懲戒処分の社内公表

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<懲戒処分の目的>

懲戒処分を行う目的は、主に次の3つです。

 

1.懲戒対象者への制裁

懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

2.企業秩序の回復

会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

3.再発防止と労働者の安心

社員一般に対してやって良いこと悪いことの具体的な基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

1.の目的からすると、懲戒処分の対象事実や処分の内容を公表する必要はありません。

しかし、公表しなければ2.と3.の目的が果たされませんから、ある程度公表することは必要です。

 

東京地裁の判決で、「懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるのでない限り何ら不当なものとはいえないと解される」としています(東京地裁平成19年4月27日判決 X社事件)。

 

<名誉毀損の問題>

懲戒処分の対象となった事実や懲戒処分の内容を公表した場合に、それが真実であれば会社が責められる理由は無いだろうというのは素人の考えです。

名誉毀損について、刑法は次のように規定しています。

 

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

 

つまり、生きている人のことについては、真実であろうとなかろうと名誉を毀損することは犯罪になるということです。

こうして犯罪が成立しうるということは、損害賠償請求の対象ともなりうるということです。

 

東京地裁の判決で、懲戒解雇の事実や理由を公表することが適法とされるためには、公表行為が「その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合、すなわち、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用いて事実をありのままに公表した場合に限られる」としました(東京地裁昭和52年12月19日判決 泉屋東京店事件)。

そもそも、懲戒処分が労働契約法第15条により無効とされた場合は、公表が名誉毀損等の不法行為に当たることが多いといえます。

 

<必要最小限の社内公表>

前掲の泉屋東京店事件判決の基準によると、公表する側にとって必要やむを得ない事情があり、必要最小限の表現を用いて事実をありのままに公表した場合に限り許されることになります。

まず、懲戒処分対象者の氏名そのものや、所属・性別・年代など個人を特定できる情報は、これを公表することによる名誉権侵害は著しいので、基本的には許されません。ただ、懲戒処分を行う目的を果たすために、個人の特定が必要不可欠であるような例外的な場合にのみ許されます。

つぎに、懲戒処分の内容を公表することも、懲戒処分の目的である企業秩序の回復、再発防止、労働者の安心を図るために一定の範囲内で必要性が認められます。しかし、懲戒処分の理由を具体的に記載することにより、個人の特定が可能となってしまう場合には、やはり名誉毀損となる恐れが強まります。

さらに、被害者がいる場合には、被害者の名誉に対する配慮も必要となります。セクシャルハラスメントの事案で、ある程度詳細な事実を公表することで、処分対象者と被害者両方が特定されてしまい、被害者の名誉権が侵害されることにもなります。

 

<会社が責められないために>

就業規則には、懲戒処分の社内公表に関する規定を設けておくことが必要です。規定さえあれば、許されるわけではないですが、こうした規定があることは、裁判でも公表が相当であるという判断に傾く一要素となりえます。

また、公表の内容としては、「就業規則第◯条第◯項の『○○○○』に該当したため、第◯条第◯項の手続きに従い、第〇条第〇項の処分が行われました」というものに留めるのが得策です。

さらに、公表の方法としては、社内のイントラネットなどで「社外秘」として、1週間程度に期間を限定して行うという配慮も必要です。

 

2019.06.11. 解決社労士 柳田 恵一