2021/10/05|1,405文字
労災事故と被災者本人の過失
<労災保険の適用>
労災認定にあたっては、被災者本人の過失は問題とされず労災保険が適用されることになります。
仮に、被災者本人に過失があれば労災保険は適用されないのだとすると、労災保険は適用範囲が著しく制限されてしまいますから、制度そのものの存在意義が薄れてしまいます。
ところが現実には、被災者本人の不注意を反省させる意図があってか、上司から「自分の過失だから労災にはならない」という誤った説明が行われることもあるようです。
<労災事故の発生原因>
労災事故の発生原因として、その責任の所在から考えると次のようなパターンが考えられます。
・被災者本人に過失がない場合
・被災者本人にも使用者にも過失がある場合
・被災者本人だけに過失がある場合
・被災者本人が故意にケガをする場合
なお、通勤災害については、被災者本人の過失の他、道路の管理者、鉄道会社、バス会社などの落ち度が考えられます。
使用者の過失というのは、ほとんど問題にされることがありません。
<被災者本人に過失がない場合>
まず、使用者側に責任がある場合として、滑りやすい床の上で作業するにあたって会社から支給された靴を履いていたが、その滑りやすさから会社に改善を求めていたが拒否され、実際に事故が発生してしまったなどのケースが想定されます。
あるいは、設備の安全点検が不十分で、天井からの落下物によりケガをするケースも考えられます。
また、酔ったお客様から理由なく突然に暴行を受けて転倒しケガをするような第三者行為災害もあります。
これらの場合には、「自分の過失だから労災にはならない」という誤った説明がなされることは稀でしょう。
<被災者本人にも使用者にも過失がある場合>
これが労災事故では最も多いでしょう。
たとえば、被災者本人の過失が認められるものの、適切な指導教育が不足していたり、危険個所に危険を知らせる表示が無かったりと、使用者側にも落ち度がある場合です。
使用者としては、被災者本人の過失のみに注目して「自分の過失だから労災にはならない」という誤った説明が行われやすいケースです。
しかし、きちんと労災の再発防止を考えた場合には、使用者の行うべきことが数多く見つかりますので、被災者本人の過失に片寄って責任が追及されることは少なくなります。
<被災者本人だけに過失がある場合>
設備、機械、器具などに安全上の問題点はなく、被災者本人に対する指導教育も十分で、危険個所の表示も適切であって、本人の不注意以外に原因が見当たらないような場合もあります。
被災者本人がルールを無視して行動し被災してしまう場合や、椅子を傾けて座っていて椅子ごと倒れてしまう場合などが考えられます。
このような場合であっても、労災認定され労災保険が適用され給付が行われるのが一般です。
<被災者本人が故意にケガをする場合>
一般には、労災保険の適用対象外となります。
しかし、過重労働やパワハラなどによって、被災者本人が精神障害に陥り自傷行為に及んだような場合には、労災事故と認定されることがあります。
<労災の判断権者>
そもそも事故が起こってケガ人が出た場合に、それが労災となるかどうかの判断は、所轄の労働基準監督署(労働局)が行います。
使用者や被災者本人の判断が、そのまま有効になるわけではありません。
労災認定について疑問がある場合には、労働基準監督署や社会保険労務士に相談することをお勧めします。