均衡待遇の前提となる職務内容等の違い(働き方改革)

2022/03/22|1,972文字

 

<均等待遇と均衡待遇>

均等待遇は、職務内容等が同じであれば同じ待遇にするという意味で、平等の理念に基づきます。

平等の理念は、人々の共通する属性に着目して同じ扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

また均衡待遇は、職務内容等の違いに応じて異なる待遇にするという意味で、公平の理念に基づきます。

公平の理念は、人々の異なった属性に着目して違った扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

待遇の違いの大きさが、職務内容等の違いの大きさに比例して合理的に決定されること、つまりバランスが取れていることから「均衡」待遇と呼ばれます。

働き方改革で、「同一労働同一賃金」が言われていますが、ガイドラインや指針などから明らかなように、均等待遇だけでなく均衡待遇もその内容に含まれています。

むしろ、現実的には均衡待遇が「同一労働同一賃金」の中心的な内容となっています。

 

<均衡待遇の前提>

均衡待遇は、職務内容等が異なっていることを前提としています。

しかし、具体的に何がどう違っていれば、「職務内容等が異なる」と判断して良いか、法令上は必ずしも明確ではありません。

これを明確にするため、平成31(2019)年1月30日に詳細な通達が出されています。

ここでは、この通達に沿って、どのような場合に職務内容等が違うといえるのか、その判断基準について確認したいと思います。

 

<基本的な考え方>

短時間・有期雇用労働者について、正社員など通常の労働者と全く同じ、または一部同じであっても、所定労働時間が短いから、あるいは期間の定めがある労働契約を締結しているからというだけで、待遇が低く抑えられているのは不合理です。

そして、待遇の相違の合理性を判断する際の考慮要素として、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」、「その他の事情」が、法第8条に規定されています。

 

<職務の内容の同一性を判断する手順>

法に示された「職務の内容」とは、「業務の内容とその業務に伴う責任の程度」をいいます。

これは、労働者の就業の実態を表す要素の中で最も重要なものです。

そして「業務」とは、職業上継続して行う仕事であり、「責任の程度」とは、業務に伴って行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等をいいます。

 

「職務の内容」が同一といえるためには、まず業務の種類が同一でなければなりません。

これは、『厚生労働省編職業分類』の細分類を目安として比較し、この時点で異なっていれば「職務内容が同一でない」ということになります。

 

次に、比較対象となる通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務を、業務分担表、職務記述書等により個々の業務に分割し、その中から「中核的業務」をそれぞれ抽出します。

「中核的業務」とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、その職務を代表する中核的なものを指します。

これは以下の基準に従って、総合的に判断されます。

 

【中核的業務】

① 与えられた職務に本質的または不可欠な要素である業務

② その成果が事業に対して大きな影響を与える業務

③ 労働者本人の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務

 

こうして抽出された「中核的業務」を比較し、同じであれば、業務の内容は「実質的に同一」と判断され、明らかに異なっていれば「異なる」と判断されます。

 

最後に、両者の職務に伴う責任の程度が「著しく異なって」いないかをチェックすることになります。

このチェックにあたっては、以下のような事項について比較します。

 

【責任の程度】

① 授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範囲等)

② 業務の成果について求められる役割

③ トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度

④ ノルマ等の成果への期待の程度

⑤ 上記の事項の補助的指標として所定外労働の有無及び頻度

 

例えば管理する部下の数が一人でも違えば「責任の程度が異なる」と判断するのではなく、責任の程度の差異が「著しい」といえるものであるかどうかを見なければなりません。

なお、いずれも役職名等外見的なものだけで判断せず、実態を見て比較することが必要です。

 

以上の判断手順を経て、「業務の内容」と「責任の程度」の両方について、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とが同一であると判断された場合が、「職務の内容が同一である」ということになります。

 

<説明資料として>

短時間・有期雇用労働者から「同一労働同一賃金に反するのではないか」という疑問を提示された場合には、職務の内容が同一ではないことなどを会社が説明しなければなりません。

上記の判断手順に従って、職務の内容の同一性を確認しておくことは、こうした場合の説明資料を準備しておくことにもなります。

PAGE TOP