2022/01/24|1,016文字
年次有給休暇が会社に勝手に使われた
<時季指定権と時季変更権>
同じ会社の同じ部署で、一度に多数の労働者が相談のうえ、同じ日を指定して年次有給休暇を取得しようとするのは権利の濫用です。
このように事業の正常な運営を妨げる場合には、会社は時季変更権を行使することができます。
【労働基準法第39条第5項】
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。 |
<権利の濫用>
出勤日当日の朝に、従業員が上司にメールで「休みます」と連絡し、後から「あれは有給休暇です」と言っても、多くの場合、会社は有給休暇の取得を拒否できます。
なぜなら、会社の時季変更権を侵害してしまうからです。
そもそも年次有給休暇などの権利を保障する労働基準法は、憲法に基づいて制定されました。
【日本国憲法第27条第2項:勤労条件の基準】
賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。 |
そして憲法自身が、権利を濫用してはならないと定めています。
【日本国憲法第12条:権利濫用の禁止】
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 |
ここで、「公共の福祉」というのは、時季指定権と時季変更権のような対立する権利間の調整を意味します。
自分の権利の主張が、相手の権利を侵害する場合には、権利の濫用とされることがあるのです。
<権利の濫用とはいえない場合>
出勤日当日の朝に、従業員が上司に電話で「母が自宅で意識を失い救急車で病院に運ばれました。私も救急車に同乗して今病院にいます。有給休暇の取得ということにできませんか」と連絡した場合は、権利の濫用とはいえないでしょう。
従業員は有給休暇の取得にあたって、理由を述べる必要は無いのですが、みずから特別な理由を明らかにして申し出た場合には、会社も取得を認めるルールが必要でしょう。
たとえば、就業規則に「私傷病により勤務できない場合の欠勤、その他やむを得ない事情による欠勤は、申請によってこれを年次有給休暇に振り替えることを認める場合があります。振替は所定の用紙に記入するものとします」というような規定を置くと良いでしょう。