2022/06/02|1,642文字
<解雇無効の主張>
試用期間中に時間が守れない、パソコンも使えない、当然本採用は見送りということで、試用期間終了をもって退職とした社員の代理人弁護士から「解雇は無効であり労働者の権利を有する地位にあることの確認を求める」という内容証明郵便が会社に届くということがあります。
ネット上でも、こうした情報が増えるにつれ、不当解雇の主張も増えているようです。
「いや、うちの会社はすべての新人に試用期間を設け、試用期間の評価によっては本採用とならず退職となることをきちんと説明している」と言っている会社が、実際に解雇無効を主張される結末になっているのです。
<ひな形の規定>
これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。
あるひな形には、次のように書いてあります。
(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、この期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第49条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。
この条文は、次のことを言っています。
・試用期間を○か月とするが、短縮したり無しにすることがある。(しかし延長は無い)
・入社して14日を超えた人を解雇するときは、第49条2項に定める手続き(30日以上前の予告、解雇予告手当)が必要である。
この「第49条2項」というのがクセ者です。
そんなに後の方に書いてあることは読まずに済ませてしまう危険があるのです。
<注意書き>
実はこのひな型には、次のような注意書きがあります。
試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告するか、又は予告の代わりに平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります(労基法第20条、第21条)。
専門家ではない人が、この大事な注意書きを読み飛ばしてしまいます。その結果、思わぬ事態を招いてしまうのです。
<実例として>
新入社員のAさんが、就業規則で定めた3か月の試用期間終了近くなっても、電話応対がきちんとできません。
同じ職場のメンバーの顔と名前が覚えられず、自分から挨拶できません。
社長が「せっかく入社したのだからもう少し様子を見よう」という特別の計らいで、もう1か月だけ試用期間を延長したのですが、結局、Aさんは不適格者ということで、解雇となってしまいました。
「大変ご迷惑をおかけしました」と挨拶して会社を去っていったAさんの代理人から「解雇は無効である。一方的に試用期間を延長されたことに対する慰謝料も支払え」などという内容証明郵便が届きます。
この場合、会社としては就業規則に無い試用期間の延長や、解雇予告手当を支払わずに解雇したことについて、法令違反や就業規則違反があったのです。
<こうして使いましょう>
困ったことにならないようにするには、2つのポイントがあります。
1つは、試用期間を定めたら延長しないこと。
そのためには、本採用とするための条件を書面で明らかにして、会社と新人とが保管することです。
たとえば「遅刻・欠勤が無いこと。基本的な電話応対を身に着けること。身だしなみを整えること。業務の報告は確実に行うこと」などです。
試用期間内にクリアする条件を明確にすれば、温情的な延長も防げます。
もう1つは「ちょっと無理かな」と思ったら、試用期間が終わるまで待たないで、14日以内に解雇することです。
長引けば、その新人の転職のチャンスも遠のきます。
もちろん、こうしたドライな対応をする前提として、募集・選考・採用の精度は高めておかなければなりません。
試用期間中の教育訓練も、スケジュールに沿って着実に行わなければなりません。
人は見極めて採用し育てることが肝要なのです。