないか、どのように計算するかは、就業規則に定めておくべき事項です。

定めておかないと、実際に勤務時間帯に働かなかった場合に、賃金から差し引かれる金額をめぐってトラブルが発生します。

仕事をサボって、後から遡って欠勤控除を受けたというのであれば、労働契約の債務不履行による損害賠償請求〔民法第415条〕というより、不当利得の返還〔民法第704条〕ということになるでしょう。

 

<拡大損害の場合>

しかし仕事をサボったために、重要なお取引先への納期が守れず、取引を解消されてしまったので、会社の売り上げが安定して2割減少したとか、機械の点検会社の社員が点検を何回かサボったために、機械の故障による死亡事故が発生したという場合には、賃金を削られるだけでは済むはずがありません。

これらは、労働契約上の義務を果たすにあたって発生した拡大損害です。

たとえば、運送屋さんがソファーを個人の家に届ける際、玄関に飾ってあった時価1億円の花瓶を落として割ってしまったという場合、「すみません。配送料をタダにします」と言われても、「はいそうですか」とは言えません。

(これは、大学の法学部の講義でよく出てくる例です。個人的には、「花瓶をしまっておきましょうよ」と思う次第です。)

これも、契約関係から拡大して発生する損害なので、債務不履行による損害賠償のケースだとされます。

もし、こうした拡大損害を発生させてしまったのなら、サボりと損害との因果関係(原因と結果の関係)が認められる範囲内で、損害賠償を請求されることは十分にありえます。

 

いずれの場合でもなく、納得がいかない場合には、信頼できる特定社労士(特定社会保険労務士)にご相談ください。

 

解決社労士

<常識的な解決>

たとえば、会社で20年以上使われてきた電卓を、たまたま自分が使っていたら壊れたとします。

こんなとき、乱暴に扱ったわけでもないのに「あなたが使っていて壊れたのだから自分のお金で新しいのを買ってきなさい」と言われたら、決して納得できません。

法律上も、こうした常識に反する解決にはなりません。

 

<労働者の会社に対する損害賠償責任>

労働者が故意や過失によって、会社に損害を与えた場合には、損害賠償責任が発生します。〔民法第709条〕

物を壊すなど財産上の損害だけでなく、名誉や信用といった形の無いものに対する損害や、お客様に損害を与えたために会社が弁償した場合も含まれます。

特に、労働者が故意に基づいて会社に損害を与えたのであれば、その責任は重く、会社から損害額の全額を労働者に請求できる場合もあります。

もっとも、この場合であっても、中古品を破損した場合に新品の代金を請求するようなことはできません。

ましてや、故意によらず損害が発生した場合には、リスクをすべて労働者に負わせるのは不公平です。

会社は労働者の働きによって利益をあげていて、その利益のすべてを労働者に分配し尽くしているわけではありません。

損害についてだけ、労働者がすべて負担するというのは、あまりにも不公平です。

また、会社には危機管理の義務もありますから、これを怠っておいて、労働者に損害を押し付けるのもおかしいのです。

そこで裁判になれば、多くのケースで損害の全額を労働者に負担させることはできないとされています。

具体的には、労働者本人の責任の程度、違法性の程度、会社が教育訓練や保険で損害を防止しているかなどの事情を考慮して、労働者が負担すべき賠償額が判断されます。

 

<損害額の給与天引き>

労働者が、会社に損害賠償責任を負う場合であっても、会社が一方的に損害額の分を差し引いて給与を支給することは禁止されています。〔労働基準法第24条第1項〕

したがって、会社は給与を全額支払い、そのうえで労働者に損害賠償を請求する必要があります。

また、労働契約を結ぶ際に「備品の破損は1回5,000円を労働者が弁償する」など、労働者が会社に与えた損害について、あらかじめ賠償額を決めておくこともできません。〔労働基準法第16条〕

これは物品の破損などに限られず、「遅刻1回につき罰金3,000円」などのルールを設けることも違法です。

 

2019.08.23. 解決社労士 柳田 恵一

<労働時間・休憩時間の定義>

労働基準法には、休憩について次の規定があります。

 

【休憩】

第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

 

労働基準法の中に「労働時間」「休憩時間」の定義はありません。

このため、会社が独自の解釈で労務管理や賃金計算を行っている場合があります。

たとえば、業務で着用が決められている制服に着替える時間を労働時間から除いていたり、お弁当を食べながらの電話番を休憩時間として扱っていたりという違法な運用も見られます。

その結果、労働基準監督署の調査(臨検監督)が入れば、その違法性を指摘され、すぐに是正するよう求められます。

 

<通達の役割>

労働基準監督署が企業を指導するにあたって、「労働時間」「休憩時間」の定義があやふやであれば、企業側が納得できません。

そのため、法令解釈の基準として次のような通達が示されています。

 

労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。〔平29.1.20 基発第3号〕 

 

休憩時間とは、単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取扱う。〔昭22.09.13発基第17号〕

 

これらの通達は公表されていますから、ネットで調べるなり、所轄の労働基準監督署に問い合わせるなりすれば、比較的容易に内容を知ることができます。

 

<判例の役割>

上の通達によっても、従業員が社外で市場調査の業務を行い、そのまま帰宅した場合には、どこまでが「使用者の指揮命令下にある時間」といえるのかが不明確です。

また、昼休みであっても、業務上の必要に応じて電話で呼び出せる状態では、「労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間」とはいえないのかという疑問も生じます。

このため、会社が休憩時間として扱った時間を、従業員や退職者が労働時間であると判断し、会社を相手に未払い賃金の請求訴訟を提起するということが起こります。

会社は、訴訟代理人の弁護士を選任するでしょう。そして、依頼された弁護士は、事実関係、使える証拠、条文、通達、過去の裁判例などを確認します。

過去の判決などは、最高裁判所のホームページで参照することができます。

しかし、今回の事例にどの判例があてはまるのか、この判例の射程はどうなのか、会社が準備できる証拠によって主張できるのはどこまでかなど、難しい判断を迫られます。

 

<企業としての対応>

欲を言えば、社内に専門部署を置いて、法改正、新たな通達、新判例の情報を随時吸収し、社内の問題点を改善していきたいものです。

新たな判例が、いままでの判例や通達を覆すということもありますから、判例の研究には重点を置かなければなりません。

しかし、こうした体制が取れない場合には、労働問題に詳しい社会保険労務士を顧問に置いて、トラブルの発生を未然に防止する。万一トラブルが発生したら、労働事件に対応できる弁護士と連携させるというのが現実的でしょう。

社会保険労務士の中には、手続きを専門として活動している先生もいます。弁護士の中には、労働事件を扱わない先生もいます。その先生の専門をよく確認したうえで選ぶと良いでしょう。

 

2019.06.05. 解決社労士 柳田 恵一

<個別労働紛争と解決>

個別労働紛争というのは、労働関係に関する事項についての、個々の労働者と事業主との間の紛争のことです。

これを解決する最終手段としては、裁判制度があります。しかし、これには多くの時間と費用がかかってしまいます。また、感情的なしこりが残るものです。

そこで、職場慣行を踏まえた円満な解決を図るため、都道府県労働局では、無料で個別労働紛争の解決援助サービスを提供しています。

さらに、個別労働紛争の未然防止、迅速な解決を促進することを目的として、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行され、次の制度が用意されています。

・総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談

・都道府県労働局長による助言・指導

・紛争調整委員会による斡旋(あっせん)

 

<紛争調整委員会による斡旋の特徴>

上記の制度のうち、紛争調整委員会による斡旋には、次のような特長があります。

・長い時間と多くの費用を要する裁判に比べ手続きが迅速かつ簡便

・弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家が担当

・斡旋を受けるのは無料

・紛争当事者間で斡旋案に合意した場合は民法上の和解契約の効力

・非公開で紛争当事者のプライバシーは保護

・労働者の斡旋申請を理由に事業主が不利益取扱いをすることは禁止

 

<斡旋の対象となる紛争>

労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争が対象となります。

・解雇、雇止め、配置転換・出向、昇進・昇格、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争

・いじめや嫌がらせなどの職場環境に関する紛争

・会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止などの労働契約に関する紛争

・その他、退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争 など

 

<斡旋の対象とならない紛争>

・労働組合と事業主の間の紛争や労働者と労働者の間の紛争

・募集・採用に関する紛争

・裁判中または判決が出ているなど他の制度において取り扱われている紛争

・労働組合と事業主との間で問題として取り上げられており、両者の間で自主的な解決を図るべく話し合いが進められている紛争 など

 

2019.05.09. 解決社労士 柳田 恵一

<今年は台風の当たり年>

今年の6月から8月にかけて、例年よりも台風の発生が多くなっています。

赤道の北側に「熱帯収束帯」というのがあります。

ここに赤道の北と南から風が集まり、行き場のなくなった風が上空に上昇気流として上がっていくと、海水温が高く水蒸気が多いので、多量の積乱雲が発生します。

こうして台風の卵ができます。

今年は、熱帯収束帯の海水温が例年より1℃高いので台風が多いようです。

 

<原因の原因>

では、なぜ熱帯収束帯の海水温が高いのかというと、二酸化炭素の増加による地球全体の温暖化、太陽活動の変化、森林の縮小などが原因ではないかとされています。

しかし、自然現象ですから確実なことは解かりません。

ましてやその先の、なぜ二酸化炭素が増えるのか、太陽活動がどのように変化するのか、森林はなぜ縮小するのかを解明しようとしても、さらに困難になります。

 

<労働問題の原因>

たとえば、残業が減らないのも、年次有給休暇の取得率が低いのも、男性が育児休業を取らないのも、「仕事が忙しいから」で終わらせてしまうと改善策が出てきません。

同様に、パワハラやセクハラは「それを行う人の常識が無い」、求人への応募者が少なくて退職者が多いのは「会社に魅力が無い」、新人が入社して数年で意欲を失うのは「仕事にやりがいが無い」というだけの原因解明では、対応の糸口すら見えてきません。

 

<突っ込んだ原因解明>

たとえば、パワハラの原因が「それを行う人の常識が無い」ことにあるとすれば、そのまた原因は会社の教育不足が考えられます。

・経営者がパワハラを許さないことについて明確な意思を表明していない

・就業規則に具体的で明確なパワハラの定義がない

・定義があっても、就業規則について定期的な研修が繰り返されていない

またたとえば、非常識でパワハラを行う社員がいるのではなく、パワハラが放置されていることが原因で横行しているのであれば、その原因は次のことが考えられます。

・パワハラの相談窓口がない

・パワハラ被害者から申し出があっても会社が対応していない

・就業規則に具体的で明確な懲戒処分の規定がない

・規定があっても、就業規則について定期的な研修が繰り返されていない

自分の会社が、どうしてこのような状態なのか、その原因まで解明できれば、やるべきことは全て見えてくるでしょう。

 

自社内での分析と対応がむずかしければ、会社の改善に取り組んでいる社会保険労務士にご用命ください。

 

2018.08.24.解決社労士

<労働争議統計調査>

平成30(2018)82日、厚生労働省が平成29(2017)年「労働争議統計調査」の結果を取りまとめ公表しました。

この調査は、国内の労働争議について、行為形態や参加人員、要求事項などを調査し、その実態を明らかにすることを目的としています。

 

【調査結果のポイント】(カッコ内は前年の数値)

 

1 総争議

平成29年の件数は358件(391件)で8年連続の減少となり、比較可能な昭和32年以降で最も少なかった。

 

2 争議行為を伴う争議

(1) 全体では前年と比べて件数、総参加人員及び行為参加人員が増加した。

件数68件(66件)

総参加人員 72,637人(52,415人)

行為参加人員 17,612人(15,833人)

(2) 半日以上の同盟罷業でも前年と比べて件数、行為参加人員及び労働損失日数が増加した。

件数38件(31件)

行為参加人員7,953人(2,383人)

労働損失日数14,741日(3,190日)

(3)半日未満の同盟罷業では、前年に比べて件数及び行為参加人員が減少した。

件数46件(47件)

行為参加人員9,917人(13,698人)

 

3 労働争議の主要要求事項

争議の際の主な要求事項(複数回答。主要要求事項を2つまで集計)は、「賃金」に関するもの181件(167件)が最も多く、次いで「経営・雇用・人事」に関するもの122件(160件)、「組合保障及び労働協約」に関するもの117件(99件)であった。

 

4 労働争議の解決状況

平成29年中に解決した労働争議(解決扱いを含む)は298件(328件)で、総争議件数の83.2%であった。そのうち「労使直接交渉による解決」は42件(46件)、「第三者関与による解決」は101件(115件)であった。

ここで「解決扱い」というのは、不当労働行為事件として労働委員会に救済申立てがなされた労働争議、労働争議の当事者である労使間では解決の方法がないような労働争議(支援スト、政治スト等)及び解決の事情が明らかでない労働争議等をいいます。

 

2018.08.09.解決社労士

<厚生労働省の公表>

平成30(2018)627日、厚生労働省が「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表しました。

総合労働相談は10年連続で100万件を超えています。

内容は「いじめ・嫌がらせ」が6年連続でトップになっています。

 

<個別労働紛争解決制度>

個別労働紛争解決制度は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブル(個別労働紛争)を未然に防止し、早期に解決を図るための制度で、「総合労働相談」、労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があります。

厚生労働省では、今回の施行状況を受けて、総合労働相談コーナーに寄せられる労働相談への適切な対応に努めるとともに、助言・指導及びあっせんの運用を的確に行うなど、引き続き、個別労働紛争の未然防止と迅速な解決に向けて取り組んでいくとしています。

 

<総合労働相談>

都道府県労働局、各労働基準監督署内、駅近隣の建物など380か所(平成3041日現在)に、あらゆる労働問題に関する相談にワンストップで対応するための総合労働相談コーナーを設置し、専門の相談員が対応しています。

 

<助言・指導>

民事上の個別労働紛争について、都道府県労働局長が、紛争当事者に対して解決の方向を示すことにより、紛争当事者の自主的な解決を促進する制度です。

助言は、当事者の話し合いを促進するよう口頭または文書で行うものであり、指導は、当事者のいずれかに問題がある場合に問題点を指摘し、解決の方向性を文書で示すものです。

 

<あっせん(斡旋)>

都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会のあっせん委員(弁護士や大学教授など労働問題の専門家)が紛争当事者の間に入って話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る制度です。

社会保険労務士の中でも、「特定」の付記を受けた特定社会保険労務士は、あっせん当事者(使用者側・労働者側)の代理人となることができます。

 

<平成29年度の概要>

総合労働相談、あっせん申請の件数はいずれも前年度と比べ減少、助言・指導の申出件数は増加。総合労働相談件数は1104758件で、10年連続で100万件超え。

総合労働相談件数 1104,758(前年度比2.3%減)

 うち民事上の個別労働紛争相談件数 253,005(前年度比1.0%減)

助言・指導申出件数 9,185(前年度比2.3%増)

あっせん申請件数 5,021(前年度比2.0%減)

 

民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が引き続き最多。

民事上の個別労働紛争の相談件数では、72,067件(前年度比1.6%増)で6年連続最多。

助言・指導の申出では、2,249件(前年度比1.9%増)で5年連続最多。

あっせんの申請では、1,529件(前年度比6.9%減)で4年連続最多。

 

2018.06.30.解決社労士

<同じ失言でも>

大臣が失言で罷免されたというニュースは、たびたび報道されています。場合によっては、大臣をクビになるだけでなく、国会議員としても辞職に追い込まれるケースがあります。

しかし、民間企業での社員の失言はほとんど報道されず、じわじわとその影響が現れてくることが多いものです。

 

<たとえばの失言>

上司が部下に対して、「○○くんって彼女はいるのかな?」という失言をしたとします。

これが失言だとピンとくる人は、正しい知識を持っていて実践できているので、問題となる失言はしないでしょう。

 

職場の優位者が劣位者に対して、仕事上接する際に、必要以上に人権を侵害しうる行為をパワハラといいます。

上司が部下を「○○くん」と呼ぶ必要はありません。このように呼ぶのは、客観的に見れば上から目線の態度ですから、パワハラになりうるのです。

 

職場の人間関係や職場環境で、性について平穏に過ごす自由を侵害しうる行為をセクハラといいます。

彼女かいるかどうかは、聞かれるだけでドキドキします。ですからセクハラになるのです。

ましてや、言われた男性が同性愛者であれば、同性愛者であることがバレたのかと、大いに困惑することもあるでしょう。LGBTへの対応は、すべての企業に必須の取り組み課題なのです。

 

<失言で表面化する労働問題>

この例で、言われた部下がパワハラやセクハラを問題にすることは少ないでしょう。ハラスメントについての社員教育が不足していれば尚更です。

しかし、彼女のいない○○くんは、「彼女がいないのは出会いが無いからだ。毎日残業続きだし、休日出勤もあるし、有給休暇も取れないからだ」と思ってしまうかも知れません。

また、彼女がいる○○くんは、「今の年収では結婚もできないし、子供を設けるなんてとても無理だ。それに、家族と過ごす時間も確保できやしない」と考えるキッカケとなります。

 

上司の失言により、「会社のため、自分のため」と頑張ってきた○○くんは、考えを変えてしまう可能性があるのです。

何気ない一言が、人間関係や職場関係を悪化させ、労働問題が表面化します。

この例では、パワハラ、セクハラ、長時間労働、サービス残業、年次有給休暇の取得率、低賃金の問題について、法的に正当な主張を公式の場で展開する可能性が高まります。

 

<中小企業での対応>

社員教育が最善の対策です。

すべての点で、労働法に従った経営というのは困難です。有名な大企業であっても、しばしば労働法違反の報道がされています。あらゆる点で法律上の努力義務まで尽くしているという企業は稀です。

だからといって、法令を無視することはできません。日本は法治国家です。会社は、法律によってその存続が認められでいるのですから、アウトローでは生きていけません。罰則が適用されるようなことは慎まなければなりません。

結局、会社として対応すべきは対応して、社員とのコミュニケーションを密にして、適正な社員教育をすることです。

少なくとも、部下を持つ社員には失言させない教育が必要ですし、すべての社員にブラック企業の疑いを発生させないための教育が必要です。

 

2018.03.14.解決社労士

<誓約書とは>

誓約書とは、労働者が働くにあたって企業に対して負う義務の内容を確認し、義務に違反しないことを誓約する書面です。

万一義務違反があった場合には、一切の損害を賠償するという内容が含まれるのが一般です。

 

<誓約書の提出義務>

入社にあたって誓約書の提出を求めることは、長年にわたって広く一般化しています。

就業規則や労働条件通知書などに規定を置いて、誓約書の提出を採用条件としたり、採用後に誓約書を提出しないことを理由に採用取消としたりすることは、採用の時点でそのルールが知らされていれば違法ではありません。

ただし、採用の時点で説明が無かったにもかかわらず、採用後に誓約書の提出を求められた場合であれば、提出しないことを理由に解雇を通告するのは不当解雇になると解されます。

 

<誓約書の効力>

就業規則の一部を抜粋して順守を求める内容の誓約書であれば、元々守るべきことを再確認しているだけですから、ほとんど問題になることはないでしょう。

この場合は、誓約書を書かせることによって、労働者に心理的なプレッシャーを与えているだけのことです。つまり、心理的効果しか期待できません。

 

よく問題となるのは、労働者が退職後に同業他社への就職をしない義務を定めた誓約書です。

大前提として、労働者には職業選択の自由があります。〔憲法221項〕

しかし、この自由は絶対無制約ではありません。

そして、競業避止義務の誓約は、合理性を欠き公序良俗に反するときだけ、無効とされます。〔民法90条〕

 

実際の裁判では、次のような厳しい条件を満たす場合に限り、その誓約書は有効だとされています。

・その労働者が営業秘密に関わる業務に就きうること

・正当な目的によるものであること

・「同業他社」の範囲など制限の対象が妥当であること

・地域や期間が妥当に限定されていること

・特別な手当の支給など相当の代償が与えられること

 

2018.01.26.解決社労士

<身元保証とは>

身元保証というのは、労働者が企業に損害を与えた場合に、企業が確実に損害の賠償を得られるよう、労働者本人以外の第三者にも責任を負わせる契約です。

 

企業に大きな損害を与えやすい労働者といえば、正社員が思い浮かびますから、正社員限定で身元保証を求める企業が一般です。

しかし、契約社員、パート、アルバイトなどにも身元保証を求める企業もあります。これは企業の方針によって決めても良いことであって、不当なことではありません。

 

身元保証は、企業が確実に損害の賠償を得られるようにするための契約ですから、責任を負わされる身元保証人が、本人と全く同じ責任を負う連帯保証契約とするのが一般的です。

企業としては、安易に同居の親族を身元保証人にするのではなく、賠償責任を果たせるだけの資力・財産を備えた人物を選ばなければなりません。

一方で、身元保証人になることを依頼された場合には、親類だから、知り合いだからと安易に引き受けるのではなく、慎重に判断する必要があります。

 

<身元保証書の提出義務>

入社にあたって身元保証書の提出を求めることは、長年にわたって広く行われてきた企業一般の習慣です。

就業規則や労働条件通知書などに規定を置いて、身元保証書の提出を採用条件としたり、採用後に身元保証書を提出しないことを理由に採用取消としたりすることは、採用の時点でそのルールが知らされていれば違法ではありません。

ただし、採用の時点で説明が無かったにもかかわらず、採用後に身元保証書の提出を求められた場合であれば、提出しないことを理由に解雇を通告するのは不当解雇になると解されます。

 

<身元保証の法規制>

身元保証契約は連帯保証となっていることが多いため、身元保証人が多額の賠償金支払い義務を負ってしまうことがあります。

そこで、これを法的に規制するため「身元保証ニ関スル法律」によって、身元保証人の責任が軽減されています。

 

まず、身元保証契約は、期間を定めなければ3年間、期間を定めても最長5年間で終了します。

また、労働者に不審な行動や仕事内容の変化があったときは、企業から身元保証人に対して直ちにその事実を通知しなければなりません。これを受けて、身元保証人は契約を解除できます。

 

身元保証をしたからといって、実際に身元保証人が企業の全損害を負担することにはなりません。

企業は、損害の内容と損害額が明らかな限度でしか、身元保証人に責任を負わせることができません。

そして裁判になれば、企業側にも過失が無かったか、身元保証人が保証を引き受けた理由、労働者の仕事の変化など一切の事情を踏まえて、賠償額が決定されることになります。

 

2018.01.25.解決社労士

<業務委託契約の特殊性>

契約について基本的なことを定めている法律は民法です。

ところが民法はおろか、その他の法律にも業務委託契約についての規定はありません。

何か契約を交わす場合には、法律に具体的な規定があった方が、トラブルを避けることができて便利なはずです。

それなのに、あえて法律に規定の無い契約を交わそうとするのは、法律の適用を避け、自分に一方的に有利な取り決めをしようという意図があるのでしょうか。

 

<業務委託契約の内容>

業務委託契約という言葉からは、「業務を他人に委託する契約」ということしかわかりません。

学者たちは業務委託契約を、請負契約〔民法632条〕、委任契約〔民法643条〕、準委任契約〔民法656条〕などの性質をもつ契約だと考えています。

そして、実際の業務委託契約には様々なものがあって、「これは請負契約」「これは委任契約」というように明確に分類することが困難だとしています。

結局、業務委託契約書の条文ひとつ一つを具体的に解き明かさなければ、その内容を把握できないということになります。

わざわざこのような契約を交わそうとするからには、やはり何らかの意図があるものと思われます。

 

<イイトコ取りの契約書>

請負では欠陥の無い完全な成果物を提供しなければならないのに対して、委任ではベストを尽くした結果なら不完全でも責任を問われません。

また、請負では材料や費用を負担するのは業務を引き受けた側ですが、委任なら業務を委託する側の負担となります。

さらに、請負なら簡単には契約の解除ができません。しかし、委任ならいつでも契約を解除できます。

これらをふまえて業務を委託する側が、「業務の結果は完全でなければならない。費用はあなたが負担しなさい。私はいつでも契約を解除できるが、あなたから解除を申し出ることはできない」という内容の業務委託契約書を作ることもできてしまいます。

 

<名ばかり業務委託契約書>

業務を委託する企業と、業務を行う人との契約関係が、実質的には雇用契約〔民法623条〕なのに、契約書のタイトルが業務委託契約書となっていることもあります。

雇用契約(労働契約)であれば、労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働法による労働者の保護があります。

これを企業側から見れば、労働者の保護に対応した負担が発生することになります。

ブラックな企業がこの負担を避けるため、実質は雇用契約なのに「業務委託契約書」を交わして「あなたは労働者ではないので、社会保険や雇用保険には入りません。労災保険も対象外です。年次有給休暇も残業手当もありません」と説明することも稀に発生してしまいます。

それでも、雇われている人はクビになることを恐れて「おかしい」とは言えないものです。

このような場合には、あきらめずに行政の相談窓口や近所の社会保険労務士に相談していただけたらと思います。

 

2018.01.24.解決社労士

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