2022/08/08|1,077文字
<懲戒処分についての法律>
使用者が労働者を懲戒できる場合でも、その労働者の行為の性質、態様、その他の事情を踏まえて、客観的に合理的な理由を欠いている場合、または、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります。〔労働契約法第15条〕
つまり、就業規則に具体的な規定があるなど、懲戒処分を行うための他の条件がすべて満たされていたとしても、「客観的に合理的な理由がある」「社会通念上相当である」という2つの条件を満たしていない場合には、懲戒権の濫用となり、その懲戒は無効だということです。
これは、数多くの裁判の積み重ねによって作られた「懲戒権濫用法理」という理論を条文にしたものです。
<懲戒権濫用法理>
労働契約法第15条には2つの条件のみが示されています。
しかし裁判では、次のような条件すべてを満たしていないと、懲戒権の濫用とされ、懲戒処分が無効となって、会社が懲戒対象者に対して損害賠償の責任を負うことがあります。
・懲戒対象者の行為と懲戒処分とのバランスが取れていること。
・不都合な事実が発生した後で懲戒処分の取り決めができたのではないこと。
・過去に懲戒処分を受けた行為を、再度懲戒処分の対象にしていないこと。
・懲戒対象者に事情を説明するチャンスを与えていること。
・嫌がらせや退職に追い込むなど不当な動機目的がないこと。
・社内の過去の例と比べて、不当に重い処分ではないこと。
<証拠不十分で行った懲戒解雇>
懲戒処分の理由となる事実が真実かどうか確認できないうちに、懲戒解雇とした場合には、それが不当とされ無効となるのでしょうか。
この場合には、最初に示した労働契約法第15条の「客観的に合理的な理由」が問題となります。
「ある店舗の従業員がお客様に暴力を振るった」というウワサが広まったとします。
被害者が誰なのかわかりませんし、警察が捜査する動きも見られません。
この時点で、懲戒処分を行うのは不当です。
社内に嫌いな人がいたとき、その人について悪いウワサを流せば会社に処分してもらえるとしたら恐ろしい話です。
ウワサは「客観的に合理的な理由」にはならないのです。
しかし、警察の捜査が始まり、送検されたことが新聞に掲載されたという段階では、全体の事情から「客観的に合理的な理由」があるといえます。
この場合、後で無実が証明されたとしても、会社は不当な処分をしたことにはならず、損害賠償を請求されることもないでしょう。
犯罪行為が疑われる場合の懲戒処分について、就業規則に定める場合には、その条件を明確に示しておきたいものです。