過労死等事案の労災認定指針(令和4年度)

2022/03/06|1,824文字

 

労災を判断するのは会社ではない

 

<通達の発出>

令和4(2022)年2月15日、厚生労働省大臣官房審議官(労災、建設・自動車運送分野担当)から都道府県労働局長に宛てて、令和4年度の労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項についての通達が発出されました(労災発0215第1号)。

この通達の中で、過労死等事案の的確な労災認定について説明されています。

 

<労働時間の的確な把握>

労働時間は、脳・心臓疾患での業務の過重性や精神障害での業務による心理的負荷の強度の評価について重要な要因です。

ですから、その的確な把握・特定は、適正な労災認定に当たり必要不可欠なものです。

そして、労災認定のための労働時間は、労働基準法第32条で定める労働時間と同義であり、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができる時間」か否かにより客観的に定まるものです。

このことに留意の上、労働者の労働時間については、使用者の指揮命令下にあることが認められる時間を的確に把握することが必要です。

その際、タイムカード、事業場への入退場記録、パソコンの使用時間の記録等の客観的な資料を可能な限り収集し、上司・同僚等事業場関係者からの聴取等を踏まえて事実関係を整理・確認し、始業・終業時刻や休憩時間を詳細に特定した上で、令和3(2021)年3月30日付け基補発0330第1号「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」を参考に的確に把握することとしています。

なお、労働時間関係資料等客観的な記録が存在しない場合でも、聴取内容等から労働者が使用者の指揮命令下で実際に労働していたと合理的に推認される場合には、監督部署と協議の上、その時間を労働時間として特定し、適切な認定に努めることとしています。

また、個々の事案で労働時間の特定に当たっては、平成30(2018)年3月30日付け基監発0330第6号、基補発0330第5号(令和3(2021)年9月15日改正)「過労死等事案に係る監督担当部署と労災担当部署間の連携について」に基づき、関係者の聴取等の必要な調査を行い、監督部署と協議を行った上で、労災部署において的確に労働時間を特定することとしています。

 

<過労死等事案での関係部署との連携>

過労死等事案は、その発生防止対策が重要なため、労働基準監督署では労災部署と監督・安全衛生部署との緊密な連携を図り、厚生労働省とも情報の共有を図ります。

また、労働局は情報共有等の状況を的確に把握し、労働基準監督署に対し必要な指示を行い、社会的に注目を集める可能性の高い事案については、厚生労働省への所要の報告を確実に行います。

 

<労災認定基準の適切な運用>

脳・心臓疾患の労災認定基準については、令和3(2021)年9月14日付けで「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」により改正された内容に基づき適切に対応することとします。

特に、労働時間の長さは、過重性の評価の最も重要な要因であること、また、一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることが明確にされたことを踏まえ、労働時間以外の負荷要因については、新たに追加・拡充をした項目を含め、十分に調査し検討を行うこととします。

精神障害の認定基準は、主治医意見により判断すべき事案、地方労災医員等の意見により判断すべき事案、専門部会意見により判断すべき事案を示しています。

労働局は、労働基準監督署に対して医学意見の収集方法について、適切な指導を行うこととします。

パワーハラスメントによる精神障害事案については、上司、同僚等からの聴取等の調査を尽くした上で、業務による出来事の事実認定を行うことが重要です。

このため、可能な限り第三者から聴取を行う等により、業務上必要性がない又は業務の目的を逸脱した言動等の有無につき、確認を行った上で、心理的負荷の評価を適切に行います。

 

<解決社労士の視点から>

多くの企業で、過重労働やパワハラの防止など、脳・心臓疾患や精神障害を防止するための対策が進みつつあります。

しかし、過労死等の労災防止対策には、労働時間の的確な把握が基本となります。

労働時間の自己申告の正確性、持帰り仕事、勤務時間外のメールや電話、テレワークでの労働時間管理など、的確な把握を妨げる事情も多々あります。

労働時間の適正な把握についても、対策を強化していただけたらと思います。

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