働き方改革と労働基準法第1条の役割

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<労働基準法第1条>

労働基準法第1条には、労働条件の原則が定められています。

法令の第1条には、その法令の目的が掲げられていることが多く、この条文も労働基準法全体の目的を示しているとみることができます。

 

【労働条件の原則】

第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

2 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 

この条文を素直に読めば、「人たるに値する生活を営むための必要」というのは、人間らしい生活をするのに必要な収入が得られることを意味しているでしょう。

また、「労働条件を低下させる」というのは、賃金の実質的な時間単価を低下させることを意味するものと考えられます。

このことからすると、時間外労働や休日労働は割増賃金となりますから、労働者が希望して積極的に残業や休日出勤を行い、より多くの賃金を獲得するのは労働基準法第1条と矛盾するものではないでしょう。

ところが、労働基準法は改正され、平成31(2019)年4月1日から一部の事業・業務と中小企業を除いて、残業時間の上限規制が行われます。

生活費を残業手当に頼っていた労働者にとって、この法改正は「労働条件を低下させる」ことにならないのか、「人たるに値する生活を営むための必要」を満たさなくなるのではないかという不安をもたらし兼ねないものです。

 

<憲法との関係>

労働基準法が制定されたのは、日本国憲法第27条第2項の規定を受けてのことです。

 

第二十七条 2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

 

また、労働基準法第1条が「人たるに値する生活」と言っているのは、日本国憲法第25条第1項の「健康で文化的な最低限度の生活」を受けてのことでしょう。

 

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 

第二次世界大戦が終わったのが昭和20年、日本国憲法の公布が昭和21年、労働基準法の公布が昭和22年です。この当時、「人たるに値する生活」「健康で文化的な最低限度の生活」という言葉の解釈として、経済的な側面が中心になったのは当然のことでしょう。

 

<働き方改革との関係>

過労死、過労自殺、メンタルヘルス不調といった問題がクローズアップされ、過重労働や長時間労働の予防が急務となっています。

割増賃金さえきちんと支払えば、企業が労働者をどれだけ働かせても問題ないとは考えられない時代になりました。長時間労働は解消されなければなりません。

しかし残業手当が減って、労働者の賃金の時間単価が減ったのでは、労働基準法第1条第2項が労働関係の当事者に「労働条件を低下させてはならない」と命じていることに違反してしまいます。この条文は、労働関係の当事者である使用者と労働者の両方に、労働条件の向上を図るように努めなさいと言っているのですから、労使で話し合って、労働時間を減少させつつ売上や利益が減少しないように工夫することが求められています。

このように、労働基準法第1条の「人たるに値する生活」「労働条件」の意味合いは、経済的な側面だけでなく、社会的な側面や健康的な側面に拡大されてきたとみることができるでしょう。

 

2019.01.02.解決社労士