2025/03/03|1,581文字
<労働条件通知書>
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。〔労働基準法第15条第1項〕
そして、厚生労働省令で定める事項について、使用者が漏れなく明示できるよう、厚生労働省は労働条件通知書の様式をWordとPDFで公表しています。
常に最新の様式をダウンロードして利用していれば、法令の改正にも対応できます。
「労働条件通知書」という文書名からも、「明示」が目的であることからも、使用者から労働者への一方的な通知であることは明らかです。
労働者の氏名は、宛名として表示されていますが、署名欄はありません。
使用者は、これを1部だけ作成して労働者に交付すれば、労働条件を明示したことになります。ただし、これだけでは使用者の手元に控えが残りません。
この通知書に記載された内容について、労働者が疑問を抱けば、使用者に説明を求めることになります。
<雇用契約書>
労働契約(雇用契約)は口頭でも成立しますから、契約書の作成は義務ではありません。
ただ、使用者が労働者に労働条件通知書を交付しても、紛失されたり、知らないと言われたりしたら困るので、契約書を作成したほうが安心とも言われます。
契約書は2部作成し、労使双方が署名(記名)・捺印して、1部ずつ保管するのが通常です。
雇用契約書には、労使双方の意思表示が合致した内容が記載されています。
ですから、意思表示が合致して契約書が交わされた後、記載内容について疑問が生じるのは困るのですが、この場合には、労使双方が誠意をもって協議し内容を確定することになります。
<労働条件通知書兼雇用契約書>
労働条件通知書と雇用契約書の両方を作成するのは面倒ですから、法令によって明示が義務付けられている項目をすべて含む形で雇用契約書を作成し、労働条件通知書を兼ねるということも行われます。
しかし、一方的な通知と合意の内容を1つにまとめるというのは、論理的な矛盾をはらみます。
書類の内容について疑問が発生した場合には、使用者側が説明すれば足りるのか、労使で協議が必要なのかは不明確です。
ここに紛争の火種を抱えることになりそうです。こうした危険な書類のひな形は、社会保険労務士ではないしろうとが使います。
<労働条件通知書を用いる場合の不都合解消>
労働条件通知書には、労働者の署名欄は無いのですが、これを設けたら無効になるというわけではありません。
末尾に「上記について理解しました。疑義があれば本日より2週間以内に申し出ます」という欄を設け、日付、住所、氏名を自署してもらうこともできます。
そしてコピーを会社の控えとする旨を説明し、原本をご本人に渡せば、後から「知らない。忘れた」という話も出てこなくなるでしょう。
この書類には、就業規則のある場所も明示しておくことをお勧めします。就業規則を周知していることの証拠となります。
<雇用契約書を用いる場合の不都合解消>
この場合の不都合としては、契約書内の記載について疑問が発生した場合には、労使が相談して内容を確定することになるという煩わしさです。
このことが紛争の火種ともなってしまいます。
ですから、判断が必要な項目については、「会社の判断により」という言葉を加えておく必要があるでしょう。
たとえば、試用期間中に「しばしば遅刻・欠勤があった場合には本採用しない」という内容があれば、「しばしば」に判断の幅が発生してしまいます。
ここは「しばしば遅刻・欠勤があったと会社が判断した場合には本採用しない」といった文言にしておき、不合理な解釈でない限りは、本採用の基準を会社のイニシアティブで決定できるようにしておくのです。
労働条件通知書を使用するにせよ、雇用契約書を使用するにせよ、紛争の火種を抱えないよう、ひな形に一手間加えることをお勧めします。