業務命令違反だと断定してしまうリスク

2022/01/20|1,435文字

 

証拠不足で懲戒解雇

 

<業務命令違反の性質>

厚生労働省のモデル就業規則最新版(令和3年4月版)には次の規定があります。

 

第10条:服務

労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。

 

第66条第2項本文、第4号:懲戒の事由

労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。(以下省略)

4 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。

 

労働契約では、会社の指示・命令に従って働くことが当然の内容となっていますので、正当な理由なく、業務上の指示・命令に従わないのは、労働者の債務不履行となります。

これが繰り返されるのであれば、就業規則に規定が無かったとしても、少なくとも普通解雇の対象となります。

また場合によっては、懲戒解雇も有効となることがあります。

 

<業務命令違反認定のむずかしさ>

日本での職場マナーや日本語の特質により、会社からあやふやな業務命令が出されたり、これに対して労働者があやふやな回答をしたりということが多発します。

このため、紛争に発展し訴訟となった場合には、裁判所が「業務命令があったとはいえない」「業務命令を拒否したとはいえない」などと判断することも、決して珍しくはないのです。

 

<あやふやな業務命令の例>

次の事例は「業務命令・業務指示には該たらない」と裁判所が判断したものです。

・繰り返し土曜日出勤を要請していたのが、任意の協力を求めたものか、会社の業務命令か不明確なので、これを拒否することは業務命令違反とまではいえない。

・高等学校の校長が、副担任を務める教員に対し担任就任を打診したのは、明確な業務命令として担任の職を命じたとまでは認められない。

・調理の業務を行っている従業員に対し「残業削減のためメニューを減らしてもいい」と何度も注意したのは、メニューを減らす/減らさないが、従業員の選択に任されているので、業務指示には該たらない。

これらの場合、会社としては業務命令・業務指示をしたのだと主張しているのですが、裁判所がこの主張を退けているわけです。

 

<あやふやな回答の例>

一方で、次の事例は「業務命令拒否・業務指示拒否には該たらない」と裁判所が判断したものです。

・業務指示に対して「なぜ私がしないといけないんですか?」「就業規則のどこに書いてありますか?」と質問を返して業務に着手しなくても、指示に対する拒否とまではいえない。

会社としては、業務命令の拒否があったものと判断しているわけですが、裁判所は会社が疑問に応え説明すべきだったと判断しています。

 

<実務の視点から>

会社が従業員の業務命令違反を問題にするのは、懲戒や解雇を検討しているような場合が多いと考えられます。

対象従業員に対するイメージから、懲戒や解雇の結論が先行して、後付で理由を探るようでは、冷静な判断がむずかしくなってしまいます。

懲戒や解雇では、客観的に合理的な理由が存在すること、社会通念上相当であると認められることが有効要件となります。〔労働契約法第15条、第16条〕

「正当な理由なく業務命令に従わなかった」といえるためには、明確な業務命令があったこと、業務命令の内容が適法であり就業規則や個別の労働契約にも反していないこと、明確な業務命令拒否があったことなど、いくつもの事実が認定されなければなりません。

まずは、十分な指導を行いつつ、客観的な資料を残していることが前提といえるでしょう。

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