2022/09/24|1,406文字
<基本はプライベート>
多額の借金を抱えた社員が会社で働いていると、それだけで上司や同僚、人事部門の社員たちは大きな不安を覚えます。
それでも、借金というのは、会社からの借り入れでない限り、基本的にはプライベートなことです。
たしかに、プライベートなことであっても、会社の利益を害し信用を傷つける行為であれば、懲戒処分の対象となることはあります。
しかし、借金が多いことが発覚したからといって、それだけで解雇を検討するというようなことはできないのです。
以下、順を追って検討してみます。
<人事異動の検討>
多額の借金を抱えた社員が、お金を直接扱える業務に携わるのは好ましくありません。
人員配置の大原則である適材適所の観点から、経理、会計、財務、店舗のレジなどへの異動は避けなければなりません。
また、借金が発覚したときに、こうした業務に携わっていたならば、早期に別の業務に異動させることが望ましいといえます。
しかし、借金があることを理由に、降格、降職などを行うことは、人事権の濫用となり、その効果が否定される場合もあるでしょう。
<督促で会社に迷惑がかかっている場合>
借金の相手がサラ金業者などの場合には、会社にまで電話やファックスでの督促や嫌がらせがあったりもします。
時には、サラ金業者の従業員が直接、職場に押しかけてくるようなこともあります。
しかし、これは社員が借金したことの結果ではあっても、社員が違法・不当なことを行っているわけではありません。
むしろ、サラ金業者が貸金業法に違反する方法で督促を行い、嫌がらせまで行っているのです。
こうしたことで戸惑って、懲戒処分や解雇を検討するのは的外れです。
明らかに、懲戒権や解雇権の濫用となってしまいます。〔労働契約法第15条、第16条〕
<給与の差押が発生した場合>
債権者が裁判所で手続きをして、裁判所から会社に給与債権差押の命令が届くこともあります。
会社は、この命令に素直に従わなければなりません。
給与の一部を、指定された方法で支払うことになります。
このことによって、会社側に余計な事務手続きの手間は発生しますが、やはり、懲戒処分や解雇を検討するほどの大きな負担ではありません。
<破産した場合>
社員が破産しても、会社の業務に支障は出ません。
ちなみに、個人破産の場合、破産手続きをするのに十分な資力が無いなどの事情により、破産手続きの開始と共に終了する「同時廃止」となることが多いのです。〔破産法第216条第1項〕
この場合も、懲戒処分や解雇を検討すべきではありません。
<懲戒や解雇を考えるべき場合>
多額の借金を抱えた社員が、同僚や上司から借金をして具体的なトラブルに発展したような場合、あるいは会社の金品を横領したような場合には、当然に懲戒処分や解雇を検討しなければなりません。
しかし、これは借金を抱えた社員に限定されることではなく、すべての社員に共通することです。
<上司による指導>
多額の借金を抱えた社員が、その精神的な負担から、体調を崩して遅刻しがちになったり、業務に集中できなくなったりする恐れは大きいといえます。
上司としては、それをただ人事考課で評価すれば済むというのではなく、面談の機会を持ち、現在の生活ぶりや不安、借金を抱えるに至った事情など、本人から自発的に話してもらえるよう働きかけ、注意すべきところは注意する一方で、支えになってやる必要があるでしょう。