定期健康診断をサボる社員への対応

2022/11/26|1,726文字

 

<法令の規定>

労働者は事業者が行う健康診断を受けなければなりません。〔労働安全衛生法第66条第5項〕

しかし、この義務に違反しても罰則はありません。

こうしたこともあって、のらりくらりと健康診断から逃げようとする人もいます。

 

<逃げる人の言い分>

健康診断を嫌がる人に理由をたずねたら、次のような答えが返ってきました。

・血を採られたり、レントゲンを撮られたりが、何となくイヤ。

・バリウムを飲むのも、その後も苦しい。

・何か病気が見つかると怖いから受けたくない。

・健康体ではないことが会社にバレると上司から叱られる。

・かなり健康状態が悪いので、会社から退職を迫られるかもしれない。

 

<労働基準監督署に相談したら>

健康診断をサボる社員への対応について、労働基準監督署に相談したことがあります。

「きちんと健康診断が受けられる準備を整え、社員ひとり一人への案内もしていることを示す証拠をきちんと残しておけば、会社が責任を問われることはありません。もし、労基署が監督に入ったら、そうした書類などを提示できるようにしておいてください。」という回答でした。

会社が責任を負わされないように相談したのではなく、心から社員の健康が心配で相談したのですが…

 

<ペナルティーを科す>

総務や人事など健康診断の担当部門からではなく、サボる社員の上司から注意してもらう方法もあります。

小さな会社なら、社長から直々に注意してもらうのも効果があります。

また就業規則には、健康診断の受診義務を明記し、かかわる人の守秘義務や個人情報の保護についても規定しておきましょう。

これを前提として、始末書を書かせ反省を求める程度までなら、懲戒処分に必要な客観的合理的理由や社会通念上相当性はあると思います。

10人未満の会社では、就業規則の作成は義務づけられていません。

しかし、健康診断についてまで労働条件通知書(雇い入れ通知書)あるいは雇用契約書(労働契約書)といった労働者への交付義務がある書類に書いておくのは、細かすぎて面倒です。

やはり、就業規則を作ったほうが便利でしょう。

 

<教育の強化>

健康診断をサボる社員が1人や2人なら、ある程度の説得によって、しぶしぶでも受けるようになるでしょう。

しかし、対象者の1割以上が受けないようであれば、サボるにしても気が楽です。

サボっているのは自分だけでないですし目立ちませんから。

この状態は、会社から社員への健康診断の重要性や受診義務についての教育不足を反映しているといえるでしょう。

会社には健康状態の悪い人を悪化させないように注意する義務があります。

この義務を果たすには、社員全員が健康診断を受けることが前提となっています。

社員は、労働者として、これに協力する義務があるわけです。つまり、労働契約に付随する義務です。

 

<人事考課への反映>

健康診断の結果が悪いからといって賞与を減額したり、役職を外したりというのは不当です。

健康診断後の精密検査などを加味して、産業医の先生が異動を勧めたとか、本人から異動の希望が出されたとか、現に業務をこなせない状態であるとか、特別なことがない限り、健康診断の結果だけで本人に不利な扱いはいけません。

なぜなら、仕事のストレスや過労で健康を害しているケースも多く、この場合には会社にも大きな責任があるのですから。

ただ、健康診断をサボるという客観的な事実を理由に、マイナス評価することは程度の問題もありますが、ある程度許されることです。

たとえば、直近3回の健康診断を正当な理由なく受診していない場合には、課長昇格の候補者には入らないなどの基準を設けることは可能です。

健康管理に無関心で、会社に非協力的な社員を課長に昇格させるのも適切ではないでしょう。

 

<解決社労士の視点から>

「サボるのは本人が悪い」と言うのは簡単です。

しかし、本人を責めるだけに終わらせず、会社にできることはきちんとしましょう。

会社にも責任があるのですから。

また、健康診断の結果が悪いというだけで解雇するというのは、ほとんどの場合に不当解雇となりますから、解雇の通告は無効となり、損害賠償の問題ともなります。

困ったときには、各分野の専門家に相談することをお勧めします。

 

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